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【AIR】棚田というレガシーにおける、部外者議論問題。対立より必要なのは建設的解である。

先日棚田に建設される星野リゾートをめぐり、議論になっていたのだけど、そもそも「棚田」というものが農業生産装置として抱える限界を理解しないといけないと思う。

原理主義的に保護しろといっても非効率な産業装置は維持が無理だし、かといってフリーライドする観光ってもじきに維持できなくなって借景がなくなる。だから建設的に維持管理できる新たに棚田維持モデルが必要なのですよ。

この記事を書いた後に星野リゾートの関係者の方からもご連絡頂いて、事業構造などを教えていただきましたので、最後に補足しました。

○ そもそも産業装置であるという理解

星野リゾートが由布院の棚田ゾーンに「界」を設置するということで、一部界隈で「勝手に景観を使うな」とか「棚田を維持する人たちを景色としてフリーライドしている」みたいな意見が出て燃え盛ったわけですね。

まぁご意見は分からないではないのですが、そもそも棚田は今でこそ棚田百選とか言われたりして「きれいな棚田は景観」みたいなイメージになっています。またその地域としての一定期間続いた農業方法としての歴史的資産を指摘する人がいますが、そんな第三者が身勝手に「素晴らしい」といったところで、これは結局農業をする上での産業装置なんですね。

国が保全を進めている奈良県明日香村の棚田に以前訪問したことがありますが、国が土地買収する予算を県に提供して権利関係を整理しても、結局は棚田を維持、活用するお金の仕組みを作らないと誰も割に合わない棚田農業なんてしないんですよね。

棚田を景観とみる人はいるけど、あれは産業装置なんですよね。農業をする場であり、そこから生み出される米によって収益を稼ぐものなのですから、「儲からなかったらやらなくなる」のです。

元来、農業は広く大規模に重機を入れて行えたほうが作業効率もよくなり、収量もとれます。しかしそのような土地がある地域ばかりではないので、山を切り開いて棚田をつくった人たちがいたわけです。重機は入らないし、手作業でその多くをやらなくてはならない棚田。当然、コストが高くなるわりに、収量はとれません。昔は人あまりの時代にそこしか農地がなく、小作として致し方なくやっている場合も多くあったのですが、現代にそんな大変なのに耕作面積を稼げない棚田のような農業をするというのは、効率から考えたらやらないわけです。別の仕事しようとか、もっと今や耕作放棄されている効率的な田畑をかりてやろう、になるのですよね。

そのような生産効率が著しく低いから発生する、維持する当事者たちの不利益を理解しない人が、景観保護や、企業が金儲けのためにーーー、みたいん考え方で意見するというのは的外れだなと思わされます。

○ 観光活用で棚田を維持するための方法

とはいえ、この手の議論している人たちの多くは「棚田は維持してほしい」という点で一致するでしょう。その意味では別に棚田を原始的に維持することにこだわる必要はないと割り切らないといけません。

観光活用で棚田を維持するのであれば、本来大規模水田での稲作とは異なる収入を作り、非効率になっている棚田の収入モデルにおいて「多角化」「高付加価値化」するというのがあります。これであれば単位あたりの利益を高めることは十分に可能です。

「多角化」であれば、せっかく借景として星野が棚田を利用するわけですから、本来はこれらの宿泊棟をたてる土地からそれなりの高い家賃をとって、棚田収入とは別にとれればOKですよね。もしくは、棚田借景代を棚田維持管理している人たちに支払うなどもあります。

「高付加価値化」であれば、宿泊客に食事で出す米を棚田米にすることによって、普通よりも宿の差別化になるので高く買ってもらうことも可能でしょう。これだけ借景にしているのに農薬バンバンとかまきづらいから、減農薬とかで育てて、とかこだわることもできる。棚田の良さは水源の上流に位置している場合が多く、水質汚染が低く、うまい米がとれるというのも聞いたことがあります。

このように棚田が普通の稲作生産装置としてとれる収入とは異なる、多角化、高付加価値化でとれる収入を作り出すことで、棚田を維持管理して十分に納得できるようになれるかどうか、だと思います。

○ 兼業として担い手を作り出す

さらに言えば、場合によっては星野の社員が業務の一貫で棚田を維持するということもあり得るでしょう。稲作についてはあんまりいうと怒られると思いますが、京大農学部出身の知り合いと話していても、とてつもなく研究開発投資された品種ばかりだから今は一番手離れが良い作物とも言われているそうです。つまり毎日面倒をみるとかしなくても、植えて、ある程度管理していれば収穫できる。

だけど、田植えと収穫(もちろんその間の最低限の作業はあるけど、果物や野菜よりは良い)は最低限棚田は手作業になってしまうので、そこは星野の社員の業務にすることでカバーすることも出来るでしょう。兼業農家的に星野の社員が働くことでも面積的には維持可能でしょう。

○ 体験プラン、棚田オーナーとしての活用

場合によっては体験学習プランとして宿泊者とともにやるのもあるでしょう(まぁそれが労働力になるかは微妙だけどw) さらに棚田オーナープランをつくって、毎月お金を支払ってもらって収穫の一部を送るとか、宿泊パックとセットにするとか、そのあたりも工夫ができると思います。契約農業のほうが付加価値が高いので、私の知り合いでもかなりやっています。

これらを組み合わせれば、他にはない棚田維持モデルを作り出すことは十分に可能でしょう。観光とは地元以外の財布をもってきてもらう産業ですからね、そこからちゃんとお金をとって地元所得にして地元の財布を厚くしていくということが大切です。

そういう意味では棚田というのは何日もみても飽きますがw 一日二日みにくる観光には良いと思います。見た目は整っていればきれいですからね。だけど毎日みても面白くはないから、ちょうど観光でなんちゃってで楽しむのには良い。

だからこそ、従来の棚田経済とは異なるモデルが大切なのだと思います。このような形式は星野だけでなく、棚田維持管理と観光産業のコラボという点でいえばできることが多数ありますね。

今回の棚田議論をみていても、感情的なところ、気に入らないから文句言うとかではなく、「どうしたら今抱える棚田の経済課題を解決できるのか」ということと、星野など観光事業者のメリットを組み合わせるソリューション思考ができる人は少ないなーというのを感じます。

ぜひnote定期購読の皆様とは建設的な解決策を探し出していきたいと思うところです。

○ 星野経営の新設棚田

本コラムを書いたあとに、星野でのリゾート企画開発している方からご連絡を頂きまして、内実も教えていただきました。

今回の棚田は全て新設されるもので、借景ではなく完全に直営とのことでした。つまりはコラムで触れたように星野リゾートの社員が全ての管理運営を担う棚田となるそうです。

農地法上は非農地の扱いとしており、正確には「棚田風水生植物園」ということになります。
一方で、棚田では地元の農家の方の協力を得ながら、実際にスタッフが米を育てており、収穫した米の提供、稲藁飾りをつくるアクティビティ、農業体験のアクティビティ化、といったことを運営上見据えております。

ということで、まぁほぼこのコラムで書いていることは実現されるようです。だから、棚田にフリーライドみたいな意見は勘違いだし、棚田を勝手に鑑賞物のようにするなーみたいな原理主義的な意見もまぁちょっとそれは生きすぎじゃないの、というところですね。開業後には実際に現地にもいってみようと思います。

一方で既存棚田の維持問題というものを解決するものでもなかったりするので、他の棚田維持している地域はこれらをヒントに新たな事業を考えてみるとよいのではと思わされます。


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