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カタールワールドカップ ドイツ対日本 データレビュー

今回ワールドカップ・アーカイブ化計画に参加させていただくことになりましたフロアカです。担当試合はポーランド対アルゼンチンですが、日本代表の試合も個人的にレビューを投稿していきます。

ワールドカップ・アーカイブ化計画に関してはこちらをご覧ください。

初めましての方もいらっしゃるかもしれないので、簡単に自己紹介をさせていただきます。普段は川崎フロンターレのデータを使ったプレビューとレビューやデータ分析記事などを投稿しています。データの面白さを広めたく、データに関する情報発信をしてきました。ピッチ上の戦術的なレビューは他のレビュワーさんに託して、私はデータのみを使ったレビューを投稿していきますのでよろしくお願いします!

1.試合総括

データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。

計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。

EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

・前半

まずチームのEPPを比較すると、ドイツが53.9で日本は10とドイツが圧倒してパスを回していたことがわかる。まずドイツのSBを比較すると、出し手としてのポイントが高いのは右の15ズーレ、受け手は左の3ラウムの方が高い数字だ。これはドイツが左方上がりでラウムが幅取り役をしてズーレは低い位置で配球役を担っていたからだ。
そしてドイツのボランチはボールを受けに降りて来ることが多かったが、特に21ギュンドアンは出し手ポイントがズーレの次で二番目に高く受け手ポイントはほぼ0に近い。
13ミュラーは受け手ポイントが14ムシアラに次いで二番目に高いが、これはライン間だけでなくズーレと10ニャブリの間に降りてサイドでボールを受けることが多かったからだ。
両SHを比較するとムシアラはラウムが幅を取るため内側に入ることが多かったため、より高いポイントのつくライン間でボールを受けることが多く受け手ポイントはチームトップだ。しかし右サイドのニャブリはズーレからパスを受けることが多く受け手ポイントが比較的高いが、出し手ポイントが非常に低く、左サイドに比べると攻撃が停滞していた。

このようにドイツは3枚ビルドアップで、左はシュロッターベックが運びラウムとムシアラのコンビネーションで突破、右はズーレからミュラーやニャブリに出されて前進していた。これに全くプレスがハマらなかった日本は押し込まれ続ける前半となってしまった。

・後半

後半はドイツの方が依然として高いEPPだが、ドイツは37.3に低下した一方日本は27.6に上昇した。
ドイツの選手別EPPを見ると左右の傾向などは前半とあまり変わっておらずやり方は同じだった。しかしそのEPP自体が減少しており日本のプレスがハマったと言える。
日本の出し手ポイントに注目するとトップは冨安。ドイツのプレッシャーが弱くなったと見るや、サイドの三笘やライン間の浅野と南野に楔を刺すシーンがあり、彼らの受け手ポイントが高くなっている。
右サイドでは酒井からラウムの裏を取った伊東へのパスが多く、酒井は出し手ポイントが三番目に高く伊東は受け手ポイントが二番目に高い。

これらの要因は日本の343への修正だ。これによって前半は3枚の両脇がフリーになっていたが、3トップでビルドアップにマンツーマンでプレスをかけることが可能となった。またドイツの運動量も下がったことで日本もボールを前半に比べて持てるようになり、冨安の配球やラウムの裏で伊東がボールを受けれるようになった。

ここからは各データサイトのデータを見ていきます。各サイトから気になったデータを抽出して紹介します。

2.Sofascore

試合トータルでのゴール期待値はドイツが3.09で日本が1.46。ドイツは前後半でシュート数やゴール期待値はあまり変化ないが、日本はシュート数が1本から11本に増えた。ボール支配率が19%から34%に増加し攻撃時間が増えたのが大きい。デュエルの勝利数はトータルでドイツの47勝日本の50勝と一対一では負けていなかった。特に押し込まれてしまった前半ではドイツの19勝で日本の26勝。チーム戦術では負けていたがドイツの決定力や個人の質に助けられた前半だった。特に遠藤は9/11回勝利でムシアラは4/17回勝利と中央に入ってくるムシアラを抑えることができていた。

3.Opta

前半
後半

上の二つはドイツの前後半におけるキーパス(シュートに繋がったパス)を表している。前半はゴール前での縦方向のショートパスが多いが、後半になるとPA外での横向きでクロスが多くなり攻撃が雑になっていることがわかる。

4.FIFA公式データ

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/test/report_133005.pdf

次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。

・Phases of Play

これは両チームのボール保持と被保持の中でさらにフェーズ分けをしてその割合を示したもの。
まずドイツから見ていくとやはりビルドアップが保持時で最も多いフェーズだったことがわかる。しかしunopposed(プレッシャーなし)でのビルドアップが保持の42%を占めており日本のプレスがハマっていなかった証拠だ。そのためファイナルサードでの崩しが23%と高い割合になっている。日本はドイツに比べてビルドアップや前進そして崩しの割合が低く、ロングボールも多い。そして日本が最も狙っていた攻撃はカウンターだったが、その起点となるAttacking Transition(ポジトラ)の割合は21%と高い一方でカウンターは3%と、なかなかカウンターを打てなかった。
ボール被保持での日本はミドルブロックとローブロックの割合が圧倒的に高い。一方でドイツはハイプレスとハイブロックが11%ずつで、Defensive Transition(ネガトラ)が21%で最も高い割合。しかしカウンタープレスも13%と二番目の数字で、ボールを失ってもすぐ奪い返していたため、日本はカウンターを打てなかった。

・Possession Line Height & Team Length

これは両チームのボール保持時におけるラインの高さと陣形の大きさを示している。ビルドアップと前進のフェーズでは日本の方が低い位置でさらに横幅も狭いが、崩しのフェーズではドイツの方が縦も横もコンパクトに攻撃している。日本が特に前半あれだけ押し込まれてしまい、ドイツもズーレなどが持ち運んだりして最小限の幅で攻撃してきた。

・Line Breaks

これはラインブレイクと言って、ドリブルやパスで相手のDF,MD,FWのラインを越えた回数だ。トータルではやはりドイツの方が圧倒的に多い。しかしDFラインを越えたラインブレクに関しては、試行回数にあまり大きな差はない。ただ成功数は差がついておりドイツの質の高さが伺える。しかしDFラインを突破することは最もゴールに近くなるアクションで、日本は後半にドイツをひっくり返してDFラインを突破できるシーンがいくつあったことが勝利に繋がった。

このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットに関しては少しわかりずらいので、注目は右から二つ目の項目でラインブレイクした方向だ。ドイツはボランチのキミッヒとギュンドアンがラインをThrough(直接)超えており、中央をパスで通過されてしまっていた。また3枚の両端だったシュロッターベックとズーレはAround(外経由)でのラインブレイクが多く、やはりこの二人がサイドで起点となっていた。これをEPPと照らし合わせると、キミッヒやギュンドアンが中央では楔を入れて、シュロッターベックとズーレがサイドでラインブレイクをするという、日本からすると厳しい状態だった。

一方の日本はドイツに比べてThroughやAroundでのレインブレイクが少なく、Over(空中から)が板倉や吉田のCBを主に比較的多い。ドイツはボランチが直接ラインブレイクできていたが、日本は遠藤がOverで1回のみだ。ただその代わり鎌田が8/8成功しており起点となっていた。そして注目は冨安。途中出場にも関わらず外経由でのラインブレイクが6回でチームトップ。EPPでも見たように後半の日本のビルドアップは冨安が鍵を握っていた。

・Attempts at Goal

続いてはシュートスタッツ。ドイツは25本のシュートを打ったが枠内に飛んだのは8本。シュートエリアを見てもPA内から14本のシュートを打っているが枠内はたったの4本。後で紹介するが権田のセーブが光ったとは言え決定力を欠いたドイツだった。特にゴール上に飛んだシュートが5本ありもったいなかった。

一方の日本はシュート全てがPA内からで枠内に飛んだ3本のうち2本でゴールを上げた。決定機を決め切れなかったドイツに対してワンチャンスをものにした日本と言えそうだ。ただPA内でシュートを10本打てており後半に修正できた証拠だ。

・Crosses(Open Play)

これはクロスのデータ。ドイツはラウムが最も多い7本のクロスを上げ、ニャブリが二番目に多い5本のクロスを上げた。幅取り役の彼らが大外からクロスを上げており左が9本右が5本となっている。そして左のニアゾーンから4本クロスが上がっているように、より危険な位置でクロスを上げていたのは左サイド。やはり右サイドはニャブリに出してからもう一つ先がなかった。

日本は左右で非対称となっている。右サイドでは大外から5本のクロスが上がっており、左サイドではニアゾーンから4本のクロスが上がっている。最も多い4本のクロスを上げたのは伊東で、取り消しになった前田のゴールのように彼が右サイドの大外で頑張っていたことがわかる。では左のニアゾーンからクロスを上げたのは誰かと言うと、久保や鎌田や南野など中央でプレーしていた選手。同点に追いついたシーンも南野がこのエリアから上げたクロスが起点となった。

・Offers & Receptions

これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。ボランチやDFラインの選手は守備ブロック前での動きが多く、ハバーツやミュラーはライン間での動きが多い。SHを比較するとムシアラがニャブリに比べてライン間での動きが多いことからも、ムシアラが中央でプレーしていたとわかる。注目はミュラーの中から外への動きで13回どダントツで多い。これはミュラーがズーレとニャブリの間に降りることが多かったからだ。

日本はボール保持が少なかったため動きも少ないが遠藤や田中が守備ブロックの前でボールを受けようとすることが多かった。ライン間ではボランチに加えて鎌田が21回で最も多い。鎌田はその他のスペースでもチームトップの数字となっており、動き回ってボールを引き出そうとしていたことがわかる。

・Defensive Actions

これは守備アクションに関するデータ。他のレポートを見ると守備の時間が長かった方がタックルやターンオーバー(ボールをロストさせた回数)が多く、Possession Regained(ボール奪回)やインターセプトは差が付きにくい。ターンオーバーとリゲインのプロットを見ると、ドイツは左サイドの中盤以下でボールを回収することが多く、右サイドでは高い位置が多かった。逆に言えば日本の右サイドはボールを前進できていたが、左サイドは低い位置でボールを失っていたと言える。

日本はドイツに比べて低い位置でのボール奪回やターンオーバーが多い。注目は敵陣のサイドではターンオーバーを発生させており、前半に起点を作られた3枚の両端に後半ではプレッシャーをかけてボールを奪えていた。

・Defensive Line Height & Team Length

最初のプレーフェーズで見たようにドイツはローブロックが少なく、日本はハイプレスが少なかったため、完全に比較はできないが日本のローブロックはドイツに比べて縦がコンパクトで高い位置だった。

・Defensive Pressure

これはプレッシャーの位置と方向を示した図。もちろん日本の方がプレッシャーをかけた回数は多かった。プレッシャーの質を見ると継続時間がドイツは1.55秒で日本は1.23秒とドイツの方が長く、ボールを奪い返すまでの時間はドイツが5.64秒で日本は約3倍の18.7秒だった。やはりドイツのゲーゲンプレスは強度が高く成功していた。ただ日本がそれを突破できてカウンターを打てることができたのも事実だ。

・Goalkeeping Distribution

これは権田の配球をあらわしている。ノイアーは左右均等に配球していたので掲載していないが、権田は明らかに右サイドを狙っている。やはりラウムの裏に伊東を走らせる狙いはあったのだろう。

・Goal Prevention

そしてノイアーのセーブ率は33%だったが権田は驚異の89%。枠内に飛んだ7本のシュートをセーブした。日本としてはあのノイアーから枠内3本で2ゴールあげたのだから素晴らしい。

5.まとめ

FIFA公式データが膨大なため長めの記事になってしまいましたがいかがでしたでしょうか。データの面白さをお伝えできたら嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

6.データ参考元

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/test/report_133005.pdf


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