病の皇帝 「がん」に挑む を読んで
シッダールタ•ムカジー著、病の皇帝「がん」に挑む、を読んだ。
読み始める前の感想は「NHKスペシャル」みたいなタイトルだな。
読み終わったときの感想は「全て日本人が読むべき本だ」だった。
全ての日本人というと大袈裟に見えるが、日本人の2人に1人が人生のどこかで退治する病についての本を全ての人に勧めるのは大袈裟なことではないと思う。
この本の構成は、史上初めてがんと思われる記録から始まり現代のがん治療の状況と今後の展望を書く一方で、実際に著者が体験したがん治療の実践的研修のエピソードを盛り込んだ形になっている。
それぞれが現代から俯瞰した「がん」の遠景とリアルながん治療の様子を描いていてそれぞれがバランス良く組み合わされることで「がん」をより深く理解できるように感じた。
別の言い方をすると、社会と研究医にとっての癌と、患者と臨床医にとっての癌が描かれている。
歴史を描くパートでは、癌という病気が如何に謎に包まれているか、どれほど多様か、敵を知らないまま行われた治療プロトコルなどが描かれている。その歴史の殆どで人類は癌に屈しているが、終盤は希望を抱ける内容となっており読後感はそこまで悪くない。
そして、本書最大の特徴は随所に見られる文学的な表現だ。
いくつか抜粋すると
音楽はしだいに速くなり、やがては破壊的なリズムになる。圧倒的なまでの多様性の下には、深い遺伝学的な統一性がある。
死そのものよりも死にかけている状態のほうがその病をより強く印象づける。
あらゆる実験が過去の実験との会話であり、あらゆる新説が古い説の反証だ。
この本、のタイトル。病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦悩、というタイトルは間違ってはいないがもっと文学的なタイトルの方がふさわしかったように思える。
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