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J1第33節 川崎フロンターレ対ヴィッセル神戸 データレビュー

川崎はホームで二連勝した一方、マリノスがホームで二連敗したことで勝ち点差が2に縮まった。そして今節はホーム最終戦で残留を決めた神戸と対戦する。優勝するためには勝利がほぼ必須。一方の神戸は残留を決めたがクラブの連勝記録更新がかかっておりモチベーションは高いはずだ。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~ボールを保持するのはどっちか~

この試合の注目ポイントの一つはどちらがボールを保持するのかだった。前半のボール支配率を見ると川崎が48%とほぼ五分。しかし効率的にボールを回していたかは別問題。そこでEPPを見ると川崎は21だが神戸は12。またPPSは川崎が37.4で神戸が143.5と大きく差が開いており、川崎の方が効果的にパスを回していたことがわかる。パスヒートマップを見ても両チームともファジーへのパスが最も多いことに変わりはないが、川崎はセンターバイタルや裏へ3本ずづパスが通っており、これらが川崎のEPPが高くなった要因だ。

・横方向にコンパクトな神戸を崩すためには

プレビューで書いたように神戸の守備の特徴は横方向にコンパクトなこと。同サイドでは相手の人数も多くスペースがないことを意味するが、同時に逆サイドには大きなスペースがあるとも言える。今シーズンの川崎が悪い時は同サイドの密集攻撃に拘ってしまう。そこで今節はいかに神戸の守備ブロックを左右に揺さぶれるかがポイントだった。そして前半はそれが上手くできたと言えるだろう。

それが試合開始そうそうの2分55秒。脇坂がボールを持っているがその前に一度悠へ楔が入ったことで神戸のブロックは中央に収縮。そのため右SBの山川がPKスポットあたりまで絞っており逆サイドには広大なスペースがある。そこに走りこんだマルシーニョへ脇坂が浮き球で配球した。

得点シーンもトランジションではあったが逆サイドのスペースへ家長がフワッとしたボールを蹴ってマルシーニョが決めた形だ。このように横方向にコンパクトな相手には左右に揺さぶることが効果的だ。ここでは崩しの段階を紹介したが、前半はボールを前進させるフェーズでも左右に揺さぶることがある程度できていた。そのため神戸の収縮が遅れて中央に隙間ができて悠へ楔が入ったり、11分50秒のように神戸のSBと川崎のWG,SBで数的優位を作ってクロスを上げることができた。

・シミッチから神戸SHの背後への楔

左右に揺さぶってサイドから攻撃することでチャンスを作った川崎だが、ボールを敵陣へ運ぶ時に一度中央へパスを入れることでサイドに時間を生み出していた。その中央へのパスを可能にしたのが神戸のSHのポジショニングだ。

これは8分5秒のシーン。シミッチに対して小林祐希がプレスをかける。シミッチは体を左に向けたためSHの武藤は車屋へプレスをかけようとした。しかしシミッチはその武藤の背後にいる橘田へプレスをかけた。このようなシーンが16分5秒にもあり、また5分のシーンでは逆サイドの汰木が高い位置を取っていたためその背後で脇坂がシミッチからの楔を受けることができた。神戸は積極的にハイプレスをするわけではなかったが、このようにSHが高い位置を取っていたためその背後で川崎のIHがパスを受けれて前進できた。

・神戸のボール前進方法

一方の神戸はどうボールを保持したのか。方法は二つでロングボールと川崎WG裏だ。ロングボールに関しては6分50秒や14分20秒のようにセカンドボールを回収して敵陣でボールを保持する。しかし前半もしばらくすると最初からロングボールを蹴るよりもショートパスで前進するシーンも増えた。そこでボールの循環ルートが川崎WG裏だ。

この32分ではGKの坪井からマルシーニョの背後にいる山川へフィードで配球されそこに橘田が出る。すると山川からハーフバイタルの山口にボールが出たためノボリとシミッチで挟むが奪いきれずフリーの武藤へ出されてしまった。

またこのシーンはWG裏ではないが、酒井がボールを持った時に汰木が少し下がることで山根を引き出し、小林祐希がその山根の裏へダイアゴナルに走ることで谷口を引き出し、最終的に裏に走る大迫がフリーになった。このように神戸は川崎の選手を一枚ずつ持ち場から引き出して、それによって生まれたスペースを使って前進していた。

ただ川崎も一度撤退すると451のブロックを敷くため、MF5枚では中央に楔を刺すスペースがなく外回りになってしまった。

2.後半~毎度毎度のオープンな展開~

前半のボール支配率はほぼ五分だったが、後半は川崎の61%と川崎の方がボールを持つ時間が長かった。しかしEPPを見ると川崎は17.7へ減少し神戸は16.3に増加しており、相対的には神戸の方が効果的にパスを回していたと言える。それはPPSにも表れており神戸は23.1と非常に低い数字で少ないパス数でシュートを打てていたが、川崎は42.5と比較的高い数字になっている。神戸のパスヒートマップを見ると前半はライン間にほぼパスが入っていなかったが、後半はライン間合計で5本のパスが入っている。これらの多くはカウンターでの大迫や小林へのパスだ。

・パスを出した後をイメージしよう

後半になるとオープンな展開になり両チームともパス成功率が80%を下回った。川崎に至ってはボールロスト数が前半の76回から後半は90回に増加しており、前半よりもボールを失うことが多くなったためカウンターを受ける機会が増えオープンになった。

まず神戸が前半よりも比較的プレッシャーを強めカウンター色を強くした。それが48分40秒にボールを回収した後すぐ大迫につけて素早いカウンターを完結させた。川崎としてはこの時まだ1-0で追加点を狙いたいところではある。しかし神戸は前線に大迫を中心にタレントが揃っておりカウンターを受けるリスクも考えなければならない。従ってこの時点での戦略としてはボールを失わないように保持しつつシュートを狙うことだ。しかし川崎は自らボールを失うような攻撃をしてしまった。

配置的な問題ではないので図はないが、49分30秒の失点シーンに繋がったボールロストはシミッチから脇坂への縦パス。正直言うと相手のカウンターの威力に関わらずこのシミッチのパスはありえないと思う。脇坂は後ろから大崎にピッタリつかれておりボールを失うリスクが高い。ましてやカウンターを警戒しなければならない神戸相手にやるパスではない。

またこの56分20秒のシーンのシミッチもあまりよろしくない。マルシーニョが内側に入りノボリが大外を上がっている状況でその後ろには大きなスペースがありボールを失うとカウンターを受けるリスクがある。ここでシミッチは中途半端なハーフバウンドのパスをノボリに送り奪われてしまった。またその後山川から武藤にパスが出た後も武藤へのプレスが軽い。結果として大迫の決定機に繋がった。

この2シーン以外にも57分10秒もシミッチは橘田にパスを出した後突っ立っておりサポートしない。そのため橘田はパスの出しどころがなくなりボールを失った。またサポートがないということは即時奪回もできないということ。結局またカウンターを受けてしまった。このシーンに関してはシミッチ以外の選手にもサポートしなかった責任はある。

ここではシミッチのみを批判してしまったが、川崎の選手全員に言えることで、パスを出す時はその後のプレーを想像する必要がある。特にカウンターを警戒しなければならない相手には、ボールを奪われる可能性の高いパスや、カウンターを受ける可能性の高いスペースがある場合には、そのパスはキャンセルしなければならない。これができなかったためにカウンターを受け失点してしまい、より攻撃的になる必要性が出たためよりリスクのある攻撃を選択するようになってしまった。

3.まとめ

結果としては悠がPKを獲得し家長が決めてくれたため勝利することができなんとか最終節へ望みを繋げることができた。しかし後半の試合運びは良くなかったし、それは今シーズンの川崎が常に抱えてる問題だ。ただもう今シーズンはあと一試合。優勝どうこうではなく最終節クラシコで勝利するフロンターレが見たい。反省会はその後だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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