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J1第17節 川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌 データレビュー

インターナショナルマッチウィークによる中断期間が終わり今節からJリーグが再開。今節は前半戦ラストの一戦で相手は札幌。中断期間前に直近4試合でわずか1得点、3試合勝利なしの2連敗中だった川崎はこの再開初戦で勝利して流れを切りたいところだ。対する札幌も直近5試合で15失点と守備が崩壊しており両チームにとって非常に重要な一戦だ。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~札幌ハイプレスへの対応策~

前半は川崎のボール支配率が67%と高めの数字でパス成功率も90%と非常に高く川崎がボールを握り札幌がプレスをかけるという展開だった。おそらくこれは札幌も狙っていた展開でハイプレスで奪ってショートカウンターが理想の攻撃だったと思う。そのためEPPは大きく差がついており川崎は31.2で札幌が8.4となっていて、PPSは川崎が60で札幌が35.2という数字だ。川崎のパスヒートマップを見ると左右差はあまりなく両ファジーゾーンとセンターバイタルに最も多くパスが入っている。またライン間の3つのゾーンに合計で13本と多くのパスが入っている。これについてはのちほど。そして札幌はボールを持つ時間が短くカウンターベースだったためあまり多くのパスは入っていない。

・スタメンの意図は?

今節のスタメンは中断前から変化した選手が多かった。負傷から復帰した大島とチャナティップがさっそくスタメンで、ダミアンと佐々木に代わって知念と橘田が同じポジションに入った。この意図はなんだったのか。

まず今節の最注目点は札幌のマンツーマンプレスをどうやって回避するかだ。マンツーマンプレスを突破する方法としては二つ。一つめは個人技でマーカーを剥がすこと。もう一つはレイオフで前向きのフリーな選手に渡すことだ。この二つの方法を達成するためのスタメンだったと思う。

遠野や脇坂はもちろん大島やチャナティップは後ろからマークにつかれてもターンして前を向くことができ視野も広い選手たちだ。このような選手を多くピッチに送り込むことでマンツーマンプレスを剥がそうとしたのだろう。開始25分の脇坂のターンや14分の大島の楔などのシーンはまさに彼らの個人技でプレスを回避した例だ。そして橘田が左SBに入った意図としては、ターンできる選手のみだとトランジション時に不安があるため橘田を左SBとしてピッチに送り込んだのだと思う。

大島やチャナティップが個人技での突破を任せられたのに対して知念はレイオフやポストプレーが与えられたタスクだった。ダミアンよりも知念の方が足元の技術があるため正確に落としのパスを繋げることができる。

これは15分のシーン。後述するが川崎の右サイドでは山根がボールを持った時に脇坂がサイドへ流れることが多かった。そうすることで山根から降りて来た知念へのパスコースが生まれて知念がポストプレーで脇坂に落とすことで逆サイドに展開することができた。このように降りて来た知念を使うことでプレス回避しようとしていた。

また知念がポストプレーをするとその背後を必ず誰かが走っていた。知念をポストプレーとして連続して使った5分30秒と5分45秒ではそれぞれ脇坂と大島が知念が引き付けた岡村の裏へ走っていた。これは家長が3バックの前でポストプレーをした時も同じで、知念や家長のポストプレーで札幌の3バックにギャップを作りその背後を突くという狙いがあった。実際に得点シーンは知念のポストプレーからその裏に家長が走りこんだ。

知念を上手く使えるシーンもあったが8分10秒や9分30秒などプレスにハマって無理やり蹴ってしまうシーンもあった。なかなかゴール前に関わることができず大変だったと思うが知念はこのタスクを非常に良くこなしてくれていた。

・ハマったSBからの打開策

ここまで札幌のハイプレスを突破する手段として中盤の選手による個人技での突破と知念のポストプレーで3バックにギャップを作ることを紹介した。ただ川崎が狙っていた形はもう一つあった。それは外に開いたSBから中央へのパスだ。

基本的にSBは低い位置でサイドに張ってしまうと相手のハイプレスにハマりやすい。理由としてはプレーできる範囲が180°と狭くなり、同サイド圧縮をかけられていた場合GKへのバックパスが遠くなってしまうからだ。そのためSBは少し内側にポジショニングするのが好ましい。しかし川崎はビルドアップでSBが外に開きすぎてプレスにハマってしまっていた。ただそれへの対応策は考えていた。

これは10分15秒のシーン。札幌は3トップで川崎の2CBとアンカーをボランチがIHを捕まえてWBがSBに縦スライドしてプレスをかけてきた。するとSBの近くの川崎の選手にご覧のようにフリーな選手はいない。そこで山根は谷口からのパスをダイレクトで内側の知念へパスを出した。そして知念がフリック?して知念の裏へ走っていた大島にパスが渡った。これは先述した知念のポストプレーとその裏という狙いでもある。

今度は左サイドで32分55秒のシーン。このシーンも車屋から橘田へボールが渡ると札幌の同サイド圧縮が完成しておりプレスがハマってしまう。そこで橘田は車屋からのパスをダイレクトで山根に出し山根がターンして逆サイドの脇坂へ繋げた。

このように川崎はSBがハマる構造でプレーしていたが、SBがCBから受けたパスをダイレクトで中央にパスすることが多かった。これはおそらく狙っていた形で13分35秒や30分30秒など数回あった。札幌はWBが縦スライドしてくるためSBから縦に出すのは不可能。となると内側だがトラップする時間はなくダイレクトのパスになる。それを受けるためにIHの二人は早めに準備していたし、IH二人が流動的に動くことで札幌のボランチを定位置から引っ張り出して知念へのパスコースや大島が受けるスペースを創り出していた。

ただこのSBからの中央へのダイレクトパスが今後も有効かと言うとそうでもない。斜め後ろから来たボールを斜め前へダイレクトでパスを出すのは高難易度のプレーだからだ。この方法はあくまでも対応策であり解決策ではない。そもそもSBでハマらない構造を作っていくことが今後も不可欠だと思う。SBが少し内側にポジショニングするだけでも大きく変わるはずだ。

2.後半~小林悠~

後半になると前半よりもオープンな展開になった。その証拠に両チーム合計でロングボールが43本から65本へ、ボールロストが115回から145回へ増加した。EPPを前半と比べると札幌はあまり変わらず川崎は24.9に減少したが、PPSは札幌が50.5に増加し川崎は22.5に減少しており、川崎が効果的かつ効率的にボールを回すことができていたとわかる。
パスヒートマップを見ると札幌はプレビューでも述べたように右サイドの攻撃が主で右ファジーゾーンに4本のパスが最多だった。一方で川崎は左右差のなかった前半に比べて左サイドでの攻撃が多くなっておりセンターバイタルに6本、そして左サイドにそれぞれ5本のパスが入っている。

・お互いにビルドアップで苦労

後半になると前半に比べてオープンな展開になった。その要因としては川崎が前半できていたプレス回避をできなくなったこと、そして札幌が前半よりもボール保持をチャレンジしてきたことが挙げられる。

前半の川崎は前述したような3つの方法でハイプレスを回避していたが、後半になるとなぜか低い位置でのビルドアップで流動性がなくなり札幌のハイプレスにハマるシーンが増えた。46分20秒や58分5秒など。そうすると川崎はロングボールを蹴るようになる。ただそのロングボールの狙いはなぜか遠野を狙うことも多く58分35秒のように田中とのマッチアップだとさすがに分が悪い。

一方の札幌は前半では川崎のボール保持にマンツーマンでプレスをかけてショートカウンターを狙っていた。ただ川崎が思ったよりもボールを繋げたためか、後半になるとボールを保持するようにもなった。ただそれには川崎もハイプレスをかけるし札幌はビルドアップに苦労した。川崎の3点目も札幌のボール保持をかっさらったことで生まれた。上手くビルドアップできなくなると起こる現象は札幌も川崎も同じでロングボールを蹴るようになる。

こうして両チームがロングボールを多用するようになったためオープンな展開になった。こうして両チームのインテンシティが下がるとボールを保持できるのは川崎。札幌陣地に押し込んでしまえば逆サイドのWGやIHまでも同サイドにやってきて旋回しながらボールを回して崩していく。そして奪われても近い距離間でボールを回すので即時奪回ができる。

結果的に前半のように川崎が上手く相手を動かしてハイプレスを突破するという展開ではなく、後半はより大雑把な展開となった。そんな中で活躍したのは途中出場の小林悠で2G1A。後半は戦術なんかよりもこの漢。また2Gの家長もドリブルが4/5回成功で地上戦が8/10回勝利の活躍。ベテラン二人の活躍によって後半に4得点を追加できた。

3.まとめ

リーグ戦中断初戦で見事5得点をあげて勝利することができた。ただ今節特に前半でのプレーはマンツーマンプレスというクセのある札幌用の対策で、特にライン間へのパスが多かったが相手がゾーンでパスコースを消してきたらここまでライン間にパスは刺せない。またハイプレスにハマる構造が修正されていたわけではなかった。とは言え負傷者も復帰しておりこの勝利はチームの調子を上げるものに間違いないのでシーズン後半戦に繋げていきたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

4.データ引用元


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