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4Dサウンドアドベンチャー:序

一体何が起こったのか。元の場所に戻る方法もまるでわからない。新入生たちはひとしきり騒いで途方に暮れたところで、ふと、空中に半透明の3DCGのような《厚みのある八分音符》が浮かんでいることに気付いた。大きさは1メートルくらいか。人の頭のちょっと上くらいの所に、それがフワフワと周期的に上下運動してる。

「なんなんこれ」
「音符だな」
「フワフワしよる」

そのうち、みんながそれを見上げる感じで取り囲んでいた。

「これ、アレじゃないん? アイコンっていうか、プロンプト」
「プロンプトってアレか 『入力待ち状態』の」
「ああ、なるほど」
「わからんわ」
「ほら、ゲームとかで ここで何かせえって所に出るやつあるじゃん?」
「わからん、わしゲームやらんもん」
「うわ今どきそんな人居るんだ」
「え、マジ? 暇な時何して過ごしてるの?」
「いや、じゃけえ音楽やりよんじゃん」
「……なるほど」
「で、プロンプトだとして何すればいいのこれ」
「音符が出てるってことは、何か鳴らせばいいんじゃない?」
「たちまち誰か鳴らしてみ?」
「じゃあ、これでいい?」

クラリネットの村上が、ずっと手に持っていた楽器を軽く掲げた。他のみんなが大体頷くと「ラプソディ・イン・ブルー」の最初の一節を吹き鳴らした。冒頭の低音からぐわっと上がるグリッサンドに続く、ちょっと気障な装飾音符つきの三連符。それに連なるいくつかの音。

「!」

その瞬間、頭上の半透明な八分音符のオブジェ(?)は蒸発するようにきれいに消えて、その代わり、八分音符よりはやや透明度が高い感じのモニョモニョもしくはグニャニャ――名状しがたい感じの形状の「もの」が空中に生成された。一方の端はやや厚みもあって、それが薄くなりながら少し波打って細く伸びて、途中からは球体に近い形が連なっている。さっきの「音」を形にしたものだ、とすぐにわかった。つまり、ここでは音が質量を持つ物質に変換されるらしい。



【つづく】