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J1第4節 川崎フロンターレ対名古屋グランパス データレビュー

前節にアウェーガンバ大阪戦で先制点を奪われるも試合終了間際に追いついて勝ち点1を得た川崎はホームで名古屋と対戦した。その名古屋は今シーズンからルヴァンカップを優勝に導いたマッシモ・フィッカデンティ監督に代わって、FC東京を指揮していた長谷川健太監督を招聘した。長谷川監督と言えばカウンターということで、今節もそれが色濃く出た試合展開となった。

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EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~カウンター対策のボール保持~

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前半のボール保持は川崎が70%ということで川崎がボールを持つ時間が長かった。そのためEPPは29となっていて、名古屋の13.4の2倍の数字になっている。しかしシュート数は川崎が3本、名古屋が6本打っていたこともありPPSは川崎が128.3で名古屋は27.2という数字になっていた。シュートを打つ効率の良さで言えば名古屋に軍配が上がっていた。両チームのスタイルの違いが表れているスタッツだ。ボールを保持していた川崎は今節も家長が左サイドに出張することが多かったため左サイドの方が右サイドよりも多くボールが入っている。そして最も多くパスを入れていたスペースがフロントエリアで8本のパスを通している。これが川崎が主導権を握れた要因だ。一方の名古屋はカウンターベースだったこともあり、起点となっていた酒井のいるバイタルエリアと相馬の右ファジーゾーンに2.3本のパスが入っていた。

・上手い前進だったがカウンターを受けてしまったビルドアップ
今シーズンはなかなか思うようにボールを保持できずに苦戦することの多かった川崎だが前半はしっかりボールを保持することができた。ただボール保持といっても試合開始直後とそれ以後で若干異なる前進のしかたをしていた。

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まずは5分のシーン。名古屋は試合開始から442でハイプレスを仕掛けてきた。このシーンではCB山村に対してSHマテウスが出てきており前で奪いたい意図が見える。マテウスが山村に出ていったことでSB吉田がSB山根に縦スライド。それによってチャナがフリーになり山村から楔のパスがズバッと入った。

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そしてこれは9分40秒のシーン。今度は降りてきた家長をレオシルバが捕まえたことで稲垣とレオシルバの間が空き山村からダミアンへの楔のパスが入った。しかしダミアンは収めることができなかった。
このように試合開始しばらくは谷口からサイドに開いた山村にパスを出してIHや家長でボランチを外側に引っ張りできた隙間に山村から楔のパスを入れたり運ぶことで前進しようとしていた。しかしその運んだ先でボールを奪われることが多かった。そして奪われるとどうなるのか。

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17分20秒のシーン。橘田が降りて3枚でビルドアップしたことで2トップ脇から山村が配球が可能になり、脇坂がレオシルバを引っ張ってできたパスコースからこれもダミアンに楔が入った。しかしダミアンが中谷に対応されてしまい仙頭を起点にSB裏に走った相馬でカウンターを受けてしまった。このようにIHや家長で上手く楔のパスコースを作り楔を入れることができたが、その後カウンターを受けることが多かった。

・カウンターを受けないためのIH列落ちボール保持
CBからの楔のパスは効果的である一方で相手DFにとっても狙いやすい。それでカウンターを受けてしまった。そのため20分くらいからIHが降りてきてビルドアップに関わることが多くなった。こうしてボール保持をより確実なものにしてカウンターを受けないようにする狙いがあったと思う。

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そしてリスク管理だけでなくボールを安全に前進させることもできるようになった。名古屋は442でプレスをかける時2トップが背後の橘田をあまり気にしない。しかしだからと言って前節のガンバのようにボランチの一枚が出てくるわけでもない。従って橘田がフリーになることが多かった。この37分45秒のシーンでは降りていくチャナには稲垣がついており、2トップはバックパスを狙っている。そのため橘田がフリー。その橘田とワンツーしてチャナが抜け出した。

このようにIHが降りてきてフリーの橘田にレイオフで落としたり、SBから斜めに橘田へパスを出すことが多かった。もちろんここで橘田は前を向けるため前進することができた。そうして名古屋の陣地に押し込む時間帯が増えた。押し込んでしまえばネガトラで橘田が躍動。試合を通してタックル6回はトップの数字。ネガトラが機能せずにカウンターを受けても谷口や山村がしっかりと対応してくれた。あとはもっとシュートを打てれば完璧だった。

2.後半~名古屋の被保持からカウンター~

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後半のボール支配率は五分。ただ両チームともしっかりビルドアップすることは多くなくパス成功率も80%を切りオープンな展開になった。オープンな展開になるとカウンターを打ちやすくなり、川崎もシュート数が3本から6本に増加しPPSは42.5に減少した。パスヒートマップを見ると両チームの攻撃がはっきり表れている。名古屋は両ファジーゾーンに4本のパスで最多。サイドを起点にカウンターを狙っていたことがわかる。一方の川崎はサイドだけでなく中央にもパスが入っている。これは名古屋よりも敵陣での攻撃が遅攻メインなので、カウンターで敵陣に運んでボール保持という攻撃が多かったから。

・名古屋のカウンターを打つための修正
前半開始直後には先述したようにカウンターからシュートという流れをいくつか作れていた名古屋だったが、徐々に川崎からボールを奪えなくなった。それを後半からどう修正してきたのか。

まず一つめの修正がハイプレスで2トップが橘田を意識するようになったこと。

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前半で書いたように名古屋はフロントエリアの守備がざるでここから川崎は前進することができていた。しかしこの54分30秒のように仙頭が橘田を切りながら谷口にプレスをかけると、すべてはハマってしまいダミアンに蹴るしかなくなった。61分45秒のシーンでも同じようにプレスをかけられて宮原に奪われてしまった。こうして川崎はボールを前半ほど保持できなくなった。

そして二つめが逆足サイドハーフだ。前半は左がマテウスで右が相馬と順足のSHだった。そのため前半で紹介したカウンターのようにSHが縦突破を狙っていた。しかしこれは山根や佐々木に対応されることが多かった。そこで左右のSHを入れ替えた。
46分に早速この修正が成功した。マテウスが佐々木に正対すると佐々木は利き足である左足を警戒して中にポジショニング。その外側を宮原が上がってきて1対2の数的優位。マテウスは宮原を使いチャンスになった。このように逆足SHを使うとSBのオーバーラップで数的優位を創り出せる。相手が縦を警戒してきたら53分10秒や70分30秒のようにインスイングのクロスを上げることができる。
こうしてカウンターからチャンスを作るようになったが最終的には川崎のCB谷口と山村が対応。谷口はクリアが6本で両チーム最多。空中戦も名古屋の酒井は6回やって勝利なしと抑え込まれていた。

・ボール保持も練っていた名古屋
この試合がどんな試合だったかと言えば川崎の保持と名古屋のカウンターだとは思うが、名古屋はボール保持に関しても前半からしっかり対策を練っていた。

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まず60分のシーン。これは川崎対策の定番でWG裏のSBにボランチがレイオフで落とすプレー。ここで注目なのは小塚。レオシルバにボールが入ると背後からチェック。レオシルバが宮原に落とすと佐々木が出ていったのを確認んして今度は中央へのパスコースを埋める。そして宮原から縦へマテウスに出ると今度はそのままマテウスをチェック。交代直後とは言え鬼木監督に求められる守備での貢献度が上がってきているシーンだった。

そしてもう一つ名古屋は新しいWG裏の活用法をやってきた。

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これは62分のシーン。稲垣が一時的に下がって中谷からボールを貰うと藤井にパス。それに対して家長が外切りでプレスをかけると藤井はすぐに稲垣へもどした。その稲垣は浮き球でフリーの吉田にボールを出した。このように名古屋は川崎のWGに外切りプレスを発動させるために、隣のCBにボールを出しすぐにリーターンパスを貰って浮き球で逆サイドのSBに通すプレーをかなり狙っていた。この方法はおそらくこれまでのチームはやってこなかった新しい方法だ。ただ逆サイドのCBから浮き球で通すため川崎のIHには追撃する時間ができた。このシーンでも小塚がボールを奪うことができた。また、SBにボールが入った後にどうするのか決まっていなかった感があった。

3.まとめ

試合終盤はセットプレーを多く与えてしまったり危ない時間もあったが前半のマルシーニョの1点を守り切って勝利。決して決定機は多かったわけではないが、前半の試合内容や後半の勝負強さを考えると今シーズン最も良いゲームだったと思う。鬼木監督が常々言っている攻撃的な川崎が見れた。
それは試合終盤の塚川の交代にも表れていると思う。普通であればCKのリスク管理で塚川を投入しそうだが鬼木監督はしなかった。おそらくCKで失点してしまった場合に小林を入れてゴールを狙うつもりだったのだと思う。鬼木監督らしい采配だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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