見出し画像

J1第3節 ガンバ大阪対川崎フロンターレ データレビュー

川崎は前節ホームで浦和にスーパーカップのリベンジを果たし今シーズン初の連勝を達成した。そして今節は開幕からのリーグ5連戦ラスト。相手は片野坂監督を招聘したガンバ大阪。片野坂監督と言えば大分をJ3からJ1まで昇格させた名将。大分時代にも川崎を何度も苦しめてきた監督だ。そして今節もガンバ大阪を指揮して苦しめてきた。特に前半の川崎ボール保持をめぐる攻防が非常に面白かったので、今回はそれをメインに書いていきたいと思います。

画像1

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~川崎ボール保持をめぐる攻防~

画像2

前半のボール支配率は五分五分だったがEPPを見ると効果的にパスを回せていたのは川崎。ガンバのEPPが13.7なのに対して川崎は約2倍の28.3という数字になっている。パスヒートマップを見ると川崎はフロントエリアやバイタルエリアにパスがあまり入っておらず攻撃の中心はサイドだったことがわかる。中央にあまりパスが入らなかった原因はガンバの守備による。それについてはのちほど。そして両サイドを均等に攻撃している川崎に対して、ガンバは右ファジーゾーンには4本、左サイドのファジーゾーンには2本と右サイドを中心に攻撃していたことがわかる。得点シーンも右サイドからあがったクロスからだった。

・大分時代と同じ方法の川崎対策
先述したように川崎は片野坂監督に大分時代から何度も苦しめられてきた。その片野坂監督が川崎に対して取った対策は川崎にボールを自由に握らせないこと。具体的にはアンカーの橘田と2CBの3人にプレッシャーをかけるというもの。今回も同じ対策を取ってきた。

画像4

これは6分5秒のシーン。川崎のGKを使ったビルドアップに対してガンバがハイプレスをかける。ガンバのシステムは442で2トップが2CBにプレッシャーをかけて左CHの倉田が前に出て橘田を捕まえる。こうすることで2トップが背後を気にせずにCBにプレスをかけることができる。そのため中央へのパスは少なかった。そして2トップが川崎をサイドに追い込むようにプレスをかけるため、川崎はサイドにボールが移動してハメられてしまう。こうして川崎は開始10分程度ボールを運ぶのに苦労した。

10分ほど経過するとガンバはハイプレスをやめミドルゾーンにセットしてからプレスをかけることが多くなった。しかしプレスのかけ方はハイプレスと同じだ。

画像5

24分30秒のシーンでは宇佐美が山村に中切りでプレスをかける。倉田は橘田を監視するのが役目だったが脇坂へのパスコースも気になり一瞬橘田をフリーにしてしまった。その隙を見逃さなかった山村が橘田にパスを出した。するともちろん倉田は食いつく。そしてその倉田の背後の脇坂へ橘田がパスをだした。

このようにアンカー担当の倉田の背後にスペースがあることを川崎の選手は認識していたように思う。そのため山村が2トップの脇を積極的に運んで右サイドを攻略しようとしていた。しかし運んだことで自滅してしまいなかなか上手くいかなかった。

画像6

それが17分15秒のシーン。このシーンではパトリックが橘田へのパスコースを切りながらサイドに誘導するため倉田は通常のポジショニング。山村は右サイドに運ぶわけだが、自発的に運んだというよりはパトリックに橘田へのパスコースを切られてしまい谷口との距離も遠く運ばざるを得ないように見えた。しかもパトリックの前に入るようなドリブルではなく逃げるようにサイドに向かって運んだため、ガンバの同サイド圧縮に自らハマりに行ってしまった。このようなシーンが28分35秒や30分40秒にもあった。

・川崎はどうやってこの対策を攻略すべきだったのか
ではどうすれば良かったのか。まず1つめの狙いどころはガンバのCB間だ。ガンバの左サイドは倉田が橘田を監視するタスクであり、倉田がニアゾーンランする選手にも付いていくのは不可能なのでCBの昌子がハーフバイタルやニアゾーンランに対応する決まりになっていた。すると起きる現象がCB間にスペースができる。

画像7

41分20秒のシーン。このシーンでも倉田が橘田を捕まえているためその背後に大きなスペースがある。ここでボールを受けようとする脇坂には昌子が出てきて捕まえる。それによって三浦と昌子の間にはぽっかりとスペースが生まれた。このような現象が22分や37分25秒そしてさっき紹介した23分40秒でも起きていた。このCB間から裏に抜けていく選手がいれば昌子が脇坂に出ていくことを躊躇させるもしくは、ガンバのDFラインをよりスライドさせて左サイドにスペースを作ることができた。しかしそのような選手はいなかった。

2つめは2トップ脇の有効活用だ。さきほど山村の運びで自滅してしまったと書いたがそれは山村だけの問題ではない。さきほどの17分15秒のシーンなどでは山村が運んだあとにやり直す手段がなかった。具体的に言えば橘田や山根が相手に捕まってしまっていた。しかし15分30秒の山村の運びは効果的だったと思う。

画像8

まず山村はパトリックの正面から外側に運ぶのではなくパトリックの横から前に向かって運んだ。それによってパトリックのプレッシャーを回避。さらに山根が低い位置にいるためもし運んだ先でパスが出せなくても山根でやり直すことができる。それは脇坂も同じ。ただ山村から脇坂へのパスが若干ズレたことでボールを失ってしまったが形としては良かったと思う。このように2トップの脇を効果的に運ぶシーンがもっと多いと良かった。

画像9

またCBが運ばなくても2トップ脇を有効活用できる。このシーンでは谷口がパトリックの脇でボールを受けたのに対しSHである小野瀬が出てきた。その背後に佐々木がポジショニングしており谷口は佐々木へパスを出した。結局チャナがバックパスしたため前進できたわけではなかったが2トップ脇でSHを引っ張り出してその背後という良いプレーができた。

そしてこの15分30秒と30分25秒のシーンで共通しているのは橘田が降りて3バックでビルドアップしている点だ。アンカーが降りることをあまり鬼木監督が好んでいない気はする。しかしこの2シーンはどちらも橘田が降りて山村と谷口が2トップの脇でボールを受けることができたため、効果的なプレーに繋がった。個人的には昨シーズンのシーズンレビューでも書いたように3枚でのビルドアップをもっと柔軟に取り入れるべきだと思う。ただそこで重要なのは2トップの間に代わりの選手が一人立つということ。上2つのシーンでは脇坂が立っている。

このように川崎のボール保持に対する片野坂監督の対策。それを読んだ川崎の選手たちのプレーという攻防がとても面白かった。この攻防に勝利したのはガンバだったと思う。川崎の選手は倉田の背後にスペースがあることはわかっていたがそのもう一つ先まで見えていなかったように思う。そしてなかなかゴールを奪えずガンバがボールを保持した時一瞬集中力が切れて、ズルズル下がってしまい失点した。パスヒートマップを見てもわかるようにガンバが川崎のプレッシャーを回避したシーンはなかっただけにこのシーンはもったいなかった。またデュエルでも負けており、ガンバの37回勝利で川崎は20回勝利だった。ボール保持に頭と体を使いすぎてしまった感がある。

2.後半~前半とは異なった川崎対策~

画像3

後半のボール支配率は川崎の78%と川崎が敵陣で押し込む展開になった。EPPを見ても大分は9.8とかなり低い数字でシュートも1本しか打っておらずPPSは130。川崎のパスヒートマップを見ると左ハーフバイタルにはパスが1本も入っていないのに対して右は4本も入っており右サイドが攻撃の中心だったことがわかる。

・片野坂監督の修正力
後半になると片野坂監督は倉田の橘田を監視するタスクをやめ2トップで挟む形に変更した。それにより2トップが自由にCBへプレスをかけることができなくなり川崎のCBはプレッシャーを感じることもなく、橘田が降りなくても2トップ脇を運べるようになった(48分30秒)。さらに58分に家長と小塚が投入されると、運んだ山村も加わって右サイドでボールを回しクロスや斜めの楔を入れるようになった。家長が入ったことでボールを落ち着けて押し込むことができるようになった。

すると片野坂監督は60分すぎあたりから532で守ることに変更。押し込まれることを受け入れて5バックで失点しない形に修正した。それでもカウンターでとどめを刺せるように2トップを配置。そして2点目を入れると今度は541に変更してパトリックまで自陣深くで守備。ゴール前に9.10人いる状態で流石にこれを崩すのは難しい。そんな中でアディショナルタイムに同点弾を小林悠がしたたかにボールを奪いダミアンのゴール。

素晴らしい片野坂監督の対策や修正、そしてそれを実行するガンバの選手も素晴らしかったが、最終的には選手の諦めない心やしたたかさがゴールに繋がるんだなと感じた。

3.まとめ

くどいようだが片野坂監督の対策と後半の修正は素晴らしかった。記事内では川崎が上手くいかなかった理由について主に書いたが、左サイドでは11分50秒のように佐々木が内側にポジショニングしたり、27分20秒のようにチャナが遠野と佐々木の間に降りてきたり、また新たな動きが見れた。今節は厳しい試合だったが3枚でのビルドアップなど今後に繋がりそうなプレーが多く個人的には良い試合だったなと感じた。
最後までお読みいただきありがとうございました。

4.データ引用元


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?