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2020年:ドランとノーラン/ノーラン編②

前回に続いてノーラン編②。

「ダンケルク」「インセプション」を経て、ノーラン節にも慣れてきたところ、満を辞して2020年の一大トピック「TENET」の公開に追いついた。

TENET 2020年/アメリカ・イギリス/151分 

実は、劇場で計3回も観てしまったのだが、正直未だにうまく説明できない。
私があらすじを説明しようもんなら
・主人公は「ある男」
・ある男は、特殊部隊としてテロの対象とされている人物を救出するも捕らえられてしまう
・任務の秘密を守るため自決用のカプセルを飲んで死んだかと思ったら生きていた
・突如、第三次世界大戦を防ぐために色々するハメになる
・いろんな意味での最強の武器「時間」を利用して悪の根を絶やすことに
・時間を移動できる装置が数箇所あり、そこを通れば自身は時間に逆行することができる
・時間の逆行は、順光と同じスピードで戻るのみで、タイムリープとは別物
・相棒のニールがカッコいい

といった感じである。
映画を観て、何が起こったのかちゃんと理解したい場合は(ラストまで完璧に書いてある完全無欠のネタバレなので、未観の場合は要注意)、Wikipediaの「ストーリー」を読むのが一番わかりやすいうえ詳しい。

とはいえ、こんなにも複雑な映画をなぜ3回も観たのかというと、ストーリーを理解したいと思ったのももちろんなのだが、最大の理由は「かっこいい映画」だからである。
例えば、かっこいいと思った音楽は、曲の構成を分析しなくても、歌詞の意味がよく分からなくても、かっこいい。
かっこいいと思った服は、どんな生地で作られているか、なぜこの形になったのか分からなくても、かっこいい。
そりゃ、この曲はサビにギターがもう一本足されていて、歌詞に共感型のエモさがあるからカッコいいんだ!とか、
この服は、染めているのではなくあえて印刷で色付けされた生地で、デザイナーが和菓子の木型に着想を得てこのデザインになっているからかっこいいんだ!
など、中身を理解し、なぜそうなったかを知っていれば、より楽しめるのも確かではある。
しかし、実際はそんなことを考えなくても、かっこいい音楽だと思えば何度も聴くし、かっこいい服だと思えば、それを着て気分を上げることもある。
わたしは、「TENET」というこの映画を、それと同じように楽しんだのである。

冒頭から、敵か味方かわからないまま始まる銃撃戦、観客が睡眠ガスで一気に倒れる映像、大劇場の爆発、緊張感のある音楽、状況が理解できないまま猛スピードで物語は展開される。
一瞬で画面から目が離せなくなり、どんどん作品に引き込まれ、気づけばワクワクが止まらない。
「TENET」は、直感的にかっこいい映像、かっこいい映画音楽、これを体感するだけで十分なのではと思うほど圧倒的な作品で、(言い方が悪くなってしまうが)それこそがこの映画における「観る価値」なのではないかと思う。

まず、その映像に関しては、「リアル」にこだわるノーラン。
時間の「逆行」をただの「逆再生」で終わらすことはしないのである。
物はキャッチするのでなく、落とすことで手の内に入るという説明がなされるのだが、この映像も逆再生じゃないというのだ。
つまり劇中の「逆行」は全て演技で、説明するのも難しいが、”順行にいる人間から見える時間に逆行している人間“は、役者たちが後ろ向きに歩いている。
故に、”順行の人間“と”逆行の人間“が戦ったりしているのも、別々に撮った映像を逆再生したりして合わせているわけでなく、同時に撮影した無加工の映像なのである。
訳わからないと思うが、実際に撮影していた役者も撮影スタッフたちもよくわかっていなかったようなので、わからないのが普通で、常人が理解できないのはもう仕方がない。
しまいには順行の車と逆行の車がカーチェイスまでし始めるので、これはもう「なんかすごいことが起こっている」という解釈に留めておいた方が楽しめるのではないかと思う。

ただ、どうしてもこの時系列の仕組みを理解したいがために、私は3回目を観る前にYouTubeで軽くTENET解説動画を見てみることにした。
実際に見てみると、改めてこんなにも内容を理解していなかったのか、と落胆し、そして改めてその動画を見ても「そんなことが起きていたのか!」という程度の理解にしかならないのも確かである。
最終的にはこんなことを考えつくノーランはどんな脳をしているんだ、と感動すら覚えると同時に、こんなにも難解な映画を「制作しましょう!」となった映画会社も、出資会社も凄い。
これまでの経歴があるからこそだとは思うが、この映画を完成させることができたという事実が本当に凄い。


そんなこんなで予習後3回目を観たのだが、結局のところ“スタルスク12”のシーンに入ってから やはりチンプンカンプンになってしまい、あれよあれよと事態が収束し、熱く切ないエンディングにたどり着くのであった…。

音楽に関しては、ルドウィグ・ゴランソンというスウェーデンの音楽家が担当しているのだが、個人的にはこの人に絶大な信頼を置いている。
「TENET」の他に「ブラックパンサー」や、最近では「マンダロリアン」、また映画音楽だけでなく、全世界に衝撃を与えたチャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」もチャイルディッシュ・ガンビーノと共に作曲を担当している。


また、彼が音楽を担当した作品の中でも「ブラックパンサー」は個人的にTENETと同じく“かっこいい映画”だと思う映画の一つである。
特に民族楽器と現代音楽を上手く融合させた劇中の音楽が素晴らしく、架空の“ワカンダ”という国の温度感やその世界に溢れるエネルギーを体感できる重要な要素となっていた。
作曲者について、詳しく調べていなかった当時は、てっきり作曲者は黒人で、ブラックミュージックや民族系のルーツを持っている人物かと思っていたが、その後「ようこそ映画音響の世界へ」というドキュメンタリーに出てきた彼は白人の若者で、北欧のスウェーデン出身であるという事実に私は衝撃を受けた。

そんな彼しかなし得ない、スタイリッシュで映画に強烈な印象を残す音楽は、「TENET」においても、存分に発揮されている。
非常にミニマルな要素が強く、繊細で計算され尽くした必要最低限の音だけを使っているような音作りは、TENETの世界観を的確に捉えていることの象徴であり、映画音楽として最も重要な部分である。
細やかな音像の中でもひときわ容赦のない重低音は、驚くべき映像とともに映画館で聴くことで、その存在が不可欠なものであることを実感する。
特に印象的なのは、前述にもあったカーチェイスシーンである。
キャッチーでわかりやすい“テーマ曲”というような音楽ではなく、音楽と効果音の中間的な存在として、映像だけでは伝わりづらい緊張感、順行と逆行の時間が擦れるような臨場感を生み出し、強烈な“劇場体験”を我々に与えるのであった。

余談ではあるが、映画最大のテーマ“時間の逆行”にちなんだ面白い試みとして、このサントラの”公式“逆行バージョンが存在している。
基本的には歌がない楽曲なので、それほどおかしなものになるとは思えないが、驚いたのは逆行バージョンの一曲目、主題歌 Travis Scottの「The Plan」である。
何故か逆再生しても、順行バージョンの印象と変わることなく、”同じ曲を聴いている“ことがわかる狂気すら感じる作りとなっており、私は驚愕した。

そして、最後に特記したいことといえば、ラストシーンについてである。
今回も、あの痺れるラストシーンのために本編があったと言えるような、切なさを含みつつも優しくて強いエンディング。
なぜそこに辿り着いたかが分からなくても、伏線が回収できた気になるなんとも不思議な終わり方で、「そうだったのか…あぁそうだったのか!!」と何度も感慨の鐘の音が鳴るのである。
そして、この興奮を何度も体感すべく、劇場の次は自分の家で、Netflixを開き「TENET」の再生ボタンを押すのであった。


これにてノーラン編終了。
2020年に観た映画まとめもここで終わりとなります。
自分用の記録として始めたわけですが、本当に自分用だと、途中でやめてしまう結末が見えたので、ブログ?コラム?として公開してみました。
結局のところ1年以上もかかってしまったものの、なんとか残しておきたい記憶は残せたかと思います。

昨年(2021年)観た映画は次の投稿でサクッとまとめて、今年は映画を観たらなるべくすぐに更新していきたい所存です。
思い出した頃に覗きに来ていただければと思います。


そして、ここで終わらないのが長文書きがち人間。
せっかくノーランの話だったので、今年楽しみにしている映画を1本。
「THE BATMAN-ザ・バットマン-」ですね。

主演は「TENET」で最高の相棒ニールを演じたロバート・パティンソン。
ただ、この作品はノーランではなく、「クローバーフィールド/HAKAISHA」などのマット・リーブス監督。
しかしながら、ノーラン作品の中にも“バットマン3部作”と言われるものが存在しする。
「バットマン ビギンズ」(2005年)、「ダークナイト」(2008年)、「ダークナイト ライジング」(2012年)の3本。

今回ノーランを調べている時に、この3作品をノーランが監督していると知ったのですが、“ノーランの映画を最後まで観たことがない”という私の主張が事実ではないことがそこで発覚。
実は、「ダークナイト」だけ、「JOKER」(2019)の予習のために観ていました。
そういえば、冒頭からジョーカーが黄色いトラックで銀行に突っ込んで大暴れする感じ、ノーランっぽい。
ただ、これはジョーカーたるものの予習のため単発で観たので、次はバットマンたるものを予習するために「バットマン ビギンズ」から続きで観てみようかと思うところです。

ついでに言うと、「JOKER」にも幼きバットマン、少年ブルース・ウェインが映っていたのも記憶している。
噂によると次の「ザ・バットマン」は、どうやらこの2019年版「JOKER」の流れを組むようで、ノーランの描くバットマン=ブルース・ウェインとは全く違うとのこと。
さらに、「ザ・バットマン」では、ブルース・ウェインという人物が、バットマンとして活動し始める前の話が軸にあるらしく、さらにNirvanaのカート・コバーンをブルースのモデルとしているようである。
US版の予告ではNirvanaの「Something in the Way」が使われているのことですが、日本版では歌がカットされた曲に変わっていた…。

個人的には、ロバート・パティンソン×カート・コバーンというだけで優勝なのですが、それがどうダークヒーローとなっていくのか、楽しみで仕方ありません。
とりあえず、ノーランのバットマン3部作を観つつ、Nirvanaも聴いて雰囲気を掴んでおこうかなと思います。

さて、長々と続けてしまいましたがいい加減終わろうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

それでは、また。

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