同性パートナーからの贈り物(②母へ)※文章のみ
※↓のつづき
無事、父に、ボコさん(同性パートナー)の贈り物を渡すことができた。
父にお別れを告げ、施設を出る。
外はすっかり暗くなって、近くの道路は、自転車や車のライトがせわしい。
母「夕飯どうする?サイゼリアなら出すわよ」
サイゼリアに到着。
「えびのサラダ」「スープ」「ハンバーグ」を頼んだ。
僕は「ライス大盛り」を頼んで、2割ほどを母にあげていた。涙ぐましい節約術である。父の入居費は赤字運転なのだ。
僕と母は、ご飯を食べながら、よく政治や社会の話で盛り上がる。
ひとしきり話をした後、ふと「偏見」の話題になった。
母は幼少期に家族を他人に亡くされ、被害者家族として社会から白い目でみられた過去を持つ。
「被害者にも非があったのではないか」という「偏見」。そして母とその兄弟姉妹たちは縁談を断られるなどの実害の中、生きた。
母「こっち何も悪い事してないのにね」
僕「僕だって、同性愛者として白い目で見られて、分かるよ。自分で選んだわけでない、悪い事をしたわけでもないのに、変な奴らに権利を与えるな、みたいに言われる。自分も子供のころは、ゲイっていうと、何か宗教団体のような、危ない集団のように思ったけど、あれも偏見が影響してたと思う。」
母「そうね。でも私思うの。自分がああゆうの経験して。偏見も仕方ないなって。その気持ちもわかるの。」
僕「気持ちはわかるけど、そういう人を理解したくない」
(・・・お母さん。偏見されて生きてきた人が、僕を偏見してるじゃない)
母「それはそうだけど、わかるのよ。」
(しかし、目の前の人は、僕の母親だ)
サイゼリアを出る。
近くのパン屋が半額になる時間らしい。
おいしそうなパンがいっぱいあったので、沢山買い込んだ。いらないと言っても、母は買い込んだ。
母曰く、小麦粉から違うとのこと。
一押しのパンらしい。
実家に戻ると、21時過ぎだった。
改めて、ボコさん(僕の同性パートナー)からのハンドタオルを母に渡した。先ほど、目の前で父に渡した後だったので、すんなりといった。
母「黒色」
僕「色、お父さんのと渡すの間違えちゃって」
母「ううん、こっちのが好き。もったいないね。」
僕「かっこいいなら使いなよ」
母「じゃあ、とりあえず飾って、しばらくしたら使うかな」
僕「メッセージカードが入っているんだよ」
母「そうなの?」
僕「定型文みたくしているけど、わざとなんだ。ボコさんがそのほうが、万が一家族に見つかった時とか、拒絶してる上の兄さんが気にしないだろうからって。署名も入れてない。」
母「上の兄。そんなのどうでもいいわよ~」
僕「・・・」
母「私こんな貰うような立派な人間じゃないのにね。でも」
僕「立派な顔してりゃいいよ。そうすればいいよ」
かぶせる用になにか聞こえた気がした。
実家で一泊して、次の日、ダイソンの掃除機を修理するなど大活躍を見せた私。なんやかんやで、母が作った夕飯まで食べて、帰る時間になった。
昨日買い込んだパンは全て、母によって僕のリュックにつめこまれた。
僕「新生活、おめでとうございます!(茶化すように)」
母「はは。・・・ありがとうって言っておいてよ」
僕「・・・喜ぶよ、伝えとく」
じゃ/また
聞こえた気がしたのは、その言葉だったか。
家路につく。
心配そうにボコさんが僕を出迎えた。
ボコさん「どう・・・だった?」
僕「大丈夫だった」
いろいろ状況を伝えると、ボコさんはほっとしたようで、らんらんと目を大きくしていた。
僕「ただ、お父さんに渡した時は、お母さんが急に人形のスイッチの説明をしだしたんだよ、お父さんに、イライラと」
ボコ「うん」
僕「最初は、ボコさんの贈り物を、勝手に渡したからイラついて父親にあたってるのかと思ったんだけど、違うかもしれない」
少なくとも、イラついてなかったことは、はっきりと分かった。
だって、かばんの中のパンは半額シールが綺麗にはがされてて、どれも2個セットだったから。
ボコさん「成功でよかった・・・んよね?」
僕「うん」
るんるんのボコさんが目に入る。
僕は、正直、――もう母の事なんてどうでもよくなっている。
この2年、色々あり、傷つけられて、信用していない。
それどころか、カミングアウトしてから20年、あの人を何度も好きになろうと努力して、何度跳ね除けられたか。
ボコさん「うん!」
でも、ボコさんが喜ぶ姿を見て、ボコさんとお母さんの関係は良いなあと思った。
不思議。
たぶん、僕1人だったら絶対、好きな感情にならない母に対して、ボコさんを通してだと好きになる余地があることに、僕自身驚いた。
つまり、ボコさんを喜ばせる母の力に。
そして、ボコさん。
1つ言えること。
40歳すぎても、毎日同じ事がつづくなんてない。
大人になったら単調、とか無い。
想像もつかないことが起きる。
つらくも、楽しい日々が。
『ありがとうって、言っておいてよ』
2年前の贈り物では、聞けなかった言葉。
僕は心の中で、何度もつぶやいた。
おしまい
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?