ファーストクラッシュ

山田詠美の新刊が出た。
わたしと山田詠美、通称エイミーとの出会いは中学生の頃にさかのぼる。新潮文庫の100冊の中に「ぼくは勉強ができない」が入っており、それをきっかけにファンとなった。
タイトルに惹かれて手にとったこの本は、多感で思想が形作られる思春期の心に衝撃を与えた。今のわたしの考え方に、深く影響を及ぼした。特に、当時はエイミーの信者であると自ら名乗り、周りにも普及活動をおこなうくらいだった。

それから10数年が経ち、ほぼ全作品を読み終えた今、新作が出ると胸が痛くなるほどの喜びに身が震える。
頻繁に作品を出さない分、出たときのファンの喜びようったらない。
期待が裏切られたためしがないのだ。確実に面白いことを確約された物語がこの手の中にある。それは、本読みにとっての最大級の幸せだ。

エイミーの作品に共通しているのは、文章がきれいだということだ。読みやすいと言われる作家でも、わたしにはなぜか読みにくい、読めない作家が少なからずいて、文体が苦手なのだということにしている。
その点エイミーの文体は、最高だ。わたしにフィットする。読んでいるだけで、気持ちが良い。そして、美しい。
なかみが良いことはもちろんのこと、文体が素晴らしいことが、山田詠美がわたしにとって、不動の1番好きな作家たらしめている。

「ファーストクラッシュ」は、恋愛小説を書いてきたエイミーらしい、初恋の話だった。初恋を通して、人の心が描かれていた。読んでいる中で、何度も心を揺らされた。読み終えた今、いくつものシーンが頭に浮かぶ。
それでも、クラッシュはされなかった。
とても良い作品だったにも関わらず。
なぜなのか。それはきっと、わたしがすでに山田詠美という作家を知っていたからなのだろう。
そして考えていると思い出した。
この作品では確かにクラッシュされなかった。しかし、わたしの人生の中で、読書体験におけるファーストクラッシュはまさしく、山田詠美その人だった、と。

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