見出し画像

カタールワールドカップ 日本対スペイン データレビュー

本記事はワールドカップ・アーカイブ化計画の”遊軍”として投稿させていただきます。初めましての方向けの簡単な自己紹介などは前回のドイツ対日本の記事にありますので、ぜひそちらのイントロ部分を読んでから戻ってきていただけると幸いです。

この記事では試合を様々なデータのみを使って分析していく記事です。戦術的な観点の分析はぜひ他のライターさんの記事をご覧ください。

1.試合総括

データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。

計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。

EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

・前半

前半は日本がひたすら引いて守る展開。似たような展開だったドイツ戦とEPPを比較すると、日本のEPPが10.0でドイツは53.9で、日本のEPPはあまり変わらないがドイツよりもスペインの方が低い数字となった。
日本は541でミドルブロック。日本は1トップのためスペインはバックライン4枚でひたすら左右に揺さぶることができる。そのためスペインで最も効果的なパスを受けていたのは両WGオルモとウィリアムズだった。しかしそのWGへパスを出していたSBの出し手ポイントはCBよりも低い。これはWGがパスを受けた後のプレーが後ろ向きだったため、ポイントが半減したからだ。特に右のアスピリクエタからウィリアムズへのパス7/8で次のプレーが後ろ向きだった。
サイドのWGよりも日本が警戒しなければならなかったのは中央。スペインに延々と左右に揺さぶられることで、スライドが間に合わなくなりライン間へパスを入れられてしまう。出し手ポイントが最も多い両CBは前田のマークが外れたブスケツやライン間のガビ・ペドリに楔のパスを入れる。もしCBから直接ライン間へパスが入らなくても、ブスケツに入れて日本のボランチを引き出しブスケツが楔を入れる。
このようにスペインはWGが前向きでプレーできなくても、左右に揺さぶることで日本のスライドを遅らせて、ライン間へ楔を刺すことを狙っていた。しかし日本は5バックのため前へ出て潰しやすい。ライン間に入った12本のパスの内、スペインが前向きでプレーできたのは4本のみだった。

・後半

後半も開始直後こそ日本がハイプレスをかけたが、それ以降は前半同様スペインがボールを保持し続ける展開に。しかしEPPを見ると前半の43.8から35.4に減少している。選手別で見る前にスペインの選手交代によるポジション変更について確認。右サイドはカルバハルとトーレス(途中からアセンシオ)、左サイドはアルバとファティ、そしてガビの代わりにオルモが右IHでプレーした。
前半同様WGでプレーしたトーレスは受け手ポイントが最も高く、そのトーレスやアセンシオに配球していたカルバハルが最も高い出し手ポイントを記録している。しかし中盤でプレーしたブスケツ、ペドリ、ガビ(オルモ)は前半に比べて受け手ポイントが減少している。
前半は左右に揺さぶってライン間に楔のパスを入れていたが、後半は日本が逆転した後にスペインが焦って楔を入れて失うシーンがあったためか、スペインはライン間に楔を入れなくなった。
そのため日本としてはサイドのWBとWGの一対一で負けなければ守備を突破されない。これが前半よりも後半にスペインの怖さが減った原因だ。

2.FIFA公式データ

https://www.fifatrainingcentre.com//media/native/world-cup-2022/report_133020.pdf

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285063/400235475?country=JP&wtw-filter=ALL

次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。

・Final Third Entries

これはファイナルサードに進入した回数を5レーンで分けてカウントしたもので左が日本右がスペインだ。もちろん圧倒的にスペインの方が多いが、サイドの大外からの進入が多い。スペインの狙いは左右に揺さぶって中央を開けることだったのでその狙いが出たとも言えるし、日本が外経由で回させたと解釈することもできる。ただ試合総括で述べたように前半は前者の考え方で後半は後者の捉え方が合っていると思う。

・Phases of Play

これは両チームのボール保持・被保持をさらに細かいフェーズで分けたもの。スペインが約8割ボールを持っていたこともあり、スペインはロングボールが0%、カウンターアタックも0%となっている。逆に日本はアタッキングトランジション(ポジトラ)の割合が最も多い。しかしそれに比べるとカウンターの割合が6%と低めだ。ただそのカウンターでゴールを奪った。
守備でも日本はミドルブロックとローブロックが圧倒的に多い。一方のスペインはディフェンシブトランジションが最も多く、次にカウンタープレス、ハイプレスと続く。まさにボール保持を目指すチームの守備だ。

・Possession Line Height & Team Length

これは両チームのボール保持における陣形の高さと広さを表している。スペインは左右に揺さぶることが目的だったと述べたように、日本に比べて横幅が広く、ビルドアップでは12mも差がある。そしてミドルサードでのビルドアップやファイナルサードの攻略のフェーズでは、日本よりも10m弱高い位置でプレーしている。これだけ高い位置でプレーしていればネガトラでその裏が危険になるわけだが、そこで守備時にカウンタープレスが多かったことと繋がってくる。

・Line Breaks

これも左が日本で右がスペインでラインブレイクとはパスやドリブルで守備ラインを越えることだ。あれだけボール支配率に差があればラインブレイクされる回数も増える。ドイツ戦ではトータルのラインブレイクが241回だったため、ドイツ戦よりも守れていたと言えるかもしれない。

このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットのスタッツはわかりにくいので飛ばします。日本のラインブレイク数トップ3は守田と碧の2ボランチと谷口となっている。谷口はAround(外経由)が5回あるとは言えThrough(通過)3回を含めてラインブレイク成功率100%。またサイドでプレーした伊東が外経由なしで成功率85%を記録。鎌田や守田が直接と外経由を中心に多い。

スペインは成功率が50%を切っている選手はいない。SBのアスピリクエタとバルデ、カルバハルとアルバは外経由が大部分を占めており、彼らはWGへパスを出すことだけだった。IHをくらべるとペドリは両CBをおさえて試行回数トップだが、ガビはたった5回となっている。これはペドリの方が降りて配球するシーンが多かったからだ。内訳を見るともちろん通過も9回と多いが、ほとんどは外経由で22回。それはCBのロドリにも同じことが言える。最も効果的にラインブレイクしていた選手はパウ・トーレスとブスケツの二人で、通過が他の選手に比べてダントツで多い。彼らの配球に対してどう対応するかが日本の守備にとって鍵だった。

・Attempts at Goal

日本のシュートデータは少ないので飛ばしますが、ドイツ戦同様少ないチャンスを決め切った。
スペインは14本のシュートを打ったが、そのうち6本がブロックされている。またPA内で打ったシュート7本のうち4本が枠内に飛んでいる。しかし決めたのは1点のみ。日本がしっかり体を投げ出して守っていた証拠だ。興味深いのは枠内に飛んだシュートは全て低い弾道で、権田としては対応しやすかったかもしれない。ここは正直GKの専門家ではないのでわかりません。

・Crosses(Open Play)

日本のクロスは右サイドからのものが多く、そのほとんどがPA内からのもの。得点シーンのように後半開始直後でこのエリアからチャンスを作っていた。

スペインがゴールしたシーンはニアゾーンランからクロスを上げて日本の守備ブロックを押し下げ、それによってできた手前のスペースからクロスを上げた。このシーンはスペインの狙いが完璧に出たシーンだろう。しかし90分を通してニアゾーンからクロスを上げたシーンは4本のみ。大外からのクロスは日本の5バックがしっかり跳ね返すことができる。その結果スペインは2/19回の成功となった。これは日本が541で守ったことによる効果だ。

・Offers & Receptions

これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。
まず実際にボールを受けた回数を見ると碧、伊東、守田がトップ。彼らはラインブレイクでもトップ3だったが、彼らが攻撃で起点となっていたことがわかる。
守田と碧の役割の違いで言うと、守備ブロック前で受けに行った回数はあまり変わらないが、ライン間での貰う動きは守田の7回に対して碧は23回。ゴールを決めたように碧の方が攻撃的で高い位置でプレーしていたことがわかる。

スペインもラインブレイクが最も多かったロドリとペドリが実際に受けた回数でもチームトップ。EPPを見返すとわかるが、後半は右サイドの配球はロドリが行い左サイドは降りたペドリが行っていた。ペドリとガビの受けに行った回数を比較するとガビの方が裏で受けようとする回数が多く、ペドリは守備ブロック前が多い。
注目は後半途中から出て来たフェラン・トーレスとファティだ。この二人は裏で受けようとする回数が最も多い。日本に追いつこうとする中で裏でボールを受けようとする回数が増えたか。しかし実際に裏でボールを受けてチャンスになるシーンは少なく、日本がしっかり対応していた。

・Defensive Actions

続いて非保持でのスタッツ。日本で最も多くボールを奪い返した選手は守田でダントツの8回。遠藤不在によりこのボールを奪うというところで不安視する声もあったが、守田がしっかり仕事をした。ボールを回収/奪取のプロットを見るともちろん自陣が多いが、敵陣で奪ったエリアは右サイド。堂安のゴールに繋がったシーンもそうだったが、日本はしっかり同サイド圧縮をかけて右サイドでボールを奪っていた。経験のあるアスピリクエタより若手のバルデのいるスペイン左サイドを狙っていた可能性がある。

実際にボールを奪い返した選手はロドリ、バルテ、パウ・トーレスが多い。位置を見ても左右どちらかに偏っていることもなく、あまり特徴はない。日本がビルドアップを積極的にしていれば、もう少し高い位置が多かったかもしれない。

・Defensive Line Height & Team Length

スペインが守備ブロックを敷いて守ったシーンが少ないのであまり参考にならないかもしれないが、日本のミドルブロックとローブロックでは横幅はスペインよりも広いが、縦幅は非常にコンパクト。ドイツ戦と比べると横幅は5mほど広く逆に縦幅は5mほど狭い。後ろ5枚でスペインの揺さぶりに対応し縦をコンパクトにすることでライン間を狭くする。日本の541が非常に機能していたことを表している。

・Defensive Pressure

日本は基本的に自陣でプレッシャーをかけることが多い。しかしスペインのPAでプレスしていることもある。これはもちろん後半開始直後のハイプレスだと思うが、日本のハイプレスは数年間ずっと同サイド圧縮ができなかった。しかしこのスペイン戦の後半の10分ほどはほぼ完璧にできていた。そのためあのスペイン相手にもボールを奪ってゴールに繋げた。
スペインは一人当たりがボールを持つ時間が非常に短い。そのため日本の平均持続時間も1.3秒とスペインの1.58に比べて短い。そしてボールを再び奪い返すまでの時間は日本が29.76秒でスペインは6.34とかなり大きな差がある。

ちなみにグループステージで再奪取までの時間が最も短かったチームトップ2はスペインとドイツで、最も長かった2チームは日本とコスタリカだ。

・Goalkeeping Distribution

ドイツ戦では右サイドへの配球が多かった権田だが、スペイン戦では比較的両サイドへ配球している。前後半の内訳がわからないが三笘が後半スタートから入ってきたことが要因かもしれない。

日本がサイドへの長い配球が多く成功率も低かったのに対し、スペインは近いところへの配球が多く成功率100%だ。今大会で初めてGKの配球のデータを見ているが、このデータが最もチームの狙いを表しているかもしれない。

・Goal Prevention

権田はドイツ戦でセーブ率89%だったがスペイン戦でも80%を記録。ドイツは枠外に飛ばすシュートも多かった上での数字だが、スペインはほとんど枠内に飛ばしている。ドイツ戦はドイツのミスに助けられた部分も大きかったが、スペイン戦はしっかり日本が守ったと言える。

3.まとめ

展開としてはドイツ戦もスペイン戦も前半耐えて後半にハイプレスをかけて逆転という同じだった。しかしドイツのxGは3.0でスペインは1.45と全く違う。ドイツ戦はドイツがシュートを枠に飛ばせなかったり、後半に強度を落としたりドイツも悪いところがあった。しかしスペイン戦は前半攻められたものの決定機は多くなく、日本が良かったと言えると思う。次はクロアチア戦でここを勝てば史上初のベスト8。勝って新しい景色を見たい。

4.データ参考元

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285063/400235475?country=JP&wtw-filter=ALL

https://www.fifatrainingcentre.com/media/native/world-cup-2022/report_133035.pdf


この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?