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明け方の若者たち(ネタバレ)


公開 2021年 日本
監督 松本花奈
出演 北村匠海、黒島結菜、井上祐貴 他

小説の頃から存在は知っていましたが、なんなら作者のカツセマサヒコ氏は私も10年住んだ町田市在住(当時、今も住んでるかはわからん)だし、縁もゆかりもある映画ではあったけど、公開から1年半くらい経ってやっと視聴。
きっかけは黒島先輩。

この人12人の死にたい子どもたちとか実写ハガレンのランファンとか、有名作には結構出ていますが、あんまり意識して見たことはなくて。
最近リアルタイムで観れなかったごめんね青春!で、黒島先輩が演じた

中井さん役が本当によくて、それが、「吾輩は猫である」でいうところの黒島結菜という人間の見始めだったわけですが、んで今回どっかで誰かの感想見てキャスト見たら「黒島先輩出てるじゃん!」ってなって、観ましたよ。

いや~~~~~痛いなあ。

まじでしんどいこの映画。先輩が可愛すぎるっていうのもある。あるけど、邦画ならではの胸糞映画っていうか…
とりあえずストーリー書きます。以下完全ネタバレなのでご注意。


1. 16文字で始…そんなことより「笑」の位置気になる


主人公の仲良し君(北村匠海)は大学生。
ある日内定記念飲み会に行って陽キャのノリに馴染めずにいたら、同じようにつまらなそうな黒島先輩(黒島結菜)を発見。露骨に恋に落ちる音がする。
先輩の帰りしな「携帯失くしたから鳴らして」と言われ少しだけ言葉を交わすが、そのまま彼女は店を後にする。
とうとう場に耐えられなくなった仲良し君がカウンターで一人水を飲んでいると、1通のショートメールが。
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」

いやいや……

何で「笑」が「?」の前なん?(ちがう)

ウキウキで速攻店を出た仲良し君。
クジラのモニュメントのある公園で彼女と落ち合い、缶のハイボールを飲みながらRADWIMPSは3枚目か4枚目かという永遠のテーマについて盛り上がる二人。「トレモロ」が入っている3枚目派の黒島先輩に対しRADの代名詞「有心論」「ふたりごと」の4枚目派の仲良し君。
結論の出ない論争は朝までかかるかに見えたが普通に終電で帰った。なんか最後仲良し君は「俺といたら楽しいよ」とか謎の宣言してた。

2. ゲームも新しいノートも恋愛も結局最初が一番楽しい


別の日、先輩から演劇に誘われる仲良し君。
下北のビレバンで待ち合わせして、マイルドエロ本をチラ見してるところを見られてしまい、「そういうのが好きなんだ」と先輩。
「おっぱいおっきい子好きなの?」「そういうんじゃない」「じゃあ小さい方が好き?」っていうここのおっぱい押し問答好き。
言わずと知れたザ・スズナリで小劇団演劇の悪いとこ全部乗せみたいな演劇を見て「あの飲み会の延長だね」だの「うちらは何者にもなれない」だの「みっともないと笑ってくれ」だの言いながら、安酒を求め餃子の王将に行き、王将店員用語クイズに興じだす二人。
コーテルリャンガーリャンテ!って、王将でバイトしてたんすか?先輩。
いい感じで盛り上がってハンドタッチなんかもしちゃったりして、もう色々待ったなしの二人。「眠すぎるから一回出よう」という先輩のナイスプレーで店を後にすると、不自然な路地に入り、不自然な速度で歩き、不自然な沈黙の中、あくまでも自然に手を繋ぐと、「どうしよっか」「どうしようね」という、広末涼子のCDくらい何度も聞いたやりとりののち、先輩は業を煮やしたのか「もうちょっと押してくれたらいいかも」と聞いたことない台詞。
いうまでもなく押してみた仲良し君は先輩と一夜を共にすることになった。
最初こそ歯と歯がぶつかってぎこちない感じを出すものの、そのあとはしっかりR-15。キスしながら急いで服脱がす欧米のやつも出る。そんなに求めあってる感じだったん?は野暮である。妙にリアルなエロ描写のなか、仲良し君が突然の「すげえ好き」という、松浦亜弥顔負けの口調で告白。
一瞬ギョギョッ!?となった先輩であったが、何も言わずキスで応える。
翌朝、アラームの音楽を止めようとする黒島先輩の手を掴み「もうちょっと聞かせて」と仲良し君。「これなんて曲?」
知らないんかいと先輩は思ったが、「エイリアンズ。キリンジ」と答える。

すると仲良し君、「好きだなこれ」

いや嘘つけよ!
どんなに良い曲でもアラームで鳴ったら鬱陶しいんだよと心の中で叫ぶ黒島先輩だった。

そんなわけで、この日を境に仲良し君と黒島先輩の甘い甘い真心ブラザーズな日々が始まるのである(流れるのはきのこ帝国だけど)。

ある時は古着屋でファッションショーをしてみたり、
ある時はアイスを食べながらグリコしてみたり、
またある時は仲良し君の誕生日を祝ってみたり、
バッティングセンター行ったりゲーセン行ったり、
花火してみたり…

夏が過ぎ、彼らの出会った冬がまた来て、

「何でもそうじゃん。何だっていつかは終わるよ」という先輩の台詞に、
意味深な表情を浮かべたりしているうちに春が来て、

彼らはついに社会人になった。

3. よりにもよってそんなとこで泣くな


企画部志望だった仲良し君は総務に配属され、「ハンコは頭を下げて見えるように斜めに押せ」という聞いたこともない不文律にゲンナリ。

そんな折、実家から出て一人暮らしをすることになった仲良し君。
研修で仲良くなった同期のイケメン尚人と黒島先輩に手伝ってもらい、和気あいあいと部屋づくり。やけに広いのとインテリアのセンスが謎にいいのが気になるが、無事にいい感じの部屋が完成し、その後はもちろん飲みに出かける。場所は高円寺だ。時間を忘れ学生のように夜通しはしゃいで、やがて空は白んでくる。
仲良し君たちは明日が来なければいいと、昇りかけの太陽に「登ってくんなー!」と叫び現実逃避ダッシュ。絶望に追いつかれない速さでダッシュ!

ある日上司が毎年有休を取ってフジロックに行っていることを知った仲良し君は、俺らも行かない?と先輩に持ちかけるが、さらっと断られる。露骨に残念そうにしていたら代わりに旅行に誘われたので行く行く~!となる。
方角も宿もその日に決めてバカ高そうなホテルでシャンパン飲んで、
泡風呂に入って、バスローブでセックスする二人。

「もういっそ死んじゃいたいな」

「死んだら俺も死ななきゃいけない」

「何でよ」

「死んでるようなもんじゃん」

「ちゃんと生きてね」

「じゃあ死んだように生きる」

とかいう、小説でしかしちゃいけない会話はさておき、ここの黒島さんの演技には気概を感じました。
果てたあと、涙を流しながら「好きだよ。全部好き」と仲良し君。先輩はうなずき、「ありがとう」と仲良し君の体を引き寄せ抱きしめるのだった。
また夜が明け、ホテルのデッキから海を眺める二人。
「魔法みたいな時間だったね」という先輩に、仲良し君は「そうだね」と、そう返すしかなかった。
それきり彼女からの連絡は途絶えてしまった。

4. ハッピーエンドへの期待は


ある日仲良し君と尚人は、製造ラインの指の切断事故に居合わせる。
切断された指を間近で見ることになった仲良し君は何を思ったか、突然「不謹慎だけど興奮した」とわけのわからないことを言い出し、シリアルキラーが爆誕するのかと思ったら、「いかに自分の毎日が退屈だったか思い知らされた」って、ああ、そういうこと…
いや、どういうこと?
君キラー側の人間なんじゃないの?

興奮覚めやらぬ仲良し君は、尚人とともにバッティングセンターを訪れる。
黒島先輩と来ていた場所なのでその話になり、まだ連絡がない、とこぼす仲良し君。
「でもさ、いくら好きでも、相手が結婚してたらハッピーエンドは望めねえよ」と尚人。

は????

「そんなこと、最初からわかってたよ」

は??????????

暗転。
時を戻そう。
クジラ公園。先輩はあの日、RADの議論が始まる前、自分が既婚者で夫は今海外にいることを仲良し君に言っていたのだ。
3年の海外出張。本当はついていく予定だったが、行きたかった企業に内定も決まり、自分の人生を生きようと日本に残ったのだという。
残ったからには自由を謳歌しようと決めたのだと。

エイリアンズの朝、「何で俺だったの?」と聞く仲良し君。
「横顔が夫に似てた」と先輩。「こんなはずじゃなかったんだけどな」

5. てか尚人も友達なら何とか言ってやれよ何3人で馴れ合ってんだよ


久しぶりに先輩と待ち合わせた仲良し君。あの旅行のあと、突然夫が帰ってきて、それから連絡しようにもできなかった、と黒島先輩。少しおこな仲良し君。

「ひとつ聞きたい。嘘でもいい」
「嘘は言わない」
「嘘でもいいから言ってほしい」と言い直す仲良し君。
「少しは好きでいてくれた?」
彼女は「ごめんね」と言って、「ちゃんとすごく好きだったよ」と続けた。

6.ふがいない僕は空を見た


はい。もうね。こっから後は消化試合よ。
エンドロールです。名もなき世界のエンドロール。

傷心の仲良し君は部屋に残った先輩の服の匂いを嗅いだり、先輩の歯ブラシを見て発狂して頭を壁に何度も打ちつけて失神したり(尚人が助けてくれた)、風俗嬢(佐津川愛美)に失恋を見抜かれ本心を話して泣いたりした。
佐津川愛美ここしか出てないけどめっちゃ良かったなあ。この人も演技うまいよねえ。

そして時が流れ仲良し君は仕事にも慣れ、社会の歯車になって前髪を上げた。尚人はベンチャーの編集プロダクションに転職。タートルネック着てひろゆきみたいな髭を生やす。あの飲み会の主催者だった石田はスマホ一台で稼ぐ人になった。

物語のラスト、尚人と飲むことになった仲良し君。店は、あの日黒島先輩と初めて出会った沖縄居酒屋。
そこそこ金もあって、休みもあって、体力もあったあの頃が、人生のマジックアワーだったんだ、と当時を振り返る尚人に、マジックアワーねえ…と仲良し君。いやたいした返ししねえなあさっきから。あんまり興味ないのかな?そういう小難しい事は。

明大前の懐かしい街を歩き、尚人と別れた仲良し君は、クジラ公園へと足を向ける。あの日二人が座ったベンチには、あの日と同じようにハイボールの缶が二つ並んでいた。仲良し君は笑ってしまった。写真におさめようとポケットを探すと、スマホを失くしていることに気づく。いやいや、これもあの時と同じやん、みたいな顔で仲良し君はまた笑う。そして空を見た。
ふがいない僕は空を見たのだ。


感想


いや~~~
胸糞映画っすね~~シンプル胸糞映画。
前半も前半でしんどいのは間違いないが、後半に至っては「もうこの映画を見続ける意味がない」感が異常。

まあでも黒島先輩が既婚者だったっていうのは、「もうちょっと押してくれれば」に対する「押していいの?」っていう返しとか仲良し君の「好き」に返さない先輩の感じとか、「いつか終わるよ」の時の仲良し君の超切なげな表情とかで合点がいくし、ていうか見返してみたら結婚指輪が最初から普通に映ってたし、なんだったら敬語のくだりのわざとらしいボディタッチのシーン、下手かよとか思ったけどあれも左手だし画角の真ん中あたりに映ってるし、前半部分でもわかるように描写されてたんですよね。全部が自然だった先輩の唯一の違和感はメタだったという。メタとしてのボディタッチ。先輩の左手を握る仲良し君の手をいやに映してたのもそういうことか。ちゃんと観客にわかるように作ってるのが悔しい。イニシエーションラブかよ。

あと黒島結菜って絶妙に人妻っぽいんだよな。
ザ・美人って感じの顔、服装、アクセサリー、黒髪ボブの前髪がない感じ、人妻としての違和感がゼロ。まじですごい。

特にこの写真。この耳飾り人妻しかつけないやつでしょ。

そういう意味では仲良し君が既婚者と知りつつも逢瀬を続けてたのは「このまま関係を続けていればどうにかなんとかなるんじゃないか」みたいな他力本願的な若者感があったからではないかとか、絶妙にダサい髪型も服も、「押してくれれば」と女に言わせてしまう男としてもあと一歩なキャラクターも物語として計算されたもので、先輩にとって仲良し君は、夫を捨ててまで選ぶほどの人ではなかったというのが、この映画の最もセツナレンサ(4枚目)な部分。

実は黒島先輩と夫の大人ラブロマンスの部分は彼女視点の短編「ある夜、彼女は明け方を想う」で描かれてはいるんですけど。
夫っていうのが、まあ基本的には優しくて余裕があってレトロな車乗ってて会話に変な間のあるなんかエロい魅力的な大人って感じの人なんですが、先輩が第一志望の企業に受かって、海外出張についていくのをやめたいって伝えたときはブチ切れてきて「適当にやってた就活でたまたま受かったからやりたくなったってだけじゃん」と吐き捨て、あげくの果てに彼女の胸ぐら掴んで本性っぽいの出すし、空港で見送る時もバイバイしたあと速攻で指輪を外すみたいな(実際は金属探知機の話をしてたのでそれで外したんだと思うけど)のがあってからの、3年だからね。
彼女自身も相当モヤっとボール強く握りしめてたと思うよ。

でもそれを差っ引いても。差っ引いてもなのよ。

仲良し君は選ばれなかったし、
なんなら葛藤もなさげな感じだったのがただ悲しい。

ちなみにこのスピンオフの方でも、先輩、クジラ公園に行くんよね。最後。
嘘だろ…と思ったけど、本編のラストで置いてあったハイボールの缶、黒島先輩が飲んだやつやったんよね。もうちょっと早く公園行ってればなあ…仲良し君。人生はタイミングゲー。てか仲良し君てさあ、ほんとにどの映画でも仲良し君止まりだよなあ。何で?どの映画でもひどい目に遭ってるピーター・サースガードみたいな。
スピンオフの最後の黒島さんの独白、

ちゃんと、すごく好きだったよ。
間違いだらけのわたしだったけど、あの言葉は嘘じゃなかった。
わたしはあの夜、過ちであったとしても、確かな光を見てしまったんだ。

ここめっちゃ良かったなあ。仲良し君に見せたいわ。黒島さんの言い方好きすぎる。

てか黒島結菜が良すぎる。全編通して。
だからこそ、ネタバレ後の後半に見る価値がなかったまである。

あとあと~
RADのアルバム議論とかエイリアンズとか所々でかかるJ-POPが「モテキ」っぽいな思った人は結構いそう。僕も思いました。
二人が初めて待ち合わせした下北のビレバンは映画モテキで幸世(森山未來)と美由紀(長澤まさみ)が待ち合わせた場所でもあるし、

※そもそも仲良し君と黒島先輩は「モテキ」の世界に憧れている設定だったらしい。原作では旅行の車内で「夜明けのBEAT」を流している

他にも、美由紀の彼氏は既婚者(つまり不倫)だったし、パートナーとの関係にわだかまりを抱いた女が、偶然現れた人畜無害そうな男と友人以上の関係になるという構図も似てる。
黒島先輩がフジロックに行くのを嫌がったのも、
自分は映画モテキのラストのようにはならない=夫の元に戻るつもりだった、という解釈もできなくもない。これはまあ多分違うと思うけど。
返信が来なくて仲良し君が落ち込んでた時期に後輩の女の子が「道草」の話をするんだけど、「道に生えてる草を食べるから遅れる」つって。
これもドラマ版モテキの最終話の「夏樹ちゃんにとって俺って、なんとなく曲がった道だったんだよね」って台詞を彷彿とさせるし、
美由紀の「出会いたくなかった。幸世君と」「確かな光を見てしまったんだ」と近しいものを感じる。

夫のいない生活の中でなんとなく曲がった道だった仲良し君。出会いたくなかったけど、出会ってしまった。見えなくていいはずだった光を、見てしまった。帰国した夫に抱かれながら彼女が「ごめんなさい」と泣いていたのは、夫を裏切った罪悪感によるものなのか、それとも仲良し君を傷つけ、失った悲しみなのか…。両方でしょうねえ。知らんけど。


そんなわけで「明け方の若者たち」は単体では胸糞映画ですが、黒島先輩のスピンオフ込みならかなりの良作でした。あれこれ調べてるうちに好きな映画になりました。小説も買ったしブルーレイも買うぜ!

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