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「いま、商業空間づくりで、どんなことがテーマになっているのですか?」 その1


いつもご愛読いただき、どうもありがとうございます。

このnoteを読んでくださっているあなた。
あなたは、インテリアデザイナーさんでしょうか。
おそらく、インテリアデザイナーや建築家といった、設計業務にたずさわる方々ではないでしょうか。
 
「いま、商業空間づくりで、どんなことがテーマになっているのですか?」クライアントから、打ち合わせや雑談の中で突然そう聞かれて、あなたは即答できますか。
「できる!」と答えたあなた。このnoteを読む必要はありません。

「即答できないなあ」「ちょっと考え込んでしまうなあ」と答えた方だけ、お読みください。



私たち編集部は、日々の取材活動を通して設計者、店舗オーナー、ディベロッパーなどの皆さんとお会いします。
「いま、商業空間づくりで、どんなことがテーマになっているのですか」と聞かれます。わりと頻繁に。
それに対して、いくつかの答え方があります。
最近だと、7パターンくらいの答え方があります。
その中から、お相手の求めていそうなお答えを返します。

とはいえ、短い雑談の中でそれを丁寧にお話しするのは難しい。
ましてや、7パターン全部をお話する時間はない。
それならば、全部このnoteに書いておこう。いつでも参照していただけるようにしよう。
そう考えました。
 
というわけで、これから何度かに渡り、連続でブログを書いてみようと思います。
切り口は、「最近の店舗インテリアデザインにおけるテーマ」
お時間とご興味あれば、お付き合いください。
10〜15分くらいで読めます。


第1回のテーマは、【デジタルテクノロジーと人間の居場所】


第1回のテーマは、【デジタルテクノロジーと人間の居場所】です。
「最近の店舗インテリアデザインにおけるテーマ」として、まず挙げられるのが、「デジタルテクノロジーと人間の居場所」です。
 
結論から先に言ってしまいます。
非常にざっくり言いますと、毎日の取材を通して、以下のような印象を持っています。

●デジタルテクノロジーは、今後、ますます店舗に採り入れられていく。
●ECサイトもますます当たり前に使われるようになっていく。
●つまり、接客や店舗は、部分的には不要になっていく。
●けれど、コミュニケーションは、人間でないとできない仕事として残る。
●結果的に、店舗という空間は、〈公園+ショールーム+コンシェルジュカウンター〉のような存在になっていく。


以上です。
いくつか具体例を挙げてみましょう。

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具体例1。
JR京浜東北線および山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」に行ってきました。
駅構内に、無人AI決済システムを採用したコンビニ「TOUCH TO GO」があります。
https://ttg.co.jp/
客が入店して、適当に商品を手にとって、レジへ向かうと、レジのマシンは、その人がどの商品を手にしたかを正確に把握しています。あとは、SUICAをタッチして会計終了。
天井と棚に設置されている無数のカメラによって、誰がどの商品を棚から取ったかを検知しています。
初めて来店した人は少々戸惑うかもしれませんが、慣れてしまえば、スピーディーで、とても快適でしょう。
「省人化」を目指したこの店舗は、人口減時代の日本において大きな参考になりそうです。
「TOUCH TO GO」を開発した、JR東日本の関連会社は、この運営システム自体を販売することも視野に入れており、こうした店舗が全国に広がる可能性があります。
詳細は、「商店建築 2020年1月号 P.81」をご覧ください。

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具体例2。
先日、渋谷に誕生した「ミヤシタパーク」へ行ってきました。
ミヤシタパークの一角に、ホテル「シークエンス」があります。
三井不動産が展開する、新ブランドのホテルです。泊まってみました。
ここでは、宿泊客が、ロビーのカウンターに設置されたタブレットでチェックインの作業をします。チェックアウトも、客室のタブレットでできます。
つまり、客は、ホテルのスタッフと会話をする必要がありません。
では、このサービスは非人間的なのか。
いえ、むしろ、逆です。
予測可能な規格化されたやりとりをタブレットに任せたことによって、面白いことに、客とホテルスタッフとの会話は、必然的に、人間味のあるものになっています。なぜかというと、この空間では、「スタッフは、予定調和的なコミュニケーション以外のことをするために存在している」という雰囲気が生まれているからです。同時に、スタッフが、人間的なコミュニケーションをしようという意志を持って運営を行っているという点も、重要です。
さらに、ロビーラウンジやカフェにたくさんの「座る場所=居場所」があり、室内なのに、まるで公園のような自由な雰囲気が醸し出されています。


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具体例3。
原宿にある、カフェ&コミュニケーションスペース「ドットコムスペース(dotcom space)」
ここには、バリスタの淹れ方を再現する自動のコーヒードリップマシンがカウンターに備え付けられています。
ならば、人間のスタッフは必要なくなるのか。
いえ、むしろ、スタッフは、客とのコミュニケーションにより時間を割くことができるようになります。
このスペースは、クリエーターのためのサロンという要素を持っています。コミュニケーションのための場所なのです。
詳細は、
商店建築 2020年1月号 P.73」と
商店建築 2020年6月号 P.121」
をご覧ください。


その他にも、先日、3Dスキャンで体のサイズを採寸する無人アパレルショップにも出会いました。
その他にも多くの事例があります。
こんなふうに、デジタルテクノロジーは、店舗設計の中にどんどん組み込まれていくようになりそうです。

では、AI(人工知能)に代表されるようなデジタルテクノロジーが店舗に入ってくると、人間は必要なくなるのか。
そうではありません。
むしろ、「人間の役割はコミュニケーションである」ということがはっきりとしてきます。
特に、予測不可能で、非予定調和的なコミュニケーションこそが、人間の担うべき仕事になってきます。
 

AIでは対応できな、予定調和的でないコミュニケーションが人間の仕事として残る、というあたりのことが書かれた面白い本を、2冊紹介します。

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『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著)。
AIは、計算機に過ぎない。
AIは、「意味」を理解しない。
ゆえに、シンギュラリティは到来しない。
そんな話が書かれています。
では、AIに取って代われれることなく、人間にしかできない仕事として残るのは、どんな仕事か。
「高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野」と、著者は言います。

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もう1冊が、『動物と機械から離れて: AIが変える世界と人間の未来』(菅付雅信著)。
著者は、世界中のAIに関する研究者、技術者、起業家を訪ねてまわりました。
この本は、その記録です。
人間のような思考やコミュニケーションをするAIをつくるために、開発者たちはどんな壁に直面しているか。
「自律性」「世界観」「倫理観」「常識」「想像力」「数少ない事例から学習し、一般化する能力」。
そうした力をAIに持たせることは、非常に難しいようです。
つまり、現時点では、それらは、人間にしかできない。
そんなことが、この本から浮かび上がってきます。



はい、ここで、ちょっとまとめます。
店舗にデジタルテクノロジーが導入されると、店は、よりいっそう人間的なコミュニケーションの場になる。
ここまでは、そんな話でした。


ちょっとドリンク飲みつつ小休止してくださいね。

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店舗には「人間の居場所」が重要です


はい、ここから、後半です。
後半は、店舗には「人間の居場所」が重要ですよ、という話です。

前半のデジタルテクノロジーに関する話は、主に店内の運営に関する話でした。
デジタルテクノロジーに関して、もう一つ大きなトピックがあります。
ECサイトです。
ネットで買い物をするっていう話ですね。
皆さん、新型コロナウイルスの感染拡大によるステイホーム期間中に、ネットショッピングをする機会が増えていませんか?
例えば、
「いつもより高額な商品をネットで買ってしまった」
「いつも店頭で買っていたものを、ネットで買うようになった」
「今までネットショッピングをしていなかった高齢の両親が、ネットでものを買うようになった」
そんな経験、最近ありませんでしたか。

そんなふうに、ネットショッピングの利用が広がれば広がるほど、実店舗は、〈公園+ショールーム+コンシェルジュカウンター〉のような存在になっていくのではないか。
なぜなら、そうしないと、新規顧客が獲得できないから。
日々の取材の中で、この数年、そう感じています。

なぜ〈公園〉なのか。
ここで言う〈公園〉とは、誰でも気軽に入ることのできる気持ち良い場所、という意味合いです。
人は、ネットで商品を購入する場合、おそらく、いつも使っている馴染みのブランドや商品を購入するでしょう。とすると、例えば、ネットで商品を買っている間は、ブランドAの化粧品を使っていた女性がブランドBの化粧品に乗り換えるということは起こりにくい。
新しいブランドや商品に乗り換える際には、実際にブランドの世界観や商品の特性をリアル店舗で体感して、納得してから、乗り換えたい。
そうなると、店舗は、そのブランドや商品に興味のない人がつい入店してしまうような、「誰でも気軽に入ることのできる気持ち良い公園」のような場所でないといけない。
さらに、できれば、店内に、商品を購入すること以外の目的をたくさん仕掛けておいたほうがいい。例えば、コーヒーカウンター、ジュースカウンター、Wi-Fi、ベンチ、充電用コンセント、アート展示などなど。

なぜ〈コンシェルジュカウンター〉なのか。
化粧品にせよ、家電にせよ、洋服にせよ、現代の日本で流通している商品って、総じて高品質ですよね。
だから、極端に言えば、どれを買っても、十分に良い。
どれでもいい、というわけですね。
しかも、商品の種類も情報量も、過剰なほど多い。
となると、わかっている人に、比較して整理してもらわないと、もはや何を買えばよいのかわからない。
特に、高価なもの(高級家電、腕時計、革製品、自動車など)は、情報整理して納得して買いたい。
というわけで、店には、コンシェルジュ機能が必要になります。
 
なぜ〈ショールーム〉なのか。
これは、説明するまでもありませんね。
ネットで買えばよいので、店舗では商品を確認して体感するだけでよいからですね。



そんなわけで、新規顧客を獲得するためには、とにかく、そのブランドや商品に興味のない人や、それらを知らなかった人にこそ入ってもらう必要がある。
だから、店舗は、「この店に入ったら、何か買わされそう、、、」という圧力をできる限り消して、誰もが気軽に入れる場所になっていく必要があります。

そんな、〈公園+ショールーム+コンシェルジュカウンター〉型の店舗は、この1年くらいで、一気に増えつつあるという印象です。

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中でも、非常に秀逸な例の一つが、表参道にオープンした、スキンケアブランド「ORBIS」の店舗↑です。
街路から店舗を覗いても、あまり商品が置かれていないので、「買わなくちゃ」というプレッシャーがない。
店内にジュースカウンターやベンチがあるので、入店しやすい。
商品よりも先に、ブランドの世界観を伝える空間デザインになっている。
タブレットが、その日の体調に合わせたジュースを選んでくれたり、エンターテインメント要素も豊富。
2階には、自由に過ごせるラウンジや、イベントスペースがあります。
そして、もし商品を購入しようと思えば、実は、店内のあまり目立たないスペースに、しっかりと見やすく商品が置かれています。
そして、客が商品に興味を持てば、実際に商品を使ってみたり、施術をしてもらえる場所も用意されている。
つまり、「売ること」よりも、「伝えること」「体感してもらうこと」を前面に出した、現代のニーズに合致した秀逸な店舗と言えます。
詳細は、後日、誌面でも深く取材する予定です。



ちなみに、なぜ、いま、店舗や商業施設が「人間のための居場所」という性質を持った空間になっているのか。
その理由や背景は、本日書いたように、数年の短いスパンの話としても考えることができますが、同時に、100年くらいの長いスパンで考えるべき大きな話でもあります。
おそらくキーワードは、「近代合理主義」「システム化(「マクドナルド化」と言ってもよい)」です。
それについては、長くなるので、また別の機会にお話しましょう。



最後に、本日のテーマ、【デジタルテクノロジーと人間の居場所】に関する関連資料を簡単に紹介して終わります。




「デジタルテクノロジー」「居場所」「コミュニケーション空間」に関する話題を一冊に詰め込んだのが、「商店建築 2020年1月号」です。

●商店建築 2020年1月号
 新年特別企画/デジタルテクノロジーは商空間デザインを変えるか
 業種特集/人が集まる「居場所」としての複合書店&映画館
 特集/これからは「コミュニケーション空間」の時代


「人間のための居場所」という観点からの資料は、
「商店建築 2020年2月号」掲載の「クルックフィールズ」
「商店建築 2020年3月号」掲載の「渋谷パルコ」「ジャイルフード
が必見です。

●商店建築 2020年2月号
 渋谷スクランブルスクエア
 新港ふ頭客船ターミナル 横浜ハンマーヘッド
 クルックフィールズ ほか
●商店建築 2020年3月号
 渋谷パルコ
 ジャイルフード
 マテリアル大特集 ほか



以上です。
お忙しい中、最後までお読みいただき、どうもありがとうございました!
またお会いしましょう。〈塩田〉



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