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韓国発SF短編集『となりのヨンヒさん』が好きすぎる件について

12月13日、チョン・ソヨン『となりのヨンヒさん』(吉川凪訳)が発売になります! 

本書は韓国のSF短編集。とはいえ、もとがYAということもあってゴリゴリのハードSFではなく、気楽に読んでもらえるSFです。実は先日、担当編集がいかにこの本が好きか、K-BOOK振興会さんの小冊子『ちぇっくCHECK』にて語らせていただきました。拙文ながら、せっかくなのでnoteにも…ということで、よろしければお付き合いください。


『となりのヨンヒさん』は韓国SF界を率いる著者が12年間に発表した作品15篇をまとめたもの。韓国では青少年文学シリーズの1冊として出版されていますが、ハンディキャップやジェンダー・マイノリティなどのテーマも扱われ、大人の読者にもぜひ読んでいただきたいと思っています。ソフトでクラシカルなSFの雰囲気をまといつつ弱者に寄り添う著者の感性こそ昨今の日本にふさわしく感じ、上司を説得し、版権を取得しました。

ちなみに『フィフティ・ピープル』『アンダー、サンダー、テンダー』の著者チョン・セランさんが、"一篇ごとに独特な世界観が平易な文章で書かれているので、初めてSFを読む方にお薦め"と紹介した本でもあります。

翻訳についてはキム・ヨンハ『殺人者の記憶法』で連続殺人犯の言葉を研ぎ澄まされた日本語で訳した、吉川凪さんに依頼することができました。とても嬉しく思っています。

今回はその中から、「宇宙流」という短篇をご紹介します。

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〈「宇宙流」あらすじ〉宇宙飛行士を目指す女性である「私」。寡黙ながらも熱意を内に秘めた彼女は、どうしても宇宙に行きたいその一心で、狭き門をくぐるためのあらゆる準備、あらゆる勉強をして挑む。しかし中国で行われた試験から一時帰国したその日、走る車が彼女をとらえ……。

短くも、本当に素晴らしい1篇だと思います。囲碁の手法としての宇宙流と、実際の宇宙への比喩を巧みに用いた構成も見事ですが、特筆すべきは行間から滲み出る主人公の魅力でしょう。

本書に寄せられた賛辞によれば、チョン・ソヨンの小説の本質は「世の中と対面しなければならない瞬間が来た時に、ほんの少しの間だけためらってすぐに顔を上げ、喜んでその圧倒的な世界に立ち向かう主人公たちの、まっすぐな姿勢と視線を避けない眼だ」とのこと。

「宇宙流」の主人公もそんなひとりです。きわめて淡々とした一人称の語りに表れる、彼女の冷静さと知性、静かに燃える心と強い決意。目標に向かって痛いほどまっすぐ、しかし着実に進んでいく姿。

この物語には、なれなかった私、なりたかった私がいる――直感的にそう思いました。今も読むたびに、身が引き締まり背筋が伸びる気がします。

そして重要なのは、その熱意をもった主人公が女性であることです(ただし本書の作品15篇のうち14篇は女性主人公です)。

女性が壮大な夢を描く作品はそう多くありません。私たちは大志を抱けなどと言われたこともなければ、常に顔面を採点され、言葉遣いさえ制限されています。しかしこの主人公はひたすらに宇宙を追い求め、一般的に女らしさとして認められる愚かさや弱さ、可愛さを一切持ちません。そしてそれが物語中で否定されず、彼女自身の在り方として認められているのです。

こうした旧いジェンダーロールに縛られない主人公と物語こそ、いまフィクションに求められているものなのではないでしょうか。

この短篇の原案ができたのは2005年ですから、もしかするとフェミニズムの文脈で書かれたわけではないのかもしれません。
それでも「宇宙流」は、2019年の私に、時を超えて勇気を与えてくれる作品となりました。

本書ではほかにも、亡者の残滓が浮かびあがるという故郷の不思議な海の思い出と女性同士の恋愛とを重ね合わせて描いた「馬山沖」、美術講師の女性と宇宙人との不思議な親交を描く「となりのヨンヒさん」等、バリエーション豊かな全15篇が収録されています。

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著者チョン・ソヨンは作家であり、英語から韓国語へ訳す文芸翻訳家でもあり、〈韓国SF作家連帯〉という団体の初代代表も務めました。さらに人権派の弁護士としても活躍する、まさにハイパーウーマンを地で行く人物です。

強靭な意思と繊細な優しさ、そして普遍的な人間の在り方を、SF小説という形で示してくれた『となりのヨンヒさん』。
多忙で寡作な著者が一つひとつ生み出していった短篇集が、皆様にとっても宝物のような一冊になれば幸いです。(担当K・S)

以上初出:K-BOOK読書ガイド ちぇっくCHECK  vol.6 (K-BOOK振興会)
※ウェブ掲載にあたり、適宜修正をおこないました。


【後日談】この暑苦しい文章が掲載されたのち、著者チョン・ソヨンさんから日本語でお礼のメールをいただきました(チョンさんは語学に堪能で、日本語も出来るのです)。嬉しくてちょっと泣きそう。


書誌情報・お買い求めはこちらから。

となりのヨンヒさん書影おびなし

『となりのヨンヒさん』
チョン・ソヨン著 吉川凪訳
定価1800円+税
ISBN978-4-08-773503-1
集英社刊

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