No.008:中学生、友人のライブで憧れと喜び、嫉妬と競争心を知る
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主人公の様々な喜びや苦悩。家族愛・友情など様々な環境の中で懸命に生きる姿をお暇な際にご覧いただければ嬉しいです。
あらすじ
HIP HOPの黄金期と言われる1990年代、僕(中井 丈一)はテレビ番組"天才・たけしの元気が出るテレビ!!"の人気コーナー"ダンス甲子園"の影響で、小学校高学年から中学校にかけてダンスの真似事グループを作った。
ヤンキーやバンドマンの多い僕らの学校で前例のないことをやっていることに、どこか誇りを感じていた僕は"本物のダンサー"との出会いを求めて繁華街にあるHIP HOPの店"Wild Style"に通い詰め、ダンススクールを紹介されたことで、真剣にダンスを踊るようになった。
ダンスレッスンの日々
僕は毎週火曜日に繁華街に出てダンスのレッスンを受ける中で、先輩のダンサー達とも少しずつ馴染めて、会話もできるようになった。
そして習ったことを毎晩の公園での練習で応用して、みんなでルーティンと呼ばれる振り付けの流れを考えたり、得意技的なものを考えたり。
特に大きな行事があるわけでもなく、黙々と努力する日々を過ごしている。
文化祭という目標
僕らの中学では大抵3年生が文化祭でバンドをすることが恒例になっており、毎年行われる文化祭では上級生がバンドをして学校中の生徒が羨望の眼差しでノリまくる。
僕らのダンス真似事チームも、文化祭に出ることがひとつの目標となっており、まだ1年以上も先の話だが目標に向けて頑張っている。中でもモテたがりなヤンキーのジュンは特に真剣になっていた。
そして同級生のパンクロッカーであるオーくんも文化祭を見据えて、同級生バンドメンバーでよくスタジオに入っている。
最初のデビュー者
中学2年になり、少しずつ同級生のみんなが大人になっていく。
例えば筋金入りのヤンキーであるカッちゃんは、すでに暴走族の集まりによく参加し、単車の後ろに乗って街を走っていたり、すでに単車の運転も出来るようになっている。
頭の良いヤンキーはすでに高校進学を見据えて勉強をしていたり、スポーツが得意な同級生は全国大会に出場していたりと、少しずつ"ただの子供"が大人の階段を登っている。
そんな時に僕ら不良仲間を集めて、パンクロッカーであるオーくんが「ライブハウスに出るから、みんなで遊びにきてよ」と告げた。
みんなで「おぉぉ!!すげー!」と感動し、少ない小遣いでライブのチケットを買い、繁華街の外れにあるライブハウスのフライヤーなどを受け取った。
僕らの仲間内で、最も最初に学校を出た舞台に立ったのはヤンキーのカッちゃんとパンクロッカーのオーくんだ。
ライブ当日
オーくんのライブ当日が来た。
僕らはそれぞれに最寄駅に集合してライブハウスへ向かうが、色々な種の不良が一緒になって歩いているのは少し異常な光景である。
ライブハウスに入って受付でチケットを出すが、受付の人もバンドマンで、ダンス界隈に居る人よりも異質で怖く、オーくんが普段どんな環境の中で夢を追いかけているのかと思うと、改めて「すごいなぁ」と感心する。
複数のバンドが出るライブで、オーくんの出番は3番目のバンドらしい。
1組目、2組目と高校生くらいのバンドが出演し、僕ら中学生20名を合わせると50人居るか居ないかの客の数。
聞いている人はおそらく学校の同級生的な感じなんだろうと思うが、パンク調のライブに手拍子が聞こえるという、少しのアンバランスさを感じたが、デカい音を掻き鳴らして演奏する姿はカッコよかった。
演奏が終わると「ありがとうございました」と頭を下げてステージを降りる。次はオーくんのライブだ。
先頭を走る友人のライブ
オーくんのバンドが紹介されると、入り口からゾロゾロと高校生かそれ以上かの年代のパンクロッカーが入ってきて、モヒカン・スキンヘッド・ロン毛・トゲトゲ頭のパンクロッカーからドス太い声援が始まる。さらには美人なロッカー調の格好をした女性陣も続々と入ってくる。
人気バンドの弟ということもあり、すでにパンクロッカーの間では知られている存在らしく「初ライブでこの怖い人たちを前に演奏するのか」と僕は改めてオーくんに感心する。
そしてオーくんがマイクを取ると「おい、うるせー!今からオリジナルの曲をやるから静かにしてろ!」とコワモテのパンクロッカーに言って笑いを取る。
「なんだこの余裕は」と僕はただただ感心しながら見ていると演奏が始まったが、明らかに前の2組のバンドの時よりも音量がデカい。
耳鳴りがするような大音量の中で、大人に見えるパンクロッカーが暴れ出し、その前でオーくんがバッチリとギターを持って曲を歌う。
何を言っているかは分からないが、そんなことはどうでもいい。こんな凄い環境の中で堂々とライブをするオーくんがカッコよかった。
さすが僕ら同級生の中で唯一、14歳で童貞を捨てた男だ。
ライブ会場を出て
パンクロックのライブを聴きながら、どんな動きをしたらいいのか分からない僕らは、じっと立ち尽くしてライブを見ていたが、オーくんが僕らに「おー!みんな、ありがとう!」と言ってくれたのは誇らしいことだった。
ライブが終わり会場を出た僕らは「同級生にあんなカッコいい奴がいるんだ」と自慢げに話しながら駅へと向かった。僕も最高に嬉しく誇らしい瞬間だ。そして僕だけでなく、みんなオーくんに嫉妬し、負けてられないと強く感じた瞬間でもある。
いつも横一列に並んでバカなことばかりやっていた同級生も、それぞれに将来に向かって進み、目標を見つけた者から階段を上がっていく。
少しずつ僕らに与えられるポジションは平等でなくなり、頑張った者から前へと進んで行く。だからみんな自分の道を探して、精一杯に努力して前進していかなければとそんな勇気をもらったのだ。
僕らの仲間は目指す道は違えど、最高にクールだ。