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クレヨンしんちゃんで描かれる「LGBTQ」

昨日、ネットフリックスで「ブリブリ王国の秘宝」を見た。子供の頃に何度か見ていた作品だけど、大人になって改めて見るとあのセリフはこういうツッコミを意図していたのかとか、実はスケール感の大きいシーンで構成されていたのか、とか…とにかく、新しい発見が多くて非常に面白かった。アクションシーンはアニメでも3Dを用いたものが多いけど、セル画でここまでダイナミックに細やかに描かれているのかと、改めて見ると非常に驚きも多かったし、スタッフの方々の並々ならぬこだわりと情熱もそこに感じられた。

案外、純粋に埼玉のベッドタウンに住む核家族が、いきなり見ず知らずの南の王国(若干アラブが混じっている)に冒険する、児童書のテーマにもなりそうなシンプルに構成された作品ではあるけど…それ故に、余計な邪念やら勘繰りをすべて捨てて楽しめる作品になっているなぁと感じた。

特に印象的だったのが、敵役として登場するエキセントリックで強烈な風貌だが、実はオシャレでカッコいい「オカマ」の2人組…ある意味、ラピュタで言うところのドーラ的な役割と行ったら正しいかなと思うけど、彼らが終盤に発したセリフが一番印象に残っている。

「私たちのほうがよっぽどまともじゃないの」

単に野原家も含めた実に個性的で強烈な登場人物の面々に対して、見た目は強烈だがキャラクターとしては人情味のあるヒールでで割と常識人な彼らがツッコミを入れた、ようにも見えるんだけど…これ、今改めて考えると当時からLGBTQの方々も思いも含め、当時にあった「差別や偏見」に対する返答だって考えると…とっても興味深いんだよね。この当時はまだ今に比べても偏見や差別に違和感を感じられない、あるいは感じるような視点や感覚のない社会だったのだと思うけど、その時代にこのセリフをポロリと映画作品で出してしまう感じ…あるいは、誰もが「まともじゃない」し誰もが「まとも」という、誰しも個性を持ち生きているという普遍的なそれを表しているというか…深いんだよね。

基本、クレヨンしんちゃんにおいてトランスジェンダーの存在は、しんのすけとの関係性も含めて見た目は強烈でコミカルで人並みにツッコミもするし毒も吐くが、実はかなりフレンドリーに描かれている気がする。いつかのレギュラー放送でも、ローラースケートの達人のオカマ(ごつい体形にスカートという強烈なインパクトを放ちながらも、基本は「子供と本気で遊んでくれる優しくて凄い存在」)との交流が描かれているエピソードもあったけど…あれも大好きなんだよね。あまり大人に敬意を表す呼称を使わないしんのすけが、「師匠」と敬意をもって接しているのも好きだし、師匠がしんのすけと一緒に本気で遊びながら教えているシーンも大好き。

あるいは、「性格の悪い偉そうな大人」に対しては容赦なく生意気に悪戯を仕掛けるしんちゃんだけど(偽りの権威があると特に…)彼がそうしたトランスジェンダーのキャラクターに対してバカにする、あるいは蔑むような描写が一切ないのも確かだし、大人の「ひろし」が「オカマとゲイにモテる男」として時折描かれているのも興味深い…大概は、困惑するシーンが多いんだけどね…(笑)

以前はananでの「エガちゃん」ばりに、PTAや教育関係から「見せたくないアニメNO.1」という、不名誉ながら今思うと名誉あるレッテルが貼られていたけど、しんのすけのこうした姿勢って…実は極めて倫理的であり差別や偏見といった要素とは相容れない上、何か人として根本的に大切なものを描いているのだと思うと…

確かに、有害図書のような扱いを受けることの違和感もそうだけど、それ以上に「都合の悪い」何かを大人が見せられているが故に、蓋をしたがるのかなっていう…。そうでなくとも、大人の持つ違和感は子供の世界では何ら違和感でもなんでもなく、生きていく上でも自然なこと…として描かれているのも確かだと思う。

案外、先の「私たちのほうがまとも」というのは、クレヨンしんちゃんという作品が描かれている世界観や視点からも十分考えられるセリフでもあると思うし、そうした「普通」を意識しながら偏見と差別に満ち溢れている当時の世の中に対する皮肉…でもあるのかもしれない、といってもそこまで人を貶めるような作品ではないので、「お前ら気が付こうよ」程度のことだとは思うんだけどね。

ちなみに、マンガではしんのすけが「車中から海に不法投棄をするDQN」を、連中が乗るボロの改造車ごと「ごみ処理した」と園長先生に言って本当に海に落としてしまうシーンもあったけど、作者の臼井さんはキャラクターを通じて強烈に問題提起されていることも多い。クレヨンしんちゃんって実は、しんちゃんのキャラに目を向けがちではあるけど、強烈な社会風刺のある作品でもあるんだよね…。それも、既存の怪しげな倫理観からは一線を画す、ある意味純粋に違和感や怒りをそのままぶつける形の…。

ちなみに、どん底の精神状態だった大学生後半の時期に笑いをくれたのも「クレヨンしんちゃん」だったんだよなぁ…。特に、初期の頃の作品が好きで何度も見ていたんだよね。しんのすけがやらかしてみさえに思いっきり尻叩かれたりしていた、あの頃…(笑)

あ、そうそう…クレヨンしんちゃん最大の特徴は「叱ってくれる大人が必ずいる」世界観で構成されていること、だと思います。

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