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Frank Grimesの憂鬱

Frank GrimesはThe Simpsonsに1話だけ登場するキャラクターなのだが、その結末が非常に悲劇的でありながら、同時にどこか物語としては冷笑と諦めが入り乱れる、シリーズの中でも非常に強烈な印象を与えるものになっている。

グライムは幼少期に両親に捨てられて、労働を強いられるような過酷な環境下でなんとか大人になるものの、18歳の時にサイロの爆発に巻き込まれて大けがをしてしまい、それでも35歳までに放射能技師の修士を得て、縁がありホーマー・シンプソンの働く原子力発電所にエリート技術者として就職をするものの、ホーマー含めて「何かがおかしい」職場の中で心を病んでいってしまう、シリーズきっての悲劇的な運命をたどるキャラクターである。たった1話だけの登場ながら、自身も非常に印象に残るキャラの1人であり、未だにこのエピソードは何度も見てしまうのだ。

上記はFrank Grimesの登場する物語の切り抜きで、職場で関係がこじれてしまったフランクとの仲をホーマーが修復するため、彼を自宅に招いた際の映像なのだが、このシーンだけでもグライムという弱者男性が抱えているであろう、アメリカ社会に対する劣等感が端的に表現されていて、率直に言って非常に強烈に印象に残るシーンの1つだ。

真面目な人間が報われず、その真面目な人間に寄生することで恵まれた暮らしを謳歌しているホーマーのような無能の人、一見すると2000年代の日本における自己責任社会の中で貧民層や無職層に対する的外れで理不尽な苛立ちを彷彿とさせる気もするのだが、案外そうした思想が日本で歪に広がったのも、中間層からの苛立ちというよりも、グライムのような微妙に苦しい生活を強いられる準貧困層層の不満が、歪に経済弱者に向けられた結果でもあるのかもしれないと思うと、単に自分の邪推ではあるのだが、割と恐怖に感じるシーンでもある。

少し脱線してしまったので話を戻そう。上記のシーンでは、ホーマー・シンプソンという「学も技術もない素朴なアメリカ人」が圧倒的な社会的勝者として結果的に描かれてしまっている点で、米国経済や社会の歪みというのを端的に描いているのかもしれないし、彼らの住むスプリングフィールドという町の抱える歪みを皮肉る形で、単にグライムの苛立ちを増幅させるための演出にすぎないのかもしれないのだろうが、いずれにせよ強烈に印象に残るシーンではある。

「俺に残っているのは、この髪型とブリーフケースだけだ」というのも、自身の哀愁と諦めを象徴しているようで、最早なんと声をかけていいのか分からないほどに気の毒に感じてしまう。ちなみに、「上も下もボーリング場(の中で生活している)」というグライムの印象的なセリフは、本当にボーリング場のある施設に生活を余儀なくされているというわけではなく、恐らく幻聴か騒音への過剰なストレス反応が原因と思われる、不眠症の暗喩なのかもしれない。

後に、グライムはホーマーを騙して児童向けの「未来の原発模型コンテスト」への参加を促し、本選会場で「ホーマーが子供向けのコンテストに参加してるぞ!バカだろアイツ!」と復讐心に溢れる冷笑を全社員の前で展開するのだけれど、何故だかホーマーのポンコツな作品(小学生の工作よりも酷い完成度の模型…個人的には好き/笑)が、社長で審査委員長のバーンズにお墨付きをもらい最優秀賞を受賞し、しかもその姿をほぼ全社員から賞賛されている光景を目の当たりにして、グライムが「お前らおかしすぎる!」と完全に自我を崩壊させてしまい、「僕は怠け者のホーマーシンプソン!」と言いながら奇行を繰り返しはじめ、高圧電流に「僕はホーマーだから大丈夫」と素手で触れて感電死してしまうのだが…

もはや、後味が悪いというより、それでこそ触れる前のシーンでホーマーも含めて「これは、関わっちゃいけない人だ」的な視線で、彼の最期を見つめる社員たちの姿が、非常に強烈なんだよね…憐みと本質的に関わったらいけないっていう警戒心が入り混じる感じで。

そうした常軌を逸する奇行に走りながら、自らを「怠け者のホーマーシンプソン」だと施設内で叫びまわるシーンは、恐らくホーマーをいつまでもダメ社員だと認識することのない社会に対する渾身の主張であり、あるいは復讐でもあるのだろうが、その結末が自らの中に生まれたホーマー・シンプソンを、自らの肉体と共に感電死させる形で殺害するようなシーンへと繋がっていく感じも非常に救いようがなく悲しい。

グライムのエピソードに関する現地側の解説として、こちらのリンク先が参考になると思うので、ぜひご覧いただければと思う。

フォード主義という単語も初めて知ったので勉強になるが、上記で開設されてることって要するに…新自由主義とか自己責任社会の不安定さを描いている、ということなのだと思うけど、個人的には「愛国を唱えながら弱者に排斥的なナショナリズムを唱える何か」とか、「平和や戦争反対を唱えながら、異なる概念に対する寛容的態度を許さない好戦的な反戦主義のような何か」のような、何かゆがみを持った社会や思想の中で精神を疲弊してしまう人間の末路というか、そういう部分も描いているのかなと邪推している。

とにかく、グライムに自身を投影することで何度も反復してしまうような不思議な引力を持っていると思うし、何度も見てしまう魅力がある。

本編はDisney+でご覧いただけるので、そちらをご参照頂ければ幸いです。



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