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J1第18節 川崎フロンターレ対ジュビロ磐田 データレビュー

リーグ戦再開初戦で札幌に5-2で勝利した川崎は再びホームで磐田と対戦する。ミッドウィークに行われた天皇杯3回戦ではJ2の東京ヴェルディにホームで敗戦し、また一つタイトルを逃してしまった。リーグ3連覇にとって後半戦初戦の今節は絶対に勝利したい試合だ。一方の磐田も現在は残留圏に留まってるが降格圏との勝ち点差はたったの2で、勝ち点はなんとしても取りに来るはずだ。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~川崎がゲームを支配した理由~

前半のボール支配率は川崎の64%で川崎のパス成功率は93%と川崎が圧倒的にゲームを支配していた。そのためEPPは41.5と非常に高い数字でこれは川崎の1試合平均とほぼ同じ数字だ。しかしシュート数は4本のみと少なかったためPPSは110と高めの数字になっている。パスヒートマップを見てみると最も多くパスが入っているのがファジーゾーンで右が9本で左が8本となっている。また裏やライン間にもパスが5.6本入っており効果的にボールを動かすことができていた。
一方の磐田のEPPは12.6と非常に低くボールを効果的に繋ぐことができていなかった。そのためシュートも打つことができなかった。パスヒートマップを見てもファジーゾーンや裏へのパスが多くライン間にはパスがほとんど入っていない。

・大島を起点としたビルドアップ

川崎がボールを握ってゲームを支配できた理由の一つは磐田が541で守備を行ったためプレスがハマらなかったことがある。541だと1トップ杉本の周辺にスペースがあり、杉本一人で川崎の2CBと大島の3人を監視しなければならず、プレスをかけることができていなかった。特に大島がフリーで配球できるシーンが多く大島は両チームで最も多くのパスを繋いでいた。

大島のような選手をフリーにさせてしまうと質の良いボールが次々と配球されてしまう。開始すぐの2分50秒では大島が車屋からボールを引き取ったが磐田はプレスをかけることができず、大島は上原と遠藤の狭い隙間から遠野へ楔のパスを入れた。そして遠野がチャナティップを走らせることでビルドアップ成功。このように大島を起点として川崎はビルドアップを行っていた。

それに対して磐田は大島をフリーにし続けたわけではない。

この6分5秒のシーンでは磐田は川崎のビルドアップに対してプレッシャーをかけるために鹿沼と大森が前めにポジショニングしていた。するとその裏にスペース(緑の丸)が生まれて、そこに脇坂が移動して来て谷口から縦パスが入った。同じように磐田のボランチを引き出してその裏のスペースを使う攻撃が左サイドで11分40秒にもあった。磐田としては大島をフリーにしたら自由に配球されてしまうし、ボランチがプレッシャーをかければスペースを与えてしまうというジレンマだった。

こうして大島を起点として中央を攻撃すると空いてくるのはサイド。

この9分15秒のように山根が低めの位置でボールを受けると中央に圧縮していた磐田はWBがスライドしてくる。すると生まれるスペースはその裏でIBの脇。そこに家長が走り山根からボールが出た。このようなプレーが直接的にチャンスに繋がることは少ないが、磐田の守備ブロックを押し下げることができる。こうして川崎は磐田を自陣に押し込むことに成功した。ただ家長が出張していたため山根はバックパスの選択肢しかなく、結果的に磐田にラインを上げられてしまうシーンも何回かあった。

・大島起点と右サイドへのサイドチェンジによる崩し

ビルドアップに成功して磐田を押し下げた後はシュートを打つために守備ブロックを崩す必要がある。前半に見られた方法は二つで大島の楔からコンビネーションと左右への揺さぶりだ。

まずは一つめの大島に楔のシーンで17分30秒。大島はこれも非常に狭い隙間から小林に楔のパスを入れて小林が走りこんできた脇坂に落とした。このように崩しの段階でも大島を起点としてチャンスを作っていた。20分20秒など。

そしてもう一つが押し込んだ後のサイドチェンジだ。川崎の左サイドは人数をかけて狭い空間でショートパスを繋ぐことが多い。すると磐田はそのサイドに守備ブロックを圧縮させる。そこで空いてくるのは右サイドでここに大島がサイドチェンジを送った。似たようなシーンが13分にもあり、このシーンでは脇坂から山根へのサイドチェンジでゴール前に走りこんできた遠野にへ惜しいシーンだった。

そして得点シーンは押し込んだことで谷口が高い位置まで進出でき、谷口から裏へ走った山根へのパスだった。このWBの外側から裏に抜けてくれる山根の存在は大きかった。

・橘田左SBによるネガトラでのメリット

この試合は前節に続いて橘田が左SBに入った。おそらくこれは恒久的な策ではなく、あくまでも佐々木のコンディションが安定するまでの処置だと思うがメリットもある。
前述したように川崎の左サイドでは狭いスペースでパスを繋いでいく。高難易度のプレーであるため当然ミスが起きてボールが奪われる。その時に橘田が左SBにいると即時奪回に貢献してくれる。こうして再び攻撃できるシーンがいくつもあった。45分25秒や45分50秒など。
ただ35分30秒のように川崎の右サイドへ大きく展開されてしまうと即時奪回できずボールを運ばれてしまうシーンもあった。

2.後半~修正に対応できなかった川崎~

後半になると磐田が修正してきたことで川崎は前半のようにボールを回せなくなったためEPPは41.5から27.1に減少した。パスヒートマップを見ても前半には5.6本のパスが入っていたライン間が後半には2.3本と半減しており、磐田の守備ブロックの外側でパスを繋ぐことが多くなったことがわかる。
一方の磐田だがEPPは12.6から12.3とあまり変化していないが、シュートが0本から7本へと増えたためPPSは29.9と非常に低い数字になった。磐田としては修正したことで前半に比べて後半の方が少ないパス数でシュートを打てるようになった。

・磐田の修正

後半になると磐田は伊藤監督も明言していたようにフォーメーションを532に変更して高い位置から川崎のビルドアップにプレッシャーをかけるようになった。

これは48分35秒のシーン。磐田は大森を一列前に出し杉本と2トップにして川崎の2CBにほぼ同数でプレッシャーをかけてきた。そうすると川崎のCBが外側に流れてプレッシャーから逃げるようになる。こうなるとサイドに押し込まれてしまいなかなかビルドアップが上手くいかなくなってしまう。このシーンでは谷口が家長に楔を入れるがリカルド・グラッサに奪われてしまった。家長ならここでキープして欲しいがそもそもプレッシャーがハマっているのでチームとして修正する必要がある。

前半は前述したように大島を起点としてビルドアップを行っていたが後半に磐田が前から来るようになると大島もフリーにさせてもらえなくなった。

これは55分20秒のシーンで、大森が谷口にプレッシャーをかけている。この時山根にはWBの松本が脇坂にはIHの鹿沼がマークについている。そして大島を上原が監視しており谷口周辺にフリーな選手はおらずプレスをハメられてしまった。このように磐田は2トップで2CBにプレッシャーをかけて、逆サイドのIHもしくはアンカーの遠藤が大島を捕まえる役割にすることで川崎のビルドアップを阻害することにある程度成功していた。75分05秒なんかは簡単にハマりすぎている。

ただ磐田のプレスも完璧ではなく51分5秒や67分のように川崎の選手が磐田MFラインの後ろでフリーになりボールを受けることでプレスを回避できるシーンもあった。ここを磐田の3バックが積極的に前に出て潰してこなかったのは助かったが、それでもこのようなシーンを多く作り出すことはできなかった。

これが67分のシーンだがチャナティップが磐田のMFラインの背後でフリーになりボールを受けて運んだシーン。この後チャナティップは右サイドへ大きく展開したが、そのおかげで磐田の選手が戻る時間を作ってしまった。できれば同サイドのスピードのあるマルシーニョを使って欲しかった。

・修正への対応は?

こうしてビルドアップが上手くいかなくなった川崎は悪い形でボールを失うことが多くなった。悪い形でボールを失うと即時奪回ができなくなり、川崎の選手たちは運動量も落ち始めてハイプレスに行くかハマらず空回りしてボールを運ばれてしまうという悪循環に陥った。またせっかくボールを奪っても56分30秒のように自らのミスで再び失ってしまうシーンも増えた。しかしこれに対して鬼木監督含めてチームとして修正することができなかった。

3.まとめ

結局CKで失点してしまい引き分けとなった。前半は大島を起点としてプレスを回避して押し込むことに成功したが、後半は磐田の修正に対して対処することができなかった。運動量の低下や交代選手の物足りなさなどもあるが、この試合に関しては後半に修正できなかった鬼木監督の責任が大きいと個人的には思う。とは言えこの試合の後半だけの問題ではなく現在の川崎フロンターレ自体の問題ではあるため難しい。

この度、川崎人さんとせこさんのFrontalkに参加させていただきます。詳しくはそちらでも話そうと思いますので、ぜひお聞きください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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