図書館のフェアリーとゴースト
最後の連れは、古い軽。黒バンパーのいわゆる商用車。安かったから。とにかくこの田舎で暮らしていくためには最低限、日頃の足として車は要るよって言われて、越してきて一週間後に買ったやつ。
ごめんね、こんな終わり方で。でも、これでも自分なりに考えた末の行動なんだよ。諸元表で重量も確認して、ガソリンはそんなに残してないからまあいいとして、自分の体重は考慮に入れて。放物運動の公式はちょっと自信なかったから、図書館でそれっぽい本も借りてきて何度も計算したし。
放物線のスタートまで、あと七百メートル。何年も工事が中断されてる、自動車道が途切れた場所。手前はほぼ水平のまっすぐな道。計算通りにいけば、そこそこ広い河川敷のまん中辺りに到達できるはず。高さは十分。周りの皆さんにはちょっと迷惑掛けちゃうけど、最後だから。ごめんなさいって書き置きも残してきたし。
もうちょっとだ。もうちょっとで何もかも無かったことに…ううん、何も無かったんだ。最初から。
「さようなら――?」
一瞬、真っ暗な視界の隅に光が見えた。バックミラー。明らかに普通車と思しきヘッドライトが映ってた。しかも、すごい勢いで大きくなってる。つまり、速い。
この先は…僕は知ってて、この道を走ってるけど…ダメだ、向こうのほうが全然速い。こっちはこんなに、ずっと必死でアクセルベタ踏みしてるのに! 横に並んだ?っていうか、抜かれた? いや、ゲームじゃないんだから抜かれるのは構わないんだけど。あれ、消えた? いま僕、抜かれた…よね? なんか割と大きな普通車だったと思うんだけど、消えた?? さっき横に並ぶまでは確かに、そこに居た。運転席に誰か居るのも何となく見えた。でも、消えた。嫌だなあ、最後の最後に恐いもの見ちゃったな…と、思いきや――
「!?」
正面はずるいよ、しかもテールじゃなくてこっち向いてるし! 逆走! しかもライトオフ? 無理。無理無理!!!
【つづく】