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母からの電話② 拒絶のヒストリア(文章)
先日、母から電話があり、ゲイとして専業主夫になったことがばれた。
しかし、意外にも許容された。
「時代が受け入れるようになったものね」
母は言った。
僕はそう思っていない。
「生理的に嫌」という感情がある限り、倫理観が薄まれば差別は復活する。
その時、どう生きるか。
当事者は常に想像する必要がある。
・・・と。
僕の意見にうなずき、母はずっと言えなかった告白をした。
それは、同性愛者の息子を拒絶した理由でもあった。
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「それは、そうかもしれないわね」
先日の母との電話との会話。
差別は数年周期で起こると持論を展開した僕への、母の返答である。
母の告白。
それはあまりに唐突で、空気のようだった。
「私にもわかる気がするわ」
そして母は話し始めた。
母は小さい時(小学低学年)に親族内で悲惨な事件が起き、被害者家族として世間から差別を受けていたという。
詳細には書けないが、初めて聞いた。
「被害者はとても立派な人だったのよ。被害を受けるような人じゃない。でも世間は、" やられた方にも非があったのではないか " という目で見てね」
母の少し震えた声。
はじめて聞くような声だった。本人は冷静に話せているようだったが、息子である僕にはわかった。
人間関係のもつれ。
思い出さないようにして、でも微かに頭の中で映像になってしまう。
それを振り切って話をしている感じだった。
「差別をする人って、事情を知らない離れたところに住んでいる人」
差別するのは、知識がない人――
「近所の人は優しかった。事件前から、私たち家族の大変なやり取りを見ているから」
共に生きるのは、知識のある人――
僕が大学生のとき、母は好きな人と結婚できなかったと話してくれたが、母子家庭が理由で断られたと言っていた。しかし、この事件によってのことだった。
「この前、おばあちゃんが亡くなって、田舎の家を取り壊したでしょ」
母の生家は田舎にあった。地方だが、それでも中心地から相当電車を乗り継いで、コンビニもスーパーもないような場所である。
おばあちゃんの家の整理に手伝いに行った。
5年ほど前だったろうか。
「弟がね、言ったのよ。姉ちゃん、この前家を取り壊しに来た業者が「ここは人殺しがあった現場でしたね」と言ったよと。俺は何十年前の話をするんだとびっくりした、って。」
僕は、取り壊し業者のモラルのなさには腹が立ったが、人間の心理とはそんなものかとも分かっていた。
自分自身が、毎日、それを経験しているのだから。
「弟も若い時分に結婚を申し込もうとしたら「あなたは友達だと思っている」と恋人に言われたと。事件のあった家族だからって意味よね。ついこの間よ、そんな昔の話してくれたの。驚いちゃった。私と同じだった。」
おじさん(母の弟)は、本当に仕事が出来る人で、大企業のエリートだった。今は定年退職しているが、とても頭の切れる人である。
でも、あまり好きではなかった。
けれど、今なら、なぜだろう。
なんとなく、その理由がわかる気がする。
それは、「自分の事を好きになりきれない自分」をどこか持っている感じ。
承認欲求が底抜けに強い感じ。
その危うい感じを、母にもおじさんにも感じて、気味が悪かったのだ。
僕も同じだ。
「何年たってもね、差別ってなくならないものよ」
僕がカミングアウトの続きをしようとして、母によく言われた言葉。
改めて聞くと、背筋が凍る。
「当人たちはとても素晴らしい人でもね」
・・・と、母はいままでと違う言葉を付け足した。
41年間、息子に話せなかったことを話した安堵からか。
どこか自任できたのかもしれない。
でも、僕たちのことを「素晴らしい人」とも言ってくれたようで、特別な言葉にも感じられた。
母は、百姓の子である今の父とお見合い結婚をした。
父と母は、お見合い当日に初対面で、そんな時代である。
父と母が結婚しなかったら、僕は生まれなかった。
事件が起きなければ、僕は生まれなかった。
でも、生まれた僕はこんななんだ。
「なんで生んだの、なんて思ったことないよ」
なんで、生まれて来たんだろう。
消えたい。
若い時は、毎日そう思っていた。
" なんで生んだの、なんて思ったことないよ "
こんな言葉嘘っぱちだ。でもなんだろう。
今は、あながち嘘でもない。
好きな人と結婚できなかった母。
好きな人(男性)と一緒になれた息子。
「何が幸せか、わからないものね」
受け容れてくれたのか。
優しい母の声が、電話を切った後も心に残った。
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