東京都の外国人起業家の支援調達支援事業及びその論争所感

東京都が今年(2022年)6月に「外国人起業家の資金調達支援事業」の開始を公表した後、中国国内で話題になっていると、ツイッターで評論家・政治家が注意喚起していました。
具体的には下記ニュースをご参照いただければと思います。
ひろゆきさん、1500万円「使い切ったら中国に戻るだけ」東京都の”外国人起業家支援策”に「アホ」(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース

要するに、外国人が起業するには、東京都が無担保、保証人不要で1,500万の融資をしてくれるとのことです。

主な反対派論述としては、「日本国民・東京都民の税金を使って外国人誘致するのはおかしくない?」「日本に何がメリットあるの?」「お金使いきって帰国すればその人たち無責任だよね。結局責任を負わなければいけないのは日本人だよね。」とみられています。

まず申し上げたいのは、細かい点をさておき、概ね私はこの制度を賛成します。
自分が起業したい日本にいる外国人でもあるため、外国人が起業するハードルを深く感じているからです。もちろんそれは金銭面だけではなく、非金銭的なハードルも多々あります。

しかし、この制度が及ぼした懸念点もとても理解できます。もしくは不完全な部分も多々あります。
以下はいくつかの切り口から、私個人の解釈と考えを述べてみたいと思います。もしかしたら日本語の表現がおかしい、もしくはわかりづらいところもあると思いますので、どうか暖かい目で見ていただければ幸いです。

①「平等」であるべき

「起業とか融資って、日本人も同じくハードルがあり、そもそも外国人だから優遇されることが分からない」
「日本で生活している上、日本のルールや規則を従うべき。外国人をもっと誘致したいからで規制改定すべきではない。」

この観点については、まず「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の違いを理解しなければいけません。
この二つの観点を説明する際よく使われている図はこちら。

Original Graphic Courtesy of The Center for Story Based Strategy

また、こちらの記事もとても分かりやすいのでぜひご一読ください:
平等(Equality)よりも公平(Equity)を ~左利きの日に考えるDiversity, Equity, and Inclusion (DEI)~|D-nnovation Perspectives|Deloitte Japan

外国人材に関連する施策だけではなく、ジェンダーや人種差別なども、それこそDiversity & Inclusionをうまく理解し推進できるのは、この「公平」と「平等」の違いをしっかり認識したからだと思います。
「同じ制限を与えることにこだわる」のは、真のD&Iを達成できません。
そもそもお互いの「違い」がどこにあるのかを心から理解し合い、目標達成するために直結しないバリアや障害をお互いの理解を基にクリアしやすくするのは本来あるべき姿だと思います。

外国籍の方は、そもそも融資がとても困難です。保証人を見つかるのが難しいのはもちろん、担保できる資産が少ないのが現実です。低収入層にも同じようなハードルがあると思います。
しかし日本籍の低収入者と違って、あまり知られていないのは、外国人が起業する・会社設立するには特別な在留資格の取得が必要です。
在留資格「経営・管理」 | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)
在留資格「経営・管理」(経営管理)とは? (visanavi-law.com)
特に、当在留資格に満たす要件の中最もクリアしにくいのは
・ 日本に居住する常勤従業員を2名以上雇用すること または 500万円以上の資本金(出資)
・ 事業の経営 または 管理の経験が3年以上あること
  日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること

だと思われます。
これは私自身でもそうで、事業計画を芽生えても、日本の方みたいに「吉日選んで法人登記に行こうか!」なのが簡単にできません。
そもそも在留資格の取得や変更には半年以上かかるのです。

「公平」の論述に戻ると、同じく素晴らしい事業アイデアを持つ日本人と外国人がいて、ただ「外国人だから」ということだけで1~2年以上スタートを遅らせなければいけない現状は、「公平」とは言えますか?
この視点も理解できていないまま「ダイバシティ推進」を安易に進むべきではないとも思いました。

そのため、東京は首都として、このような施策を推進するのは個人的にとてもいいと思います。むしろもっといろんな地域でこういう動きを推奨したいです。日本がダイバシティな社会に向けて努力していることを示しているからです。(もちろん地域などまだ全然意識足りていませんが。)

②外国籍がいつか逃げられたことを考えるとリスクしかない

「無担保、保証人不要でしたら、逃げられても何も保証できないじゃん」
ここ実は本制度最も議論すべきところで、バリアをぶっ壊すだけでいいのか。「日本人側をどう守れるのか。」

東京都「外国人起業家の資金調達支援事業」スキーム

事業スキームから見られるのは、申請前段階からしっかりとした事業計画(と起業家)しか認めないことで、「誰でも取れる」ことを抑制できるのではないかと思います。
また、融資実行後の経営サポートも提供することで、定点観測し「逃げられる」確率を下がるアクションも取れます。
もちろん、それがどれほどできるのか、「そんな審査誰もしっかり見てないでしょう」という意見もあると思いますが、それは本制度だけではなくすべての補助事業に該当するので「外国人」というイシューから外れていると思います。

私の意見としては、起業後の返済にもう少し制限や規則をかけても、事業性を判断するにあたり基準が明確できるし、東京都府として将来の保証ももっと都民に説明できるのではないかと思いました。
返済への意欲や責任を事業計画に練り込むことで、起業家の本気度を示すこともできるのでしょう。

そして、少しリスクヘッジという観点からずれますが、「逃げられる」ということは必ずしも「一方的」ではないのです。
海外で生活するだけではなく、起業するまで決意する外国人は、相当な覚悟を持っている方が多いと思います。
その上、よっぽどな「不満」が発生しない限り、「誰に何も言わず帰国する」という選択肢は一人の人間としてあり得ません。
それが発生した場合、本人はもちろん罪ありますが、その周りの方々もある程度の責任を持っていると、私は思っております。

③日本国民が納付した税金を使って外国人補助すべきではない

びっくりされるかもしれませんが、私たち外国籍従業員も日本の税金(国税と市民税)納付しております。年金も。
そもそも東京に在住している外国籍の方が東京都の税金を使うのは、何か駄目なのか正直私あまり理解できませんので、むしろご意見を頂きたいです。

④制度は日本の悪徳業者に乱用されたらどうする?

この点に関しても、そもそも乱用する方が良くないので、「外国人に補助しているから」という論点はズレています。
「外国籍に変更すれば使えるじゃん」「誰かテキトーに外国籍入れたら使えるじゃん」という観点に関しても、「外国人材」の思惑ではないので、論述の矢先になっているの違和感を感じています。
論理観の話だけです。

最後に…

そもそもなんのために外国人起業家をもっと誘致したいのか。
それは私がずっと言っている、イノベーションを起こすための「よそ者視点」が大事だからです。
日本を客観的な視点から見てこういう強みがあるから日本で起業したい、自分の強みは日本の弱点を改善できると信じて日本で起業したいなどなど、
外国人材は少子高齢や経済衰退を進めている日本を前進する、持続的な発展するには必要な力の一つだと思います。
(誤解しないでほしいのは、必要な力は外国人だけでは思っていないです。
だからこそ真のD&I推進が今の日本には欠かせないのです。)

そして、大勢ではありますが「日本にいる外国人」は中国人だけではありません。
これは中国人への反発とかではなく、自分自身の周りにいる外国人の方々にもっと目を配るべきと言いたいのです。
国が違えば文化も思考の習慣も、もっと言うと論理観も違います。
それを一括りで「外国人だから」「日本人だから」とまとめるのは、本議題だけではなく、いろんな議論をするときとても危険だと思います。

外国人が日本で、実はいろんなところでとても敵視されています。
私の周りの友人でも、「外国人だから」というだけで、不合理な待遇されたり、怒鳴りされたり暴力振舞われたりされるケースも数多くあります。
これは今でも理解できません。
どんな制度でも、きっと不完全な部分があります。
きっとどこかの誰かが不満を持っています。
一発正解なんて不可能です。
そのためもっと本題に関連した、もっとこの社会をよくすることができることに、活発な議論が集中できればうれしいと思います。

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