襲名について【無料】

襲名問題というと、「三遊亭円生襲名問題」「七代目笑福亭松鶴襲名問題」など、東西よく揉めてるイメージがありますが、、、
襲名トラブルは「誰が継ぐか」問題「作法や行儀間違い」問題の2つがあります。
世間の話題にのぼるのは「誰が継ぐか」問題です。
これは東西起こりうる問題ですが、「作法や行儀悪い」問題は東京ではなく、大阪の方が起きやすいイメージがありました。
(→落語ファンでも知らない話題で、ゴシップに疎い噺家も知らない話題です。)

最近、大阪でもこの「作法」問題が減った感じがします。
ということで、本日の記事は、

・なぜ襲名の作法問題が大阪で起きやすく、それがなぜ近年減ったのか?
・襲名問題が起きる原因=「名跡の所有権」の東西比較

についてです。

東京は慣習が仕上がってる

東京は寄席の歴史が長く、真打披露興行や襲名披露興行などで「噺家がどのようにするのか」という行儀作法やルールがシステム化されています。
つまり襲名する本人に対し、古い師匠方や協会が万全のサポートをしてくれます。ですので、襲名する本人が、襲名の作法や御流儀のことで、そんなに揉めなくて良いようです。

しかし、大阪は近年まで「襲名」などは滅多に行われていませんでした。
そうなると、誰も「作法や行儀」など知らないのです。
もっと単純に言えば「共通の作法など無い」と言えます。そうなると、古い師匠方ですら手探りになります。

すると、噺家全員が自分の思う「社会通念に則った常識」に照らし合わせて行動し、判断します。「襲名する側」は、礼節を持って行動しなれければならないと言うルールですが、周囲の人間(特に先輩)は、ちょっとしたミスで「無礼者!」「行儀がなってない!」という話になってしまいかねません(笑) 作法が無い状況においては、「無礼かどうか」は結局、受け手の気持ちですから。

だから大阪では襲名のたびに、襲名する本人は
周りから「アイツ、失礼やな!」とどっかから言われていました。
(かなり芸歴の古い人は当然、言われないでしょうが、結構な芸歴の人でも、大阪は更に古い人が怒ったりしていました・・・。)
※それを私の世代は見ていたので、「面倒臭いなぁ」としか思えなかったです。一時期、「襲名したら揉める」ぐらいのイメージがありました(笑)

しかし、大阪でもこの頃、襲名が増えてきて、なんとなく「一定のルール」を皆が共有しだしましたので、そういう話はあまり聞かなくなりました。
やっぱり「風習化」するって大事やなと思いました。

そういう意味で、大阪でも、最近は、「御流儀や作法」において、揉めることは減って来たように思います。

名跡の所有権

公に出て来る襲名問題の原因は、実は「名跡(名前)の所有権は誰にあるのか?」問題です。いわば、「誰が名跡の許可を持ってるのか」という話が根本原因であることが多いです。

もちろん、東京大阪ともに、特殊な例外が無い場合は、
名跡を持っている人間に所有権があります。

(その名前を名乗ってる人が「一代限り」などの約束を、前の所有者としていたら別です)

しかし、名跡を持つ本人が亡くなって、後継者指名をしていなかった場合、
誰が所有権を持つのかは、東西で微妙に違う感じがします。

大阪の場合、後任を指名していない場合は、「一門の持ち物」であり、その継承順は「昔の皇位継承権」みたいな感じであるようです。

東京の場合は、もう少し近代的で、遺族の持ち物=財産であると聞いたことがあります。ある意味、「名跡」とは、
遺族が名前によってお金をもらえる「遺産」だったりすると聞いたことがあります。
もちろん、その名前が「他の人が欲しい物かどうか」みたいな話なので、

それなりの価格が付く場合や、
遺族のご厚意で無料な場合や、
皆が欲しがり過ぎて、高額とかいう話でなく、逆に値段をつけられない場合

などがあったりするというのを聞きました。
(誰が持ってるか不明な場合は、一門やら協会やらの持ち物かもしれません・・・また東京の噺家さんに聞いたら訂正変更しておきます:東京の情報については少し正確さを欠きましてすいません)

【たまの総括】後継指名をしていない場合、
東京も大阪も「一門の持ちもの」であり、「遺族のもの」でもあるのですが、「所有権」と「仁義(義理)」の力点が東西で逆なのだと思います。
大阪は所有権が「一門」であり、仁義を通す相手が「遺族」です。東京は所有権が「遺族」であり、仁義を通す相手が「一門」みたいな感じでしょうか。だから、大阪で「菓子折り」はあっても「現金」は発生しにくいのだと思います。大阪は、あくまで「挨拶」にいくだけの話だと思うからです。

大阪の方が社会が小さく、東京の方が社会が大きいからかもしれません。
落語家の名跡は「落語界に取って良いものになるべき」という前提はありながら、小さい社会の大阪は「落語家でない人間が名跡の判断をするのは良くない」という無意識かもしれません。大きい社会の東京は「誰が名跡を継ごうが、継ぐことで落語界のためになっているので、それ以外は資本主義のルールで十分」という無意識かもしれません。

ここで、大阪の「昔の皇位継承権」と東京の「資本主義的所有権」でいくと、実は襲名活動として明快なのは東京の方だと思います。

「所有権」の方が、明確な決定権があります。
大阪は「昔の皇位継承権」と言いましたが、今の「明確なルールの皇位継承権」と違い、弟と子で争ったりと、どっちが継ぐか明確でない感じの「昔の皇位継承権」です。
(※壬申の乱で天智天皇の子と弟が争うみたいな感じの「誰が継ぐべきか」問題が発生してしまいます)

実際、後継指名がない場合、大阪では、名跡の継承権は、
「1番弟子」なのか、「師匠の実子」なのか、明確なルールはないです。

東京の場合は、実子であれ、何番弟子であれ、「所有権者(例えば遺族)が認定して決める」というルールが存在します
しかし、大阪は「誰が所有権者か不明」なのです。なんとなく「漠然とした人(集団・まわり)が持っているので、雰囲気が重要です(笑)
ですから、「実子か1番弟子かは雰囲気」になるでしょう。

この何となくのルールを踏まえると、世間を騒がした「襲名問題がなぜ起きたのか」も一層わかりやすいのかもしれません。
結局「所有権者が誰か不明になった」時に一番揉めるという事だと思います。

具体的な話については、私の落語会のパンフで書くかもしれません・・・。
ここで挙げるのは難しいです(笑)


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