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【書評】なぜ農業には「右腕」が必要なのか。

ファームサイドの佐川さんが、自分のキャリアでの山あり、谷ありのお話から阿部梨園での実践的内容をもとに書かれた一冊が発売になっています。今朝読み終えて感じたことをまとめたいと思います。

この本はまず実際の中小零細の事業体における経営改革の話としては、農業のみならず私が関わってきて長い商店街などの分野でも同様のことが言えるなと頷くことばかりでした。

同時に、佐川さんのキャリア形成も非常に興味深いことばかりでもあります。まさに最初のキャリアスタートが東大からデュポンとは思いもしませんでした。アメリカの伝統的大企業のひとつなわけですが、そこでの苦労の有り様などは現代における我々の世代で他人事とは思えない現実だなと思わされます。

組織の大小を超えて、本当に必要なこととは何か。一つの現場を掘り下げながら、普遍的な問題が見えていくというプロセスは非常に面白く、また共感性も高かったです。つまりは農業分野だけでなく、地域における事業開発であったり、不動産再生であったり、多様な「小さなチーム」で課題を解決し、より魅力的な商品サービスを作り上げる上で必要なバックオフィスのあり方、さらに適切な営業マーケティング部分として非常に私の意識していることと共通性が高かったです。つまりは零細組織には、実は商品サービスの生産に関わることと共に、このようなバックオフィスや営業マーケティングを統合した機能を果たす人材や数人のチームが有効であるということでもあります。そのノウハウが書かれています。

そのあたりから私なりの気づきを3点ほど整理しときたいと思います。

○ 作物を作るだけではない「農業」

農業と言えば、作物を育てるイメージが強くありますが、もちろんそれが中核的な要素とはいえ、複数人のチームで働き、さらに当然職業ですから会計管理、労務管理といったバックオフィスも無視はできません。

だけど、農業振興といえば、まさにどう作物を育てるのが良いのか、どういう付加価値の高いものを育てるのか、というある意味では「攻め」の面だけが注目されがちですが、やっぱりバックヤードの「守り」もちゃんとしておかないと事業は安定しませんよね。

地域商店でも各分野では専門家であるものの、経営的なノウハウが不足して経営破綻に至ることはよくあります。レストランなどでもシェフとしては一流でも、オーナーシェフの経営部分については得意ではないまま放置して、資金繰りで潰れてしまうことというのは、国内だけでなく海外でもよくあることです。

右腕というのは最初イメージがよくわからなかったけど、本書を読んでクリアになりました。このような何らかの商品・サービスの生産や提供といった部分ついて専門的なトップと共に、そこに必要な組織マネジメントなど含めたバックオフィス、そして営業マーケティングをしっかりと回していく人材が不可欠なのです。日々忙殺されている商品サービスの生産者たるトップにとって、記録を整理してアクセス可能な状態にしたり、これまでの実績の数字を分析して対策したり、はたまた経理管理や労務管理とかは二の次になってしまうということも少なくないわけです。けど、それがちゃんとしていないと人も定着せず、結局いいものづくり、サービス作りもできない。この負のループを断ち切るというためには、適切な役割分担ということですね。

地域での取り組みも私は3つの役割があると思って進めています。1人は一定のリーダーシップで商品やサービスを作って営業できる人材、もう1人は地元での信用を獲得して人々との関係調和を保てる人(ま、あのひというなら仕方ないよねという)、もう1人は細かな事業計画や管理といったことをこなせる人。逆に言えばどんなに大きなまちでも、小さなまちでも、こういう3人程度のスモールチームがプロジェクトをおこし、まちを変えていくということがたくさんあります。そこにもちろんどんどん新たな人も集まってきて、徐々にスケールは変わりゆくものですが。

農業でも実は作物議論などだけでない分野も大切なのだというのを認識させられ、それは他の分野でも言えることばかりと思います。

○ 零細組織だからこそ活用すべきオンラインサービス

でもって、本書で指摘され、おそらく全てのスモールチームに共通して参考になるのは、やはりオンラインサービスを適切に活用し、省力化を図り、効率的かつ的確なバックオフィス回しをしていこうということです。

かつては大企業のように人を多く抱えて、専門部署があり、専門家も多数そろえているところでないとできなかったような、財務経理などの管理、労務管理などが今やFreeeやマネーフォワードとかで簡単にできるようになっています。しかも日々変わる各種制度にも適切に対応してくれるので本当に楽です。それが年間数万円程度で使えてしまったりするので超絶楽なわけです。請求書一つ送るのも入力してしまえば、印刷して送付するところまで担ってくれたりします。地味な作業がなくなっていきます。

その分、別のところに時間を使えるわけです。零細組織だからそういうシステムは、、、なんていう人は逆です。零細だからこそ活用すると猛烈に変わるのです。インターネットは破壊的です。そういう意味では。細かなデータベースなどの整備も、昔であればセブンイレブンみたいな大企業でないとできなかったものが、今やネットのサービスでデイリーで売上状況などを分析することすらも簡単にできるようになっています。

クラウドファンディングという資金調達や、外部の人たちの巻き込みも同様です。巨大企業が専門企画をつくって代理店を巻き込んで宣伝して、、、みたいなことは零細組織には無理ですが、自分たちでクラウドファンディングでしっかりとした企画を作り、仲間を集めていくと数百万の資金が集まるとともに、それだけの人たちとのネットワークを一気に拡張することができるようになるわけです。

素晴らしい時代ですよね。先日も地元カンパニーが株式発行での資金調達をしていましたが、5000万円集まっていましたね。こういう時代なのです。

零細組織ほど人海戦術でない方法を採用すると、大きなインパクトがあります。

○ ノウハウを発信していくことの価値

さらにやはり佐川さんのアプローチで現代的なのは、クラウドファンディングで集めた資金で、農業改善のポイントを300事例無償発信するサイトを作ったことですよね。

知見が多くの人たちに広がること、というオープンソース型の時代に即した展開にしたのは非常にそれ以上の価値を作り出しましたよね。これは私も学んでやらねばならんな! と思ったことです。公民連携、商店街活性化などなどに改善点はたくさんあるので、それらを集めてオープンソース化していくというのは色々とできることがあります。

発信した情報が拡散すればするほどに、実は戻ってくる、フィードバックされていく、また連携できる情報が増加する。情報は発信しただけ戻ってくるとはいってもので、そのあたりについても小さな組織はいろいろなことやってても広報とか宣伝とかのメンバーはなかなか確保されません。だけど、そこも右腕たる佐川さんが取り組んだことで、より阿部梨園の見え方はより効果的に変わったように思います。

農業分野における本のようで、より「小さなチームでどう革新を産むのか」ということと「さらにその革新を組織を超えて全国で共有していく"うねり"へと発展させるのか」という2つのポイントが私にとっては刺さることがたくさんありました。

ということで、あー「右腕」ってこういう実像なんだということと、世の中の様々な組織に右腕たる人材がいることによって革新が進み、新たな時代にさらに価値を産むだろう地方事業の増加への可能性を強く感じました。

あーあと、大組織より小さな組織のほうが強いところ、人材が活きることもあるということも考えさせられますね。下手な調整とかで人材潰すこともなければ、すごい能力を発揮したりする。これからの社会において重要なポイントです。

未読の方はぜひどうぞ。既に増刷もかかっているようです〜!!

佐川さんには年内で一度、狂犬ゼミ農業編として登壇いただこうと思っています。乞うご期待。

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