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J1第31節 北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレ データレビュー

今シーズンは5試合を残し首位マリノスとは勝ち点5差と首の皮一枚繋がっている川崎はアウェーで札幌と対戦。もう1試合も勝ち点を落とせない状態だ。その札幌は相性の良い相手ではあるものの、ここ数年はマンツーマンハイプレスに苦しんでいる相手だ。強度の高いチームに苦戦する今シーズンだが果たして。

EPP 独自に計算した効果的にパスを繋げたかを示す指標で相手守備ブロックの中にパスを送れると高くなる。
PPS パス/シュートの値でシュート1本に対して平均的に何本のパスを繋いだかを示す。
パスヒートマップ 上図の各エリアにパスが入った回数を示しており、パスの本数が多いほど濃い色になる。

1.前半~ボール保持ができない川崎~

前半のボール支配率は札幌の52%で川崎が48%とほぼイーブン。しかし両チームともパス成功率が80%を切っており、ボールを保持したいチームとしてはあまりパスを上手く回せたわけでは無さそうだ。その証拠に川崎のEPPは16でこれは45分平均の23.7を大きく下回っている。逆に川崎の対戦相手の平均は16だが札幌は21.8という数字。川崎としてはもう少し自分たちでボールを保持したかった前半だろう。
パスヒートマップを見ると川崎は両サイドのファジーゾーンが多く左ファジーに5本と最も多い。一方の札幌も右ファジーに5本と最も多いが、左ハーフバイタルとセンターバイタルにも3本ずつ入っている。

・札幌の中央封鎖守備からのサイドカウンター

川崎は前半に三度ネットを揺らされてしまったがそれは全てカウンターからのシュートだった。これらのシーン以外にも札幌がカウンターでチャンスを作り出すことが多かった。その要因は札幌の中央封鎖プレスだ。札幌のプレスは中央封鎖から始まる。川崎のCBや中盤の選手を捕まえてSBにボールを出させ、そこからプレスをハメていく。そしてサイドに追い込み逆サイドに展開させない。そのためパスヒートマップで見たようにサイドへのパスは多かったが中央へのパスは少なかった。

これは13分のシーン。今シーズンの川崎は家長がこれまで以上に出張してくるシーンが多く、このシーンでも家長が車屋とマルシーニョの間に降りている。しかし札幌はマンツーマンプレスのため家長の出張によって数的優位ができるわけではない。むしろ密集してしまいプレーできるスペースが狭くなってしまう。結局家長はパスの出しどころがなく車屋にバックパスをしたが車屋も出しどころがなく、既にマークされているシミッチにパスを出してボールを奪われてしまった。この他にもフリーな選手がいないため車屋が無理やり縦パスをつけて奪われるシーンが何回かあった。

このように川崎は札幌の中央封鎖からサイドに追い込まれてしまうことでパスの出しどころがなくなり、サイドを変えようと思ってもフリーな選手が近くにいないためボールを奪われてしうことが多かった。川崎はボールを上手く繋げないと13分のシーンのように密集をつくり出す。すると配置のバランスが崩れてしまう。それを札幌は上手く利用した。

これは札幌の一点目に繋がったカウンターのシーン。このシーンでも13分と同じように川崎はマンツーマンでマークされてしまっており、解決しようと左サイドに密集を作っている。そのため右サイドには広大なスペースがある。そしてボールを持っているシミッチは唯一マークされていない登里にパスを出したが金子にインターセプトされてしまった。そして金子は例の川崎右サイドにいるルーカス・フェルナンデスへパス。広大なスペースがあるのでルーカス・フェルナンデスは運ぶことができカウンターを受けてしまった。

13分も23分のシーンも同じ形だ。もし相手チームがゾーンで守っているなら密集を作ることで数的優位を作れる。しかし相手が札幌のようにマンツーマンプレスなら数的優位は作れない。むしろ逆サイドのスペースをカウンターで使われてしまう。川崎は札幌の中央封鎖守備からのサイドカウンターにハマってしまった。そして札幌が左ハーフバイタルとバイタルエリアにパスが多かったのは、川崎が左サイドに密集を作っていたため、札幌がカウンターで川崎右サイドを使ったから。

・ビルドアップを放棄してしまうと…

ここまで述べたように川崎はショートパスを奪われてカウンターを受けてしまった。するとカウンターが怖いためロングボールを多用するようになる。種類としてはソンリョンからのボールとマルシーニョへのボールだ。

まずはソンリョンからのボール。これは主にビルドアップのフェーズで蹴られることが多い。先述したように札幌はまず中央を封鎖する。するとソンリョンは出しどころがなくロングボールを蹴った。しかし質があまり良くなかったため荒野にインターセプトされ、その荒野がシャビエルに当ててフリックを裏でもらい、小柏のシュートに繋げた。この他にも18分10秒や25分10秒などソンリョンからのロングボールを札幌に回収されてしまうシーンが多かった。その要因としてソンリョンのボールの質が悪かったことと、知念が岡村に競り負けることが多かったことが挙げられる。実際に空中戦は岡村が9/10勝利で知念が2/8、地上戦は岡村が7/8で知念が5/12という数字だった。

そしてもう一つはマルシーニョを裏に走らせる長いボール。マルシーニョのスピードは川崎にとって大きな武器だ。確かに10分30秒の決定機はマルシーニョのカウンターが起点となっている。ただ良く見ると札幌の処理ミスでマルシーニョボールになっている。これ以外にマルシーニョを裏に走らせたシーンは2:00 6:15 13:30 35:35などだが、すべて札幌ボールになっている。
ここで注目したいのはマルシーニョではなく味方の押し上げだ。これらのシーンを見てもらえればわかるが、川崎はほとんど押し上げができていない。つまりセカンドボールを拾える位置に味方がいない。この状態でマルシーニョによろしくとロングボールを蹴ってもマイボールになる確率は低い。

川崎はマルシーニョの速さを活かそうとしすぎてマルシーニョに依存しすぎていると思う。マルシーニョを裏に走らせるにしてもセカンドボールを拾える設計をしないといけない。それをしないから結局札幌ボールになっている。またマルシーニョのドリブル突破を期待しているからか、マルシーニョがボールを失ったときのネガトラが遅い。VARで取り消されたシーンがまさにそうだ。

このようにマンツーマンプレスを受けた場合にロングボールを蹴ることは手段の一つだが、ロングボールを使ってもボールを前進させることができなかった。

2.後半~試合をコントロールできなかった川崎~

後半は負傷者の治療やVARなどで試合が中断されることが多くなり、また打ち合いの展開となったことでよりオープンでカオスな展開となった。その影響で両チームとも守備ブロック内へのパスが少なくなった。そしてEPPも札幌が14.7で川崎が11.8と非常に低い数字。しかしPPSもそれぞれ23と24.6で低い数字。やはりオープンな展開でカウンターが多くなったため、少ないパス数でシュートを打っていた。

・カオスでオープンな展開をどうするのか

後半はカオスな展開となってしまった。筆者は今シーズンのレビューで強度高くハイトランジションな相手に川崎が苦戦していると書いてきた。今節の相手札幌も強度高くプレスをかけてきてカウンターを狙ってくる相手だ。その相手に前半はしっかりボールを保持できなかった。川崎としては札幌のペースに乗っかってしまうと厳しくなる。従って後半こそローテンポでクローズドな展開に持ち込みたかったはず。しかし札幌の強度が落ちることはなくあの展開になってしまった。

そんな中で川崎は車屋の筋肉系のトラブルに加えて攣る選手が続出してしまった。ソンリョンとジェジエウの負傷は不運だが、結局前半から札幌のハイテンポな展開に乗ってしまったため体力が持たなかったのだと思う。一方の札幌は試合終盤でもカウンターでスプリントするなどまだ体力的に余裕がありそうだった。最終的に逆転されてしまったがそれはレフェリングのせいでも負傷のせいでもなく、前半から自分たちの得意なサッカーをできなかったことが原因だと思う。

3.まとめ

川崎はこれでマリノスとの勝ち点差は8。現実的に逆転優勝はほぼ不可能となってしまった。個人的に今節は悪い意味で今シーズンの川崎らしいと感じた。交代選手の物足りなさなど言われるが、そもそも川崎らしいサッカーをできていない。ビルドアップができずロングボールを多用するようになり、自らハイテンポな展開に持って行ってしまう。そのため強度が持たず後半になると失点してしまう。まさに今節はそんな展開だった。
厳しめな記事ですが最後まで読んでいただきありがとうございました。

最後にマンツーマンハイプレスの対抗策を紹介できなかったので、マリノスをお手本にしたツリーを貼っておきます。

4.データ引用元


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