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#04 7代目立川談志 〜立川雲黒斎家元勝手居士〜

「努力ってえのは、なんです?」
「馬鹿に与えた夢だ」

 談志落語の十八番『やかん』のネタです。
 この言葉通り、立川談志という落語家は夢を与え続けた人でした。しかし、それは「馬鹿」に与えたのではなく、現実社会を生きづらいと感じている人たちにでした。
 生前「俺のファンは社会で排除されているような人が多いんですよ」と語っていました。実際に談志は、自らが傍若無人であるかのように振る舞い、鼻つまみ者、不適合者と世間で呼ばれてる人たちに「お前はそれでいいんだよ」と救いの手を差し伸べているかのようでした。この姿勢は、かつて『現代落語論』の第2弾『あなたも落語家になれる』で述べた「落語とは、人間の業の肯定である」の持論につながるものがあります。
 
 「要は、世間で是とされている親孝行だの勤勉だの夫婦仲良くだの、努力すれば報われるだのってものは嘘じゃないか、そういった世間の通念の嘘を落語の登場人物たちは知っているんじゃないか。人間は弱いもので、働きたくないし、酒呑んで寝ていたいし、勉強しろったってやりたくなければやらない、むしゃくしゃしたら親も蹴飛ばしたい、努力したって無駄なものは無駄--所詮そういうものじゃないのか、そういう弱い人間の業を落語は肯定してくれてるんじゃないか、と。」(『人生成り行き -談志一代記-』より)

 「寄ってたかって『人間を一人前にする』という理由で教育され、社会に組み込まれるが、当然それを嫌がる奴も出てくる。曰ク、不良だ、親不孝だ、世間知らずだ、立川談志だ、とこうなる。それらを落語は見事に認めている。それどころか、常識とも非常識ともつかない、それ以前の人間の心の奥の、ドロドロした、まるでまとまらないモノまで、時には肯定している。それが談志のいう『落語』であり、『落語とは、人間の業の肯定である』ということであります。」(『談志 最後の落語論』より)

 人間の持つ弱さや愚かさを認め、本当の姿をさらけ出すことを良しとした立川談志。彼もまた本能のままに生き、破天荒な行動や毒舌というスタイルで賛否両論を巻き起こしました。いつしか付いた呼び名が「落語界の反逆児」。その名の通り、談志はそれまでの落語家らしからぬ行動を次から次に繰り出しました。

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