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「遺言書保管制度」を利用した理由とした日のこと(遺言書も一部公開)

2023/4/17
本文を一部訂正しました。
修正後)49兄なら、戸籍謄本を取るための家族内のとりまとめ役を期待できる
修正前)49兄なら、家族の戸籍謄本を取れるし、家族内のとりまとめ役を期待できる

<補足>
親族であっても、直系(父母、祖父母、子、孫)でなければ戸籍謄本は取れませんでした。


わたしは43歳で遺言書を書いている。

同性パートナーである「ボコさん」に残すためだ。

すべて手書きで書いたその遺言書は、家のタンスの奥で眠っている。

「遺贈者の財産はすべてパートナーに遺贈する」

そんな事を書いて。


2023年2月は、あたたかな冬だった。

ボコさんと暮らす家から2時間ほどのところに私の実家はある。
認知症の父の病院の付き添いや、ケアマネの面会の時、ちょくちょく実家に帰っている。ボコさんもこころよく許してくれる。

「ボコさん?正直、あなたが死んだら相続されたくないわ」

母のひと言が、僕の血の気を引かせ、遺言書への必要性をより一層大きくさせた。


タンスにある遺言書は、法的効力はある。
でも、それじゃダメだ。

私が死ぬと、遺言書は誰かが家庭裁判所に持っていき「検認」が必要となる。確かに本人の遺言書なのか、第三者が判断しなくてはいけないのだ(筆跡鑑定などもするらしい)。

検認には、法定相続人全員の戸籍謄本を集める必要がある。
つまり、私の親兄弟の戸籍謄本だ。
それをボコさんが1人1人連絡して入手するのは、現実味がない。

なぜなら、私の母と一番上の兄は、同性愛に否定的だからだ。


2023年3月31日。
私は東京の九段下にいた。

桜の満開はすぎたものの見ごろで、皇居のお堀のまわりには、平日の昼間と思えないほどの人だかりだった。外国人もちらほら。

ほど近く、法務局の九段第二合同庁舎はあった。
中に入るとそこは味気ない、学校みたいなビルだった。案内所の指示に従い、エレベーターで8階へ向かう。

法務省「遺言書保管制度」――

2020年から法務省が開始したサービスが「遺言書保管制度」だ。
タンスにある自筆遺言書を、3900円で死後50年(画像データは死後150年)まで保管してくれる。

ここで保管手続きをすると「検認」不要の遺言書になる。


「戸籍相談」「人権相談」などとならぶ廊下の奥に「遺言書保管」の扉はあった。

扉は全開だ(入りやすい)。

「こんにちは・・・予約したゆきと申します(事前予約必須)」
「あ、ちょっと時間早いですが大丈夫なので、はじめちゃいましょうか」

担当の方は4~5人ほど。
そのうちの1人、物腰丁寧な男性が対応してくれた。

「では、申請書と住民票の写しをお願いします」

申請書は持ってきている。
事前に法務省のページでダウンロードしたものを、コンビニでネットプリントして記入済みだ。数点指摘されたが、二重線で訂正できた。

申請書は下記を記した。

  • 遺言執行人・・・ボコさん

  • 通知対象者・・・49兄(下の兄)※唯一僕らの関係に理解がある親族

通知対象者とは、死亡時に遺言の存在を通知したい人のことで1人だけ指定できる。私は親族に指定した。49兄なら、戸籍謄本を取るための家族内のとりまとめ役を期待できる(この制度も遺言書の交付に戸籍がいるのだ・・・)。ちなみに、ボコさんに指定することもできたみたい。

「申請書OKです。遺言書ですが、手続きが完了すると保管した原本は持ち出せません。コピーするなら今ですが大丈夫ですか」
「はい。コピー済みです。」

次に、遺言書のチェックに入る。

私の自筆遺言書はこんな感じ。

画像にない2枚目は付言(自由欄)と3枚目は署名捺印

約30秒――。

「あ、はい。大丈夫です。では手続きしますので30分ほどお待ちください。収入印紙は下で販売してます。3900円です。」

このサービスは、遺言書を保管してくれる「だけ」だ。
有効な内容かまではチェックされない。
チェックをしてほしかったら、公正証書にするか、法の専門家にお願いするかだ。

それでも概要的なところはチェックしてくれていたと思う。日付と署名捺印があるか、字が読めるか等はチェックされたはずだ。

私は預金しか財産がないし、図書館やネットで遺言書の例を参考にして、おかしくないはず。それで充分だ。

「でもね!!奥さんが相続するには、これが必要になって――」
「はあ・・なるほどお」

パーティション1枚区切った隣では、何やらずっと意見をされている人がいたが、内容まではチェックしないはずなので相談か。
私はすんなり終わってしまって、拍子抜けした。


30分後、呼ばれて処理が完了した。
収入印紙と交換で「保管証」を手渡されて解散だ。

ペラ1

なんてことはない、簡単な作業だった。
が、安心は増した。

同時に、ボコさんとのつながりも強くなった気がする。

家に帰り、処理が無事終わったとボコさんに報告をした。
遺言書、申請書、保管証のコピーを渡す。
もちろん、遺言書の内容は事前にみてもらっているが。

ボコさん「オレも書くよ」
ゆき「うん」

週末は、ボコさんのご実家に遊びにいく。
そこで、ボコさんはご両親にコピーを見せたいらしい。
ボコさんのご家族は僕らの関係を優しく見守ってくれているけれど、このコピーで更に安心してくれるといいな。

週末は、ご実家のお庭でバーベキューをしながら、談笑する予定だ。

*おしまい*


<おまけ>

当日、窓口にて質問したメモ。

Q.死亡した後、手続きに何が必要か
A.法定相続人全員の戸籍
Q.法定相続人以外への相続でも?
A.はい

Q.死亡した後に「遺言書情報証明書」(遺言書のコピー)の交付申請したら、法定相続人全てに通知がされるの?
A.はい ※でも執行人がやらなくていいのは楽かもしれない

Q.死亡時に対象者に通知してくれるのは、何きっかけでしてくれるのか。死亡届?
A.はい。法務局の戸籍事務と連動している。

Q.法務省の「遺言書保管制度」と公証役場の「公正証書遺言」にどのような違いがあるのか。
A.「遺言書保管制度」は遺言者が手書きしたものを法務局で保管、「公正証書遺言」は手書きではない。公証人が文書にしたものを公証役場で保管する。

Q.住所が変わったらまた遺言書を書き替える必要はあるか。
A.ない。そのままでいい。ただし、申請書に記入した内容は変わったら変更手続きをしてほしい。例えば、死亡時の通知対象者の住所が変わっていたら、こちらでは追えない。知らせられなくなる。さいあく、遺言書が誰にも発見されず、法務局で眠り続けてしまう。申請書に書いた住所・電話番号は、常に最新にすること。

<おまけ2>※2023/9/2 追記

パートナーのボコさんも先日、遺言書保管が完了しました。
そこで気付いたことを書いておきます。

・事前の日時予約が必須なのだが、遺言書を書く前に予約をまずすると、本人が遺言書くしかない!となりスムーズ。(さいあく予約日時は変更可能)
・当日、住民票の準備を忘れがち(直前でもコンビニ交付で対応可)
・事前に遺言書のコピーを取ること(保管後はコピー取れない!)

また、ボコさんの当日の模様はこちら

P.S.
法務省はこのサービスを広げたいようでアンケートを求められました。
2020年に出来たばかりの制度なので、まだ活用者が少ないのかも。

<リンク>
自筆証書遺言書保管制度(法務省)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html





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