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カタールワールドカップ 日本対コスタリカ データレビュー

本記事はワールドカップ・アーカイブ化計画の”遊軍”として投稿させていただきます。初めましての方向けの簡単な自己紹介などは前回のドイツ対日本の記事にありますので、ぜひそちらのイントロ部分を読んでから戻ってきていただけると幸いです。

この記事では試合を様々なデータのみを使って分析していく記事です。戦術的な観点の分析はぜひ他のライターさんの記事をご覧ください。

1.試合総括

データのみを使うと言っても数字だけでは本質から外れてしまうので、簡単に試合の総括をしていきます。ここで私が独自に考案したEPPというパスの効果を示す指標を使って振り返っていきます。EPPが高いほど効果的なパスを示しており、パスの出し手と受け手のそれぞれ集計しました。

計算方法としては上図のように相手守備組織を基準にパスが入ると効果的なエリアに入ったパスはより高いポイントになります。

EPPについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

・前半

前半の日本のボール支配率は42%でコスタリカの方が比較的ボールを持つ時間が長った。しかしEPPで比較すると日本が16.9でコスタリカが10.2と効果的にパスを回せていたのはコスタリカ。日本はコスタリカの3枚ビルドアップに対して2トップでプレスをかける。するとドイツ戦同様にコスタリカの3枚の左の15番をフリーにしてしまう。そのため自由に配球されてしまい15番の出し手ポイントはチームトップの5.3だ。そのパスの出先はサイドの8番やボランチの17番。日本はハイプレスをかけているのに17番をフリーにしてしまうのは良くなかったが、コスタリカの技術レベルが高くないため助かった。

次に日本の選手別EPPを見ると長友と山根の両SBが最も高い出し手ポイントとなっている。この要因はコスタリカのシャドーが内側の前目で守備をすることが多く、サイドに張ったSBからライン間へ斜めのパスが入りやすかったからだ。実際に二列目の3人と1トップの上田の受け手ポイントはボランチの遠藤よりも高い。しかし問題点は彼らの出し手ポイントが鎌田の1.3と非常に低いことだ。ライン間にパスが入ったものの、そこからのコンビネーションがなくそのままバックパスやボールを奪われることが多かった。

・後半

後半は日本が75%ボールを保持した。そのためコスタリカのEPPは4.3にまで激減した。しかし一方で日本のEPPは18.3までしか増加しておらず、攻めあぐねていたことがわかる。コスタリカのEPPはあまり分析しても意味がないので日本の分析だが、注目は後半から左IBに入った伊藤の出し手EPPだ。巷では伊藤が三笘にパスを出さなかったためかなり叩かれているが、実際は伊藤が最も効果的なパスを出していた。そのパスの出し先で多かったのは鎌田や浅野そしてライン間に上がった遠藤などだ。前半でも述べたようにコスタリカのシャドーは内側の高い位置で守備をする。そこで伊藤はSBのような立ち位置を取って外側からライン間への楔をまず第一に狙っていた。そこへパスを出せない時に初めて三笘を見る。しかしその時には5バックのスライドが間に合っていてパスを出せる状況では無かったというのが伊藤の感覚じゃないかと予想する。ただたとえライン間にパスが入っても前半同様に彼らの出し手EPPは低くシュートまでたどり着けなかった。

2.Sofascore

選手別スタッツで気になったのはデュエルのデータ。ドイツ戦ではデュエルで貢献していた遠藤が、コスタリカ戦では地上戦7/21回勝利で勝率3割だった。一方で左のシャドーに入ったコスタリカの12番キャンベルは15/23回勝利で勝率65%を超えた。後術するがコスタリカは左サイドからの攻撃が多くその狙いはこのキャンベルだった。また両チーム通じて最もボールをロストしたのも遠藤で23回だった。遠藤は列落ちすることも多くそこでロストすることは少なかったのでおそらくライン間でのものだ。
前後半の比較をすると前半のシュートは日本2本でコスタリカが3本、ゴール期待値は0.02と0.03と非常に低い数字だった。後半になると日本は11本に増加しゴール期待値も増加したが1に満たない0.86だった。

3.Opta

これは日本とコスタリカのキーパスを示している。コスタリカのキーパスは35分の1本のみ(アシストを含めると2本)。日本のキーパスでPAへ出されたのは48分山根からの一本のみ。それ以外は全てPA外から外へのものでやはり期待値の高いシュートシーンをつくり切れなかった。

4.FIFA公式データ

https://www.fifatrainingcentre.com//media/native/world-cup-2022/report_133020.pdf

次はFIFAの公式データです。FIFAは今大会から非常に細かなデータを公開しており、50ページ以上に及ぶデータレポートも公開しています。その中から気になるデータを抽出して試合内容と照らし合わせていきます。

・Final Third Entries

これはファイナルサードに進入した回数を5レーンで分けてカウントしたもので左が日本右がコスタリカだ。前述したようにコスタリカは左サイドからの進入が多く8回だ。日本も左サイドからの進入が多く大外レーンは右サイドの2.8倍、インサイドレーンは右サイドの2倍となっている。EPPを見ても前後半ともに左サイドの方が多く、両チームとも左サイドからの攻撃が多かった。

・Phases of Play

これは両チームのボール保持・被保持をさらに細かいフェーズで分けたもの。ボール保持時において大きくことなるのはファイナルサードの割合で日本の21%に対してコスタリカは8%となっている。またロングボールの割合はコスタリカの方が高く、やはり日本の方がボールを高い位置で保持していたとわかる。
非保持では日本の方がハイプレスとハイブロックの割合が高く、コスタリカはローブロックの割合が45%となっており、やはり日本はコスタリカ陣地で四局面を回そうとしていたことがわかる。

・Possession Line Height & Team Length

これは両チームのボール保持における陣形の高さと広さを表している。低い位置でのビルドアップに関してはあまり差はないが、中盤でのビルドアップや崩しの段階では日本の方がそれぞれ10mと5m高い位置にあり、繰り返しになるが日本がコスタリカ陣地でプレーしていたことがわかる。

・Line Breaks

これも左が日本で右がコスタリカでラインブレイクとはパスやドリブルで守備ラインを越えることだ。日本がボールを保持する時間が長かったがトータルのラインブレイクは158対154とほぼイーブン。成功数に関しても同じだ。つまり日本はなかなかコスタリカの守備ラインを突破できなかった。しかしDFラインのラインブレイクに関しては試行回数が22回と4回で大きく差がついており、成功数ではコスタリカが0回だ。しかしシュートを決め切れなかった日本で、DFラインを突破できなかったがミドルシュートで一発決めたコスタリカだった。

このラインブレイクを選手別で表したのがこの表だ。ユニットのスタッツはわかりにくいので飛ばします。右から二番目の項目ラインブレイクの方向を見ていくと、Through(通過)で最も多くのラインを越えたのは守田で10回。次に多いのは7回の遠藤だ。そしてAround(外経由)では後半からプレーした伊藤が10回でトップ。これは試合総括の後半で述べたようにシャドーの外側から配球していたからだ。そして次に多いのが遠藤の9回。本来中央でプレーする遠藤が外経由のラインブレイクでチーム2番目に多いのは正直厳しい。一番右のタイプ別で見るとBall Progressionトップはやはり三笘で3回だ。

続いてコスタリカを見ると、通過でラインブレイクを最もしたのはボランチ5番ボルヘスで7回。次に多いのは左IBだった15番カルボだ。カルボは外経由でのラインブレイクで14回とダントツの数字を出しており、これも試合総括の前半で述べたように日本がフリーにしてしまい自由に配球されてしまった。そしてそのカルボの前にはデュエルで勝ちまくった12番キャンベルがいた。日本としては前半コスタリカの左サイドに対応できなかったと言えるだろう。

・Attempts at Goal

日本のシュートエリアを見るとPA内で二度枠内に飛ばしておりこれは決めておきたかった。枠外シュートも多いがゴールに近い位置ではなく、ブロックされたシュートも多い。やはりコスタリカの守備を崩せなかったことが表れている。
コスタリカのシュートデータは飛ばします。

・Crosses(Open Play)

これは日本のクロスデータ。ドイツ戦では左サイドはニアゾーンから右サイドは大外からという特徴が見られたが、コスタリカ戦では両サイドとも同じ数字だ。クロスを上げた位置を詳しくみると左サイドではよりニアゾーンに近く深い位置で上げており、これはチームトップの三笘によるものだろう。一方の右サイドはPA角に近い位置からのアーリークロスが多い。チームトータルで10本のクロスを上げたが成功したのはたった1回のみだった。
コスタリカのクロスデータも省略します。

・Offers & Receptions

これは各選手のOffers movement(ボールを受けに行った回数)とOffers Received(実際にボールを受けた回数)を相手守備組織を基準にカウントしたもの。In Frontは守備ブロックの前、In Betweenはライン間、Out to Inは守備ブロックの外から中、In to Outはブロックの中から外、In Behindは裏だ。
遠藤は守備ブロック前で61回ボールを受けに行っておりこれはチーム2位の同じくボランチ守田の約2倍だ。コスタリカは1トップで日本のバックラインだけで余裕にボールを持てていたのに、遠藤はかなり不必要に列落ちしていたように思う。ライン間でボールを最も受けようとしていたのは鎌田で54回。特に鎌田は前述したコスタリカシャドーの後ろでボールを受けようとしていた。裏へ最も多く走っていたのは相馬で43回。感情論的にはなるが相馬はよく頑張っていたと思う。

コスタリカで興味深いのはゴールを決めた4番フレールだ。基本ポジションはWBでヒートマップを見ても低い位置が多いが、ゴールを決めた時のように高い位置にいることも多く、裏で受けようとした回数はCFの7番コントレアスに次いで二番目に多い17回だ。またその他の選手もそれぞれのポジションとは異なるエリアでボールを受けようとしており、比較的流動的だったことがわかる。

・Defensive Actions

続いて非保持でのスタッツ。日本がボールを奪ったりターンオーバーを誘発したエリアを見ると右サイドが多い。これは前述したようにコスタリカが左サイドから攻撃することが多かったからだ。また日本はある程度高い位置からプレスをかけていたが、実際にボールを回収したのは自陣が多くあまりプレスがハマっていなかったと言えそうだ。選手別で見ると遠藤が9回で最も多い。後半から出て来た伊藤が5回で二番目に多い。

コスタリカはやはり低い位置でのボール回収が多くなっている。左サイドの中盤では右サイドに比べて多く、攻守においてコスタリカの左サイドが肝となっていた。チームトップは6番デュアルテだ。

・Defensive Line Height & Team Length

このデータは非保持での陣形の高さと広さですが、両チームともあまり差はなく前節とも違いがないので省略させていただきます。

・Defensive Pressure

これはプレッシャーのデータ。やはり日本の方が高い位置となっている。ボール支配率で言うと、コスタリカの方が守備の時間が長かったはずだが、プレッシャー数は300対294とほぼ同じ数字。ボールホルダーの正面からプレスをかけるダイレクトプレッシャーの数もほぼ同じだ。その他平均持続時間やボール奪取までの時間もあまり変わらない。プレッシャーの質は日本とコスタリカであまり変わらなかった。

・Goalkeeping Distribution

これは権田の配球を表している。ドイツ戦では伊東のいる右前方への長い配球が目立ったが、コスタリカ戦では近い距離での配球が多くドイツ戦に比べてボール保持を重要視していたことがわかる。

続いてコスタリカ。ナバスの配球には二種類あり、一つはサイドへのロングボールでもう一つは近くへの配球だ。興味深いのは近くへの配球で左サイドへの配球は非常に多いが、右サイドへはたったの3回のみ。ここまでさんざん述べてきたがコスタリカは左サイドからの攻撃を狙っていた。

・Goal Prevention

コスタリカのシュート数が少ないため日本のデータは省略します。日本のシュートデータで見たようにシュートブロックされたものも多く、そもそも阻止行動がとられなかった。枠内に飛んだ3本のシュートはしっかりにセーブされた。

5.まとめ

コスタリカには勝ち点3を獲得したかったが、結果は0-1で負けてしまった。ゴール期待値を見てもわかるように日本はコスタリカの守備を崩せず決定的なシーンを作れなかった。また非保持ではボランチをフリーにしてしまい同サイド圧縮できないシーンなどが見られた。ドイツの完璧な同サイド圧縮でさえ突破していたスペイン相手なら簡単に突破されてしまうだろう。ハマらないプレスはドイツ戦後半で改善されたものの森保ジャパンがずっと抱えている問題だ。カウンターを打てるメンバーはいるので次節はここに注目したい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

6.データ参考元

https://www.fifatrainingcentre.com//media/native/world-cup-2022/report_133020.pdf

https://www.fifa.com/fifaplus/en/match-centre/match/17/255711/285063/400235471?country=JP&wtw-filter=ALL


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