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「カラスさんが遊びに来たよ」

あまりその都度口に出すことはなかったけど、
数年前から常に低めの耳鳴りは続いているようだった。
だから、恐らくあのくらいの音域が聞こえやすいのもあったのだろう。
何となく二・三百メートル以内かな?という距離から
カラスの鳴き声が聞こえると、父は必ず少し嬉しそうに
我々(自分orはるorナマ)に呼び掛けるのだった。

「カラスさんが遊びに来たよ」

いや、遊ばないよ 呼んでないし。

「カラスさん、友達じゃないの?」

とか何とか。
ここ数年は、そんな一連のしょうもないやりとりが、
平均すると多分月イチくらいのペースであったような気がする。


そして、つい先日、やっと父の骨壺をお墓に収めたのだが
(実際の配置作業は石材店のプロの方がやってくれた)
その作業中、我々の後方(←ちょっとした竹藪がある)
数メートルくらいのところから「カア!カア!」って。
タイミング良すぎだろ、ってくらいに。

「父さん、カラスさんが遊びに来たよ

心の中でそう呟いて、秘かに笑い泣きしてた。
そのことを家に帰ってからまた思い出して、また泣いた。

父さんの居ない最初の五月は、そんな感じでおしまい。