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ニュースペーパーラガーマン

「行くぞ......」
ベンチに深く腰掛けた男が呼吸を整えるように言った。
周りの人間を鼓舞するにはあまりに小さな声だった。この後始まる出来事に対して自分自身に向けた洗脳なのか、あるいは何かしらの恐怖の表れなのかわからないが、その男は両手の指を1つ1つ指に絡ませ前屈みになり強く祈るような姿をしている。

時計の秒針がチックタックと音をたてる。時刻は午前三時五分。街は静まり人々は夢の中で美味しい綿菓子の作り方を学んでいたり、スパイダーマンになりニューヨークの摩天楼を自由に飛んでいたり、水鉄砲を大好きなあの子の下半身に向けて無邪気に発射している頃だろう。そんな夢が渦巻く時間に男の体は熱く高揚している。


坊主頭の男が言った。
「今日がファーストシーズン最後の戦いだ。俺たちは勝たなければならない!」
静かだが、その言葉には強い意志を感じる。目を大きく見開き男たちの中央にある丸く束ねられたニュースペーパーを見つめている。

「へへへ、そうやなー。明日は休刊日やから、今日勝って明後日に向けて弾みつけようやないか。へへへ」ヘラヘラした顔の男が言った。

「グルコサミンの爺さんちに最初にニュースペーパーをトライする。敵もたぶん爺さんちを狙ってくるはずだから、まずはそこで先制ポイント。そうなれば敵は家を変えなければならない。そして次に向かう先はアンドロイドのあいさんちだろう。そこを坊主頭の男とヘラヘラした顔の男、君たち二人でブロック。その間にアイコンタクトの男がトライする! ここまで成功すれば、あとは気合いだ! それでいいかリーダー?」
インテリに見えて精神論者の男が言った。

アイコンタクトの男は三人と目を合わせ力強く頷きリーダーと呼ばれた男を見たが、リーダーと呼ばれた男は絡み合わせた両手を見つめていた。アイコンタクトの男は少しだけしょんぼりした。

リーダーと呼ばれた男は静かに吐息を落ち着かせ立ち上がった。それを見た四人は立ち上がりリーダーと呼ばれた男の言葉を待った。

「ここまで五人でファーストシーズン良く頑張った。ニュースペーパーラガーマンは、最新の情報をいち早くお客様のところへトライしなくてはならない」

四人は頷く。

「我ら虚構新聞社の情報をまだかまだかと待ちかねているお客様のために我々は勝たなければならない! 真実新聞社の嘘の情報を信じさせてはいけない!」

四人は深く頷く。

「ポストに最初に入った情報のみ真実! 我らニュースペーパーラガーマン! 行くぞぉー!」
『おぉぉー!』
リーダーと呼ばれた男の号令によって男たちは叫んだ。アイコンタクトの男は静かに頷いた。

午前三時十分開戦の時刻、リーダーと呼ばれた男は中央の丸く束ねられたニュースペーパーを持ち、男たちはまだ暗い街の中に真実を届けに消えていった。



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