【コンテストインタビュー】選考で最も大切にしていたのは「作品、キャラクターへの愛情」! ONE PIECE GAME賞 大賞受賞クリエイターと審査員がその想いを語る!!
個人・少人数で活動するゲームクリエイターに関連するコンテストやプロジェクトを多く手掛ける『集英社ゲームクリエイターズCAMP』。集英社の取り組みならではの企画と言えるのが、昨年開催された『連載1000話連動企画 ONE PIECE GAME賞』だ。
これはONE PIECEをテーマとしたモバイル向けカジュアルゲームの企画・開発を目標とし、『週刊少年ジャンプ』(集英社)はもちろん、『ONE PIECE』に関わる“プロ”たちが集結したコンテストだ。
審査委員会にはONE PIECEの担当編集チームはもちろん、これまで多くの関連タイトルを手掛けてきたバンダイナムコエンターテインメントのONE PIECEゲーム開発チーム。さらに東映アニメーションのONE PIECE担当チームや集英社ゲームクリエイターズCAMPの運営チームが参加した。
そして特別審査委員には、ONE PIECEの原作者である尾田栄一郎先生が就任。尾田先生からは「これはチャンスでしょ!! ゲームクリエイターの皆さん。ONE PIECEを踏み台にして、世界に大きく羽ばたいてください!!!」という大激励メッセージがッ!!!!
そして大賞を受賞したのが、『クンフージュゴン ユニゾン大行進』(以下、ユニゾン大行進)。今回のインタビューは、クンフージュゴンの開発メンバーである中森ヨウさん。バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)、ONE PIECEゲーム開発チームの平田 玲さん。そして集英社ゲームクリエイターズCAMP(以下、CAMP)からは森 通治、林 真理の両プロデューサーが参加。開発秘話からワンピ愛までがっつり語って頂きます!
――まずCAMPの運営チーム、そしてBNEの平田さんにお聞きします。今回の連載1000話連動企画 ONE PIECE GAME賞を立ち上げたきっかけとは?
森 通治
昨年はONE PIECEの連載1000回記念、今年は原作25周年、そして映画の公開も控えるというタイミングです。そこで僕らCAMPの運営チームも「ONE PIECEを盛り上げたい!」という想いがあってONE PIECE担当編集チーム、BNEさんのゲーム開発チームに企画の相談したところから始まりました。キャラクターゲームに関するノウハウ、知見の部分でBNEさんが世界クラスですから。
――と、絶妙なフリが入ったBNEの平田さんの回答は?
平田 玲
我々もタイミング的に「ONE PIECEで何かやりたい!」と考えていたのは一緒です。そして我々は「より多くのONE PIECEファンに満足していただける体験の提供」を目指しています。ですから、今回のコンテストで新しいクリエイターさんの力を借りられることは本当に力強いです。なにより「どんなアイデア出てくるんだ!」という期待が高まって楽しく仕事させて頂いています。これは弊社のチーム全員が同じ意見ですね。
――今回のコンテストの選考で「ここは外せない!」という要素はあったのでしょうか?
平田 玲
作品、そしてキャラクターに対する愛情です。弊社で企画会議をやるときもそうなんですが、原作やアニメを熟知しているお客さんが「ここ、切り取るの上手いな!」と喜んでもらえる部分を大切にしています。そう考えるとクンフージュゴンは「アラバスタ編にチラっと出た、ここを持ってきたのか!」という、ものすごい愛情を感じる。この一発芸的な部分が我々に響きました。正直、我々にはなかった発想だったので、良い刺激を頂きました!
――この選考理由に対して、ユニゾン大行進の開発メンバーである中森ヨウさんはどうでしょか?
中森ヨウ
一発芸というより、出落ちに近いです(笑)。今回、企画を考えるにあたり、まず行なったのが「コミックス100巻の読み込み」です。ここで気になった部分に付箋を貼っていきました。その時、アラバスタの海岸でクンフージュゴンがルフィたちと一緒に稽古をするシーンが、とても楽しそうだったんです。
――クンフージュゴンは、チョッパーがいないと意思疎通も難しいキャラ。ゲームの主役にするのは大変なのでは?
中森ヨウ
フィギュアだったり、クレーンゲームの景品だったり、クンフージュゴンは昔っからのファンに強く愛されるキャラです。このキャラクターでわちゃわちゃできたら「楽しいな」という漠然としたイメージから、クンフージュゴンをメインにした企画になりました。動きや表情などの変化でそのあたりは補えればと思っています。
――ゲーム性の部分でこだわって制作したい要素は?
中森ヨウ
原作には「勝負に負けたら弟子入りするのがクンフージュゴンの掟」とあります。つまりは勝ってクンフージュゴンを従えているほどに強いという証し。なので、単純に仲間をわらわらと増やすと楽しい。一方で、一般的なローグライクらしく自分のワンミスから構築したものがすべて消滅してしまう。プレイヤーが「チクショー!」と思って、繰り返すうちにクンフージュゴンがまたわらわらしだして、目に見えて「おれ、つえー!!!」ってなるのを感じられる内容にしたいですね。
――ユニゾン大行進に登場するクンフージュゴンはクレイで制作されていることも特徴。これは?
中森ヨウ
自分は絵を描けるわけでなく、3DCGでモデリングを試してもうまくいきませんでした。で、とりあえず粘土でクンフージュゴンを作って企画書用の画像に使ってみようとしたのが、クレイの始まりです。
クンフージュゴンはシンプルなデザインなので、僕の中ではクレイで制作するのがマッチしました。それを企画書に当て込んでいるうちに「あ、クレイのクンフージュゴンいけるかも!」と改めて感じました。
――もともとクレイ制作が趣味だったのですか?
中森ヨウ
クレイと言うより、高校時代は鉄道部で鉄道模型のジオラマを制作する部活動をしていました。なので「作りたいものがあったら、手作りしてみたい!」という意識がけっこう強いです。
ジオラマ作り経験は、ゲーム制作に活かされている部分はあります。箱庭的なゲームなどは3DCGの中をプレイヤーが動き回りますが、これってそのままジオラマを作り、そのジオラマ内でカメラワークを行なう感覚と近いですよね。とはいえ、全部ジオラマを作っていられないので、配置や構図などは例えば身近な消しゴムなど並べたりして、メンバーにイメージを伝えることがあります。ジオラマを制作する感覚はそのまま、ゲーム制作に役に立っていると思っています。
――クンフージュゴンはどのようなメンバーで開発しているのですか?
中森ヨウ
企画当時は僕、メンターの池田トムさん、プログラマーの大久保タクマさんの3名でした。企画途中でクレイモデル作ってみた写真や動画を3名の間で共有したところ、トムさんの知人でクレイを作れる方がいると伺い、本決まりになった今、改めてご紹介いただいてクレイモデルが得意な方、曲や音作りが得意な方にも参画いただく予定です。
――そんなメンバーで制作されるユニゾン大行進。ONE PIECEという超メジャー作品を扱うことへのプレッシャーはないのだろうか?
中森ヨウ
あります。それこそコンテストの審査が進むにつれて、「審査、通っちゃったじゃん。どうしよ?」というプレッシャーがメンバー同士でありました(笑)。通るべく企画をもちろん出しています。覚悟もしていたつもりですが、内心ドキドキしておりました。
――このクリエイターたちが感じるプレッシャー問題を、CAMPの運営チームの森さんはどう考えますか?
森 通治
ONE PIECEは集英社、BNE、東映アニメーションさんにとってすごく大切な作品です。なので、良い意味でプレッシャーを感じてもらうのは、ありがたいことです。ただ、今回のコンテストを開催するにあたり尾田先生がコメントで仰っていたのは、まず冒頭に「チャンスでしょ!!」。そして「ONE PIECEを踏み台にして、世界に大きく羽ばたいてください!!!」。
「自分の作品を踏み台とは!」と考える作家さんもいると思います。でも、尾田先生はあえて「踏み台」という言葉を使ってクリエイターさんたちを激励してくれる。なので、クリエイターさんたちには、プレッシャーを感じつつも、自分たちの好きなように作品を料理して頂ければと考えています。僕らCAMPの運営チームは、マンガ、ゲームの双方のクリエイターさんを支援していくのがメインの活動ですから。
――では、具体的にはどのような支援を行なうのでしょうか?
森 通治
今回はカジュアルゲームですので、1年弱ぐらいの期間をメドにして一緒に開発を進めたいと考えています。開発資金はBNEさんから提供して頂き、ONE PIECEブランドをより良いものにしていくために全力サポートしていく所存でございますッ!
――思いっきり、圧かけてるじゃないですか!
森 通治
いやいや(笑)。とにかく、クリエイターさんたちがやりたいことを全力でやってほしいですね。編集部としっかり連携して全力でサポートします!
――BNEさんは、ユニゾン大行進の開発チームを、どのようなサポートする予定ですか?
平田 玲
弊社はキャラクターゲームからアプリゲームまで、長年やってきたノウハウがあります。なので、わからないことがあれば、どんどん聞いてください。一緒に悩むことでONE PIECEという作品がもっと好きになる。これは、長年やってきた経験から間違いないです(笑)。
――これは心強い! ちなみに平田さんたちのようなベテランチームでも、ONE PIECEという作品を扱うことに関してプレッシャーを感じることはあるのでしょうか?
平田 玲
もちろん、ありますよ。だから、僕たちも毎回「コミックス100巻の読み込み」をやっています(笑)。その付箋をつけている過程で、一番最初に閃いたアイデアを貫くと、いろいろな迷いが減ってくるし、面白いものが出来上がってくる。いやー、僕らも読み込みと付箋をやっているから、さっきの中森さんの話を聞いて「わかるー!」と共感しました。
――BNEさんは、これまでクリエイターさんをサポートするような活動を行なったことはあるのでしょうか?
平田 玲
まったくの初めてではありませんが、キャラクターゲームをこういったクリエイターさんたちと作るのは稀なケースですね。今の時代はゲームを作ることがどんどん大型化しています。業界全体でそういった風潮だと感じています。そういった中、弊社が今回のコンテストに参加することで、新しいクリエイターさんの新しいアイデアに触れられる機会を頂けました。これは弊社にとってもチャレンジになりますし、やはり良い刺激になっていますね。
――ゲームが大型化していることに対し、CAMP運営チームはどのような考えがありますか?
森 通治
確かに、業界の方々に話を伺うとゲーム開発が大型化することで、尖った発想や才能が表に出づらい環境になりつつあるとよく聞きます。尖った企画を実現したいという想いがあるクリエイターの才能を尊重しつつ、ちゃんとビジネスとしても成立させる。それは両立できるのではとここ1年の僕らの活動で、手応えを感じられるようになってきました。
――CAMP運営チームの林さんはどうでしょうか?
林 真理
現在、間違いなく独立系のクリエイターさんたちのほうが、こだわりの強い作品を作っています。特に日本のクリエイターさんからは「オレたちで新しいもの作っていこうぜ!」という熱いものを感じてて、そこに僕らCAMP運営チームやBNEさんのようなゲーム会社が「じゃ、一緒にやりましょう!」と合流する。これまで以上に、良い環境になってきています。
森 通治
僕らの活動は、新しいことをやっているように見えるかもしれません。しかし、北米や欧州だと僕らのような活動は当たり前のことですし、大いに盛り上がっています。少しでもその環境に近づきたいですね。
林 真理
海外だと銀行が評価基準を持っていて、クリエイターさんに出資します。一方、日本は出版社やゲーム会社がクリエイターさんに寄り添うレベルです。クリエイターさんたちに対して、海外のように社会的なバックアップ体制も整えられるような環境まで引き上げたいですね。
――実際ところ、近年はクリエイターさんの環境に変化はあるのか。中森さんどうでしょう?
中森ヨウ
「これ尖ってて、おもしろそうだ!」という発想があれば、クラウドファンディングからも資金調達ができます。SNS時代だからこその環境が生まれてきた印象がありますね。
――集英社ゲームクリエイターズCAMPの活動について感じることは?
中森ヨウ
キャンプファイヤーを囲むような感覚で、「こういうゲーム作りたいけど、どう?」とみんなで盛り上がれる。それが鮮明になってきた印象です。それこそマンガ家さんを集めて作品を編集していく集英社さんのノウハウで、小さな開発チームでもいいからどんどん生まれていってほしいです。こういった環境ってクリエイターにとって本当に楽しいし、面白いものがガンガン登場すると思っています。
――CAMP運営チームとしては、今後どのような目標があるんですか?
林 真理
CAMPの機能面では、クリエイター同士をつなげる機能をより充実させたいですね。次のステップとしてはCAMP発のコンテンツ作り、ゲームファンに認知してもらうこと。そこを目標にしていきたいですね。
――今後も連載1000話連動企画 ONE PIECE GAME賞のようなコンテストは継続するんですか?
森 通治
もちろんです。これまでのようにマンガ原作、完全オリジナル、さらにゲームIPを使ったコンテストなどなど、切り口は変えてコンテストをやっていきたい。ただ、どのコンテストも企画立案から運営、審査まで、思いのほか工数が多く大変でした。ありがたいことにコンテストへの応募数が多く、僕らのリソースが追いつかない状況です。需要の高さは実感しているので、本当はもっとコンテストをやりたいですけど!
――CAMP運営チームがコンテストを行なう意味とは?
林 真理
CAMP発のコンテンツ生み出すのはもちろん、クリエイターさんたちの熱量が高すぎる企画書を読めるのがすごく刺激的なのです。その「刺激的な企画書に応えたい!」となると、中森さんたちのように面談を繰り返していくことになります。
平田 玲
面談はおもしろいですよ。例えばONE PIECEならルフィとゾロの歩き方は全く違います。「この違いを、どう表現していきますか?」と直接質問することで、クリエイターさんたちの熱量が見えてくる。中森さんたちが、キャラの動きをクレイで表現するというのは、その解決策のひとつだったりするんですよね。
林 真理
面談することで、「このかわいらしさを全面に押し出したクンフージュゴンは、中森さんたちにしか作れない!」という部分が本当に良くわかりました。ただ、時期的にどの面談もリモートになったのは残念でしたね。リアルで面談をやったら、もっと収穫があったかもしれない。
――では、中森さん。面談で印象的だったトークなどありますか?
中森ヨウ
実は緊張してて、よく覚えてないです(笑)。僕は、人見知りなので、リアル面談だったら頭が真っ白になって何も喋れなかったと思います。
平田 玲
私、けっこう細かい質問を繰り返していましたけど、それに的確に回答してくれましたよ。
中森ヨウ
リモート面談だからこそ、落ち着いて話をできたと思います(笑)。
――ちょっと林さん、話が違うじゃないですか!
林 真理
そうですね。なので、時事ネタや好きなゲームの話を交えつつ、リラックスムードで面談を進行するように心がけています(笑)。あと面談では「集英社ゲームクリエイターズCAMPってなんですか?」とド直球で聞かれることも多く、まずはそこを丁寧に説明していますね。
――では、最後に中森さんに質問です。今後、集英社ゲームクリエイターズCAMPの活動でやってほしい事はありますか?
中森ヨウ
僕自身、デジタルだけでなく、アナログのボードゲームも大好きなので、そっちにも裾野を広げてほしいです。
林 真理
ぜひ、検討したいです! 実は今のフォームでも無理してボードゲームを登録している人がいるんです。僕ら自身、デジタルとアナログで明確に分けているわけじゃありませんから。
平田 玲
弊社も趣味でボードゲームをやっている人間は多いですよ。
林 真理
様々な企業とボードゲームで何か作れたら面白いでしょうね。こうやってゲーム業界の人々の趣味の部分から新しいアイデアが生まれるのは楽しいですよ。それこそPSが登場した1994年から90年代後半は、ミュージシャンやタレントがゲーム業界に参加し、趣味性を全面に押し出した尖ったタイトルが量産されていました。
中森ヨウ
僕、ちょうどその時代のゲーム業界に憧れて、業界に入った人間です。『俺の料理 』というアナログスティックで包丁を操作するタイトルがあって、ハードに搭載されている機能を無理やり使って企画に仕立て上げた感じが大好きでした(笑)。出落ち感は強いけど、想い出にはしっかり残るゲームなんです。この時代を取り戻したいなと。
林 真理
今のゲーム業界も、1990年代後半のような尖った部分が蘇ってきたと感じるほど、面白いクリエイターさんが増えています。それこそ、中森さんには“時代を取り戻す、熱量の高いゲーム”を量産してほしいですね。
中森ヨウ
そう言ってもらえると安心します。「まだまだ変なモノ作れるぞ!」って(笑)。
林 真理
中森さんの熱量にみんなが引っ張られて、そこを手伝いはじめたらクリエイターとして中森さんの勝ちです。
中森ヨウ
アピールしてなんぼですよね。世の中には、面白いゲームの発想があっても拾われない人が多いですから、そういった才能をCAMPの運営チームやBNEさんに回収していってほしいです。もちろん、僕も含めて(笑)。
CAMPの運営チーム&BNE平田さん
それは任せて下さいッ!