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カタールワールドカップ 日本対クロアチア データレビュー

本記事はワールドカップ・アーカイブ化計画の”遊軍”として投稿させていただきます。初めましての方向けの簡単な自己紹介などは前回のドイツ対日本の記事にありますので、ぜひそちらのイントロ部分を読んでから戻ってきていただけると幸いです。

この記事では試合を様々なデータのみを使って分析していく記事です。戦術的な観点の分析はぜひ他のライターさんの記事をご覧ください。

1.試合総括

データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。

計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。
EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

・前半

前半はクロアチアのボール支配率が58%とクロアチアの方がじゃっかんボールを保持していたが、EPPを見ると日本が22.6でクロアチアが14.0と日本の方が効果的にパスを回していたことがわかる。
クロアチアは日本のボランチ遠藤と守田をフリーにしてくれることが多く、特に遠藤は出し手ポイントが8.1と非常に高い。クロアチアはボランチにプレスをかけるわけでもなく、またライン間へのパスコースを切ることもしなかったため、鎌田や堂安で彼らがブロゾビッチの横で受けて前を向けることが多く、鎌田は受け手ポイントがトップの数字だ。
また、守田から伊東へあったようにサイドチェンジで日本のWBの長友と伊東もサイドの良い位置でボールを受けれていた。しかし彼らの出し手ポイントを見ればわかるように、サイドで張ったWBとのコンビネーションがなく、サイドでは個人で突破してクロスを上げる単調な攻撃になってしまった。
クロアチアは右サイドのSB-WGのポイントが左サイドよりも高いが、これは鎌田が中切りでプレスをかけるため、SBはWGにパスを出すしかなかったから。一方の左サイドではグヴァルディオルから裏に抜けたペトコビッチへのロングボールが多かった。

・後半

後半は両チームともパス成功率が80%を切った。クロアチアはラフなロングボールやクロスが攻撃の中心になったためで、日本はボールを奪ってもクロアチアにネガティブトランジションで囲まれて浅野目掛けてロングボールを蹴るしかなくなったためだ。日本のロングボール数は前半の22本から後半には34本へ増加した。そのため両チームともEPPは低くなっている。
延長戦はパス数が少なくあまりEPPが意味をなさないので省略します。

2.FIFA公式データ

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285073/400128132?country=JP&wtw-filter=ALL

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_128072.pdf

次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。

・Phases of Play

日本とクロアチアで大きく差があるのはBuild Up Unopposed(プレッシャーを受けてないビルディング)だ。日本は25%に対してクロアチアは43%とクロアチアの方が自由にボールを持てていた。
非保持を見ると両チームともハイプレスやハイブロックの割合は低く、ミドル・ローブロックが大きな割合を占めている。

・Line Breaks

左が日本で右がクロアチア、ラインブレイクとはパスやドリブルで守備ラインを越えることだ。トータルや成功回数もほぼ両チームで差がなく、日本とクロアチアで攻撃手段は違ったものの、かなり互角の戦いをしていたことがデータからもわかる。

このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットのスタッツはわかりにくいので飛ばします。Through(通過)で最も多くラインブレイクしていたのは遠藤で10回。出し手EPPも高かったようにこの試合は守備面でのデュエルだけでなく攻撃面でも際立っていた。次に多いのは谷口と守田で8回、また冨安も7回となっており、日本の攻撃の起点はボランチの3バックの左右だった。特に冨安はAround(外経由)でのラインブレイクも12回でトップと、外と中の両方を使って攻撃を活性化させていた。

クロアチアは日本に比べてThrough(通過)の回数が少なく、最も多いモドリッチでも7回となっている。しかしAround(外経由)では右SBのジュラノビッチやアンカーのブロゾビッチが13回で多く、最も特徴的なのはOver(浮き球)でのラインブレイクで半数以上の選手が10回を超えている。また両SBのバリシッチとジュラノビッチがクロスでのラインブレイクが多く、やはりクロアチアは綺麗にショートパスで繋ぐのではなく、ロングボールやクロスでの攻略がメインだった。

・Attempts at Goal

日本はPA内から5本シュートを打っているが、その内4本を枠内に飛ばすことができなかった。PA外から枠内に3本打てているがやはりPA外からだとGKに対応されるまでの時間も長くなってしまう。ドイツ戦とスペイン戦では少ないチャンスを活かしてきた日本だったが、この試合では決定力を欠いてしまった。

またクロアチアもシュート16本中10本がPA内からだが、枠内に飛んだシュートは3本のみ。全体的に見ても枠外に飛んだシュートが多く、両チームとも決定機・決定力不足だったと言える。

・Crosses(Open Play)

日本は120分間で22本のクロスを上げた。しかしPA内のポケットから上げたクロスはたった2本のみ。ドイツ戦では20本のクロスの内6本がポケットからのもので、南野のクロスのこぼれ球を堂安が押し込んだ。このようにポケットからのクロスは有効だがクロアチア戦ではそれができなかった。多くクロスを上げていたのは伊東や長友などだが、試合総括で紹介したように彼らWBが孤立してしまい彼らが自力でクロスを上げなければならなくなっていたことが原因の一つだ。

クロスを主な攻撃手段としていたクロアチアは32本のクロスを上げて9本成功し、成功率は28%で日本の18%を大きく上回った。プロットを見ればわかるようにアーリークロスからの成功が多く、得点シーンはまさにそうだったが日本を押し込んだことでできた手前のスペースからターゲットマン目掛けてクロスを放り込んでいた。ターゲットマンのいない日本はポケットを取る必要があるが、クロアチアは低い位置からのアバウトなボールでも有効だった。そしてもちろんクロスの供給は両SBがメインだ。

・Offers & Receptions

これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。
守備ブロック前でボールを受けようとしていたのは3バックの両脇やボランチが多い。注目はシャドーでプレーした鎌田と堂安。鎌田の方が守備ブロック前で受けようとした回数が多く、堂安の方がライン間で受けようとした回数が多い。鎌田の方がビルドアップに関与していたことがわかる。また堂安は外から中、中から外へ受ける回数も多く、伊東と立ち位置を入れ替えながらプレーしていた。

クロアチアは中盤3枚の守備ブロック前で受けようとした回数がダントツで多く、彼らがライン間で受けようとした回数は日本に比べたら非常に少ない。そして逆に背後で受けようとした回数は両WGを中心に多く、中盤3枚が配球役となって裏へ蹴る意識が高かった。

・Defensive Actions

日本とクロアチアのボール奪取を比べると、クロアチアの方がより高い位置が多い。またタックル数もクロアチアの方が10回多く、日本としては後半からビルドアップに余裕がなくなりミスが起きたりすぐに奪い返されてしまった。

・Defensive Line Height & Team Length

非保持のフェーズで見たように両チームともハイプレスはあまり積極的に行わず、ミドル・ローブロックが基本だった。そこでミドル・ローブロックに注目すると、クロアチアの方が縦方向に広く間延びしていたことがわかる。たしかに前半日本が余裕を持ってボールを保持できた時はライン間で鎌田や堂安がボールを受けれるスペースがあった。一方で日本がライン間にボールを入れられて前進されるシーンは少なかった(そもそもクロアチアがそれを狙わずロングボール狙いだったのもあるが)。

・Defensive Pressure

ボールを保持する時間がクロアチアの方が比較的長かったためプレッシャーをかけた回数も日本の方が高くなっているが、やはり日本は高い位置でのプレッシャーが少ない。ボールを再び奪い返すまでにかかった時間は日本が13.87秒でクロアチアが8.66秒と差がついている。日本としては奪ったボールをすぐ奪い返されてしまい、なかなか自分たちの時間を作ることができなかった。

・Goalkeeping Distribution

これは権田の配球を表している。日本はドイツとスペイン相手には一貫して右サイド高い位置を狙い、コスタリカ戦ではむしろ近い位置での配球が多かった。そしてクロアチア戦ではドイツ・スペイン同様に右サイドに加えて左サイド高い位置への配球も多い。対戦相手の位置づけとしてはドイツ・スペインと同じようにリスクをかける相手ではなかったようだ。

ロングボールを多用したクロアチアだったが、GKの配球では低い位置への配球も多い。ビルドアップする姿勢を見せて日本を高い位置に引き出し裏のスペースを作りだすことが狙いだったかもしれない。また左サイドへの配球はほぼ失敗したが、右サイドへの配球はほぼ成功している。

・Goal Prevention

権田はセーブ率75%。コスタリカ戦ではシュートを浴びることが少なかったが、ドイツ戦とスペイン戦では80%を超えており今大会の躍進を間違いなく支えてくれた。

シュートのデータでも述べたが、日本はPA外からのシュートが多くリバコビッチに反応する時間を与えてしまう。前田のゴール以外で枠内に飛んだシュートは全てPA外でリバコビッチにセーブされてしまった。

3.まとめ

ドイツとスペインに勝利し初のベスト8に期待が高まっていたがPK戦で敗退となってしまった。ドイツとスペインというチームの完成度が高く魅力的なサッカーをしてくる相手には、割り切って守りショートカウンターでゴールを決め勝利できた。しかしコスタリカ相手にはボールを保持しても効果的ではなく、クロアチアの徹底したロングボールとクロス戦術にはボールを安定して保持できず押し込まれてしまった。やはりオリンピックでも感じたことだがボール保持にもっとこだわる必要があると感じた大会だった。
選手・コーチ陣お疲れ様でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

4.データ参考元

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285073/400128132?country=JP&wtw-filter=ALL

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_128072.pdf


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