小論文の基本戦略

主に大学受験を想定した小論文における基本戦略について


◆小論文の目的

国語科における作文=「感想文」
情操的文学教育>論理的言語教育
戦後イデオロギーの内面化を重視

「感想文」→同質的な価値観を想定した、主観的文章
「小論文」→異質な他者の存在を前提とする、客観的文章

普通教育→権力に順応した「国民」の養育、「正しいこと」は教えられる
高等教育→専門性を備えたエリートの養成、「正しいこと」は見つけ出す

高等教育機関たる大学の入学者を選抜する上では、当然後者を目的とした資質が計られる
→(文章の読解力や表現力はもとより、)論理的思考力、「常識」を破壊するために必要な「教養」を身につけているか

これらの点において、高校以前の「感想文」とは対照的な能力が求められていることを強く意識せよ

◆採点の基準

記述試験の採点は基本的にブラックボックス
小論文に関しては特に、採点官によって評価にばらつきがある
→すべての(知的研鑽を積んだ)人に対して説得力を持つ文章を書く必要がある

例えば以下のような評価項目が想定される

○形式性:
日本語としてまともな書き言葉が使えているか
てにをはや接続詞など、適切な語彙を選択できているか
誤字脱字など、つまらないことで減点されないように
ここで失点を重ねると、普通教育の段階で何らかの障害があったかのように見え、相当印象が悪い

○忠実性:
題意を正確に理解し、その規定を守れているか
課題文が提示される問題では、読解力が試されることになる
出題意図を見極め、誠実な解答を心がけること

○論理性:
具体的根拠をもとに論理的な主張が展開できているか
問題に対する分析力や思考力も試される
論理的と言っても、極論を押し通すような文章は求められていない
「何を考えているか」が明確でありさえすれば、結論は穏当で良い

○独自性:
自身の言葉で主題を表現し、新たな観点から問題を捉えられているか
普通教育の過程ではしばしば抑圧されるが、高等教育においては肯定的に評価される
その場の思いつきで奇を衒っても通用しないので、事前準備が肝要
他の項目が伴っていないと、ただのバカに見えがち
題意に背かないように慎重にアピールしていこう

◆出題の形式

いかなる試験においても、過去問は最優先で確認せよ
志望する大学や学部により、出題傾向には大きな差異が存在する
当該学部のアドミッション・ポリシーなどが色濃く反映されるため、それを常に意識して対策すること
課題文・資料の有無により大きく2つに分類される

○テーマ型:
短文で与えられたテーマについて論述
自由度が高いため、事前準備によって差が生じやすい

○課題文型:
与えられた文章や資料に対する読解力や忠実性が評価に加わる
意見論述の前に要約問題が付属することが多い

◆問題の読解

問題の指示には最大限の注意を払い、忠実に従うこと
一部の受験生はこの段階で既に誤読を犯すのが現実だろうが、大学で学ぶ上で致命的な能力不足であり、容赦なく門前払いを食らうだろう
とりわけ要求字数などの規定を満たしていない場合、採点すらされない可能性を覚悟すること

課題文型の出題の場合、その正確な読解は生命線
焦らずじっくり、制限時間の三分の一までは時間をかけて良い
多くの場合小問として要約問題が課されるが、その指示がなくても答案の冒頭で筆者の主張を整理すること
一つの課題文につき200字が目安、40字につき採点基準が1つあるつもりで書く
文章の要約は勉強方法としても効果的なので、現代文の対策も兼ねて普段から添削を受けると良い

◆全体の構成

絵画の素描と同じく、まずは全体の構成を検討する
いくつか型が考えられ、この選択が評価に直結するわけではないものの、書きやすさは影響を受ける
各部分について大まかな字数配分の目安を意識すると良い


○結論先行型:
結論
本論

論文における基本形
言いたいことを先に書いてしまえば、その後の展開もブレにくい
直接的に賛否を問われている場合など、明確な結論が要求される場合はこれが書きやすい

○序破急型:
序(問題の要約):20%
破(具体例の提示と接続):70%
急(結論の提示):10%

メリハリのある文章をつくりやすく、本論の構成として推奨できる
先に具体例から書き始めても読み応えは出るが、あまり凝りすぎて随筆風にならないように


○起承転結型:
起(問題の設定):20%
承(現状の整理、想定される一般論):20%
転(具体例、別視点の導入と分析):50%
結(結論の提示):10%

作文教育で馴染み深い型
本来は漢詩の方法論で、小論文の構成としては「全体を4分割する」以上の意味はない
テーマ型の出題に多いが、自ら問題を設定する必要がある場合はこういう書き方になるだろう

◆具体例の選定

実質的に、解答作成の根幹と考えて良い

一切の例外なく、主張には具体的根拠を付与すること
採点官が知りたいのは、受験者が「自分の頭で考えているか」=「自分の言葉で文章を書いているか」
具体例として固有の経験を記述することで、自動的に「自分の言葉」が手に入る
これまで自分が得た知識や経験を総動員し、最も主題に適合する具体例を選定せよ

具体例を選定した段階で、それを根拠とする主張の内容もほぼ確定する
本番ではその後に考えるべきことはあまりなく、つまり思考時間の大半がこのプロセスに注がれることになるだろう

ある事柄に対し例を示すということは、両者の間に共通の構造や性質を見出すということ
つまり、与えられた問題と持ち合わせの経験とを抽象化し、合致させなければならない
→これは「考える」という行為に他ならない

具体例はあくまで問題に即したものでなければならず、これを外すと大幅減点となる
提示した具体例のどこがどのように問題に接続しているのか、丁寧に説明を加えること
説明を効果的にするために、事実に対し都合の良い改変や脚色を施すことは(バレない限り)一向に構わない

試験対策の上で非常に重要なことだが、具体例は事前に作り込むことが可能である
各問題は、背後において問題意識や世界観を共有していることが多い(どれも別個に見える場合、思考の蓄積が足りていない)
そのようなレベルにまで抽象化した主題と関連付けておけば、ある具体例を異なる問題に適合させることは難しくない
メインの論拠に使うような長いバージョンから、一文で言及したい時用の短いバージョンなど、複数のパターンを持っておくとなお良い
一定の字数を事前準備によって埋めておくことは、精神的にも大きな安心感を得られる
少なくない受験生がその場の思いつきを書き殴る中で、推敲を重ねた文章を記述できるアドバンテージは計り知れない

具体例の準備とは、単なる面白ネタの収集ということではなく、それに対する分析や知見の獲得を含む
具体例そのものについてはオリジナリティを存分に発揮して良いが、分析部分は専門家の受け売りで良い
下手に自分で考えても、間違っていることか当たり前のことしか言えない
彼らの言葉を何も見ずに、「自分の言葉」で再現できるようにしておくこと

◆学習の方針

志願先の過去問に最優先で着手する
最新の赤本以外にもできる範囲で入手経路を当たること
最初は歯が立たなくて当たり前、本番まで答案を練り続ける

余力があれば傾向の近い他大学の問題にも挑戦しよう
領域が離れると参考にならないので、近接する学部に限定して解く

作成した答案は必ず信頼できる指導者による評価を受け、書き直しを行うこと
解答時間を気にするのは直前期のみで良い
解答字数は1000字程度を要求されることが多い
各問題には少なくともこれを「長い」と感じることがなくなるまで向き合うこと
一つの問題に1~2週間ぐらいかけるつもりで良い

志願先の研究は必須
→入学案内などを熟読し、大学が求める人物像を内面化せよ

各学問には固有の問題意識や方法論が存在
→大学一年生向けの入門書などに目を通し、そのスタンスを理解すること

教授陣の研究領域まで意識できれば立派だが、自力でできるなら受験ごときに悩まない
→できる人に恵まれたら情報収集しておこう

問題に取り組むのと平行して、使い回すための具体例を作り込む
新書などで十分なので出題に関連した文献にあたってみよう
読むべき本は指導者に推薦してもらうのが良い
自分で選ぶ場合は末尾に「参考文献」が書いてあるものにすること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?