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連載/デザインの根っこVol.07_松井 亮

 建築家やインテリアデザイナーにインタビューを行い、衝撃を受けた作品などのインプットについて語っていただく連載「デザインの根っこ 」。今回は「商店建築」2018年12月号掲載、松井亮さんの回を公開します。

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価値観を更新し続けることで建物が生き続ける

 感銘を受けたものはいくつかあります。思い出したのは、大学院生の時に研究のために訪れたニューヨーク・ブルックリンの光景です。都市の変容を扱った論文のテーマは「ジェントリフィケーション」。色々な都市を調べ、ブルックリンには3週間滞在しました。ブルックリンのダンボやウィリアムズバーグは、若いアーティストが多く集まる地区で、その頃は有名なギャラリーが移転してきて2、3年が経ったくらい。今振り返っても、非常に活気のある時期だったと思います。

 もともとブルックリンは船着き場として栄えた場所でしたが、次第に活力を失い、空洞化が目立つようになります。そこに集まるようになったのが若いアーティスト達で、彼らにとってその地は家賃が安く、大型の倉庫など作品発表の場にも恵まれた場所と映ったのです。その結果、ダンボやウィリアムズバーグはアートの街として活力を取り戻しました。

 都市の開発にはさまざまなものがありますが、ここで起こったのは個の力が集まったことによるもの。地価を上げて利益を生むことが目的ではなく、アーティストのアイデンティティーが先に立つことで、均衡ある街になっていた。大規模な再開発があっても、その魅力が残る仕掛けが必要だと感じました。

 魅力的な街はリノベーションが重要な役割を果たしていると思います。存在し続けたものにある価値を見つけ、新しい価値観を加えることで良い建物は生き続けます。ブルックリンの場合はアーティストがそう意図したというよりも、お金がない中で彼らの工夫や感性、あるいは美意識によって、結果的にそういった循環が生まれていました。古い街にアーティストの若いエネルギーが満ちていて、しかもその光景がマンハッタンという超都心に隣接しながら存在していることに刺激を受けました。

ブルックリンの風景

コントロールしきれないものを取り込んだデザイン

 もう一つが、高校生の頃に見た、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の「Metamorphosis(メタモルフォーシス)」です。94-95年の秋冬コレクションで発表されたシリーズで、縮絨加工を初めて用いたものです。それまでになかったクシャクシャとした生地が特徴的です。それまで私は、服のデザインとは美しいパターンやシルエットをつくることだと考えていました。ところが、ここで取り組まれていたのは生地そのものをデザインすること。パターンでも、シルエットでも、色合いでもなく、人がコントロールしきれないものを取り込んで、服のデザインの根本を変えていることに感銘を受けました。

「Metamorphosis」/1994 A/W COMME des GARÇONS

「実現したいこと」のための表現

 高校らしく、ファッションからデザインに惹かれていき、そこから徐々にスケールが大きくなり、デザインや建築を学ぶようになるのですが。幼少の頃に絵を描く時にも、アクリル絵の具に砂を混ぜたり、異なる素材を組み合わせたりして、その創作物にあった表現ができないかと遊んでいました。そんな素材へのこだわりは今でも持ち続けています。その点で学生の頃から関心を持っているのが、建築家レム・コールハースの作品。構成に目がいってしまいがちですが、彼は構成と同じくらい素材を重視しています。構成に意味を持たせる素材の操作に注力しているのだと思います。

 「実現したいこと」があって、結果として、価値ある表現が生まれる。そこに引かれるのです。      〈談/文責編集部〉

まつい・りょう/1977年滋賀県生まれ。2004年に東京藝術大学大学院修士課程を修了し、松井亮建築都市設計事務所を設立。建築やインテリア、舞台美術、インスタレーションなど活動領域は多岐にわたる。最近の仕事に「ダイヤモンド・リアルティ・マネジメント」(18年10月号)や「中国料理 彩」(18年4月号)など。
※内容は商店建築2018年12月号発売当時のものです。

紹介作品一覧

1.ブルックリンの風景
2.『Metamorphosis』
1994 A/W COMME des GARÇONS

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