「僕は何に挑むべきか?」に対する9年越しの僕なりの答え
はじめまして、田代翔太と申します。
9月末に、丸9年お世話になった政府系金融機関を退職し、10月から会社の立ち上げに勤しんでおります。
何をやろうとしているの?なんで会社つくってるの?等、質問を頂くことが増えてきたので、質問にお答えをする意味でも、会社員から事業家・起業家としてギアを変える意味でも、まずは筆を執ってみました。
今回はとても長い自分語りになってしまいましたが、今後の投稿では、金融や規制、関連テクノロジーに関して、書きたいこと・書くべきと思ったことを投稿していきたいと思っています。
何をやろうとしているのか?
「金融機関の規制対応業務をシンプルにするサービス」
の開発を行っています。
なんだか難しそうだぞ?というご感想は、大変正しく、向き合うほどに、現状ではシステムだけで全ての解決が図れる領域ではないことを感じています。
弊社では、専門人材の能力と掛け合わせ、「改善され続けるシステム」+「専門人材のマニュアル作業」によるサービスを金融機関向けに提供することで、スピード、正確性、コスト、何れの面でも大きなメリットを生み出すことを目指しています。
具体的には、自分に経験がある分野の法人向けのKYC(Know Your Customer:顧客確認)に取り組んでいます。
読んで頂いている皆様も、銀行・証券会社の口座開設や、クレジットカードを作るときに色々申告をしたり、本人確認書類の提出をされたことがあるのではないかなと思います。
これは、各種の規制で、サービス利用者の確認をしなければならないからです。
金融機関側も好きで手間をかけさせている訳ではありませんので、次からは、そんなに嫌な顔しないで上げてくださいね。
個人であれば、確認すべき相手は、当然、貴方だけですよね。確認すべきことは貴方が、何者か。ということになります。
法人の場合はそれだけではありません。経営者が変わることもありますし、商売・商材だって変わることがあります。商号も住所も変わります。大株主など(実質的支配者と呼んだりします)も変わります。
規制上、確認すべき項目が多岐に渡るのです。なんだか面倒くさそうなことは想像して頂けるのではないでしょうか。
今までの法人の取引は基本的に対面で、継続的にお客さんと会う事を前提としており、会社を良く知る担当者がいて、数も限られていることが殆どでした。
なので、マニュアル作業(手作業)が多かったのですが、商売のWeb化が顕著な世の中で、そして10年リモートで働く環境が前倒しになったと言われる世の中で、法人向け金融サービスもWebで提供されることが格段に増えました。
Web上でサービスを提供できるということは、スケールを追える(追わなくてはならない)訳ですが、ここで課題となるのは、スケールする中でも、お客様を正しく知るという規制要件を満たすこと(法人のKYC)になります。
この課題に対して、法人KYCのプロセスの多くの部分(調査・ヒアリング・モニタリング)を負担させて頂き、金融機関のお客様及び担当者の作業負担を改善するサービスの提供を目指しています。
政府系金融機関への入行
何故やろうと思ったのか?の前に、9年前に何で政府系金融機関に入ったのか?というお話が出来ればと思います(事前に長くなることを謝っておきます)。
僕は、2011年10月に法人向けの各種サービス(投資・融資・アドバイザリー)を行う政府系金融機関に入行しています。
入行する前の大学時代を通じて、日本や世界のためにという面白い議論をするカッコいい先輩や、こいつスゴイなーという能力を持つ同級生と出会う度、いずれ起業をするという話を当たり前のように聞いていました。
なので、私自身も社会人になって数年したら起業するぞ!と思うようになっており(←とても安直)、その前に留学しておきたい!ということで、大学の最終学年をオランダで過ごしました。
海外で勉強をしながら、あまり就職活動できない中で、フォーラムなどで内定をもらった中から、起業に近づけそうな就職先を一つに絞ろうなどと考えていた甘っちょろい学生でした。
起業のための長期プランを考えると称して、様々な国の留学先の友人から情報を仕入れたり(仕入れなかったり)して、大学生活の最後をふらふら楽しんでいました。
ただ、ひとつ、ふらふらしながらも、起業家を目指すなら答えなきゃいけない質問があることは知ってたので、頭をぐるぐるしていました。
「僕は何に挑むべきか?」
そんな中、3月11日に日本から電話がかかってきます。地震があったと言っています。
オランダは早朝で、前夜にはスコットランド人と学生向けのパブでしこたま飲んでいた私は、何でこんな時間に電話がかかってくるんだと、電話をかけてくれた当時の友人に怒ってしまったことを覚えています。地震くらい、いつも日本ではあるだろうと思っていたので。
「いいからテレビをつけて見ろ」と言われ、タダで貰ってきた辛うじて使えるブラウン管のテレビをつけました。そこでは、CNNのキャスターがまるで他人事のように、遠く離れた島国の大きな受難を伝えています。
僕にとっては完全に自分事でした。宮城に祖父の家もありました。東北大学に進学した友人も大勢いました(家族や友人は本当に幸いなことにみんな無事でした)。
寮に日本人は僕しかいなかったので、僕の部屋には入れ替わり立ち代わり、色んな人が心配そうにやってきました。
その日、僕はずっとテレビを見ながら、繋がらない国際電話をかけていました(少なくとも家族はTwitterをやっていませんでした)。
その時、僕は日本人であるという意識と、日本の為に何かしたいという感情が自分の中でこんなに大きいことに初めて気付きました。
そして、帰国後は内定先の中から、震災復興に向けてメッセージを打ち出している政府金融機関にお世話になることを決めたのでした。
メッセージにとても共感したし、自分も何か日本の力になりたい。そのための知識や能力が欲しいと思ったのです。
それが、僕のキャリアの振り出しです。
起業への想いはその後も常にあったのですが、
あの質問は暫く、僕の中で答えを待つことになりました。
金融実務と9年越しの質問
勤め始めてからは、本当に様々な経験をさせて頂きました(詳細は別の機会に)。
ざっくりまとめると、震災復興を裏側で支えるような業務、海外の先進的な運用手法を学べる業務、投資の最前線で経営者と膝詰めで議論する業務、企画を作って子会社を設立する業務など、自分が希望した仕事を一通りやってきました。
想像よりも面白くて、すっかり目の前の実務に夢中になっていました。また、一緒に働く人達に恵まれたことが最大の理由ではありますが、金融業がとても好きになっていました。
金融業が好きになった理由は大きく2つかなと整理しています。
①お金の流れの中で情報が集まり、新たな知見に触れられる仕事であること
②経営者の人と直接お会いして、事業に共感し、支えられる仕事であること
そんな僕の転機は2017年頃にやってきます。同期入行の友人と趣味的に活動していたプロジェクトが転がっていき、会社の中で若手に新規事業を任せようという行内の機運も相まって、頂いた裁量の中で自分たちの事業を運営できることになったのです。
僕たちは、次なる成長機会を探す中堅・大企業(特に地域の有力起業)向けに、スタートアップの方との協業をサポートするコンサルティング事業をはじめます。
金融が必要になる前の事業開発のところから、金融に至るまでの道を伴走したいという想いからでした。
大変なことも多かったのですが、本当に多くの方に支えられて、大切なお客様と出会い、一定の実績を出すことができました。
この事業運営では、必然、新しい技術やビジネスモデルの情報にキャッチアップすることが求められますし、日本や世界のためにという面白い議論をするスタートアップの経営者や、この方はスゴイと尊敬できる事業会社の方とご一緒できることになりました。
すると、大学時代から持っていた起業をしたい!という想いが抑え切れなくなっていき、9年前に棚上げになっていた質問が、いよいよ頭を離れなくなります。
「僕は何に挑むべきか?」
規制対応業務における発見
僕は、入行以来目の前の業務に向き合ってきたわけですが、初めて本気で起業のテーマを探し始めます。
金融がその中心に来ることは決まっていたので、技術関連の記事や、海外のフィンテック企業などに目を向けながら、50本くらいの新規事業案を考えました。
ただ、ピッチの場やインタビューで語られるビジネスはとてもキラキラしていて(〇億人の金融体験を変えるとか、〇千万人の決済データを活用しての○○とか)、自分がやってきたこと(法人向けの金融、営業)やキャラクターに合わないんだよなーという日々が続き、半年くらい悶々としていました。
他方、新規事業として立ち上がったコンサルティング事業でしたが、組織力を生かした展開をするため、現場の担当を持つ若手の皆さんとも共同運営するようになり、入行して1~3年目の行員と話す機会が増えていきます。
自分の振り返りも含めて業務を観察させてもらうと、規制対応業務(マニュアルに沿った記入、確認、書類準備)に、ある発見がありました。
僕が入行した当時と変わったことを発見したのではありません。
僕の入行した当時から殆ど変わっていないことを発見したのです。
僕が1年目の頃の業務全体と比べると、もう8年くらい経っているので、基幹システムの改善、便利なSaaSの登場、通信環境の高速化、リモートの寛容化といった影響で、殆どの業務が何らか進化しています。
①企業調査:活用できるツールが確実に増えていて、特に初期的な調査業務は効率化されていました
②お客様との面談:遠隔でお客さんと会うことも認められるようになり、ツールや通信環境の改善で、語り合う機会は効率的になっていました
企業調査もお客様との面談もずいぶん効率的になったのです。
でも、僕が金融を好きになった理由と照らすと、企業を理解したり、お客さんに会ったりする面白い時間が効率化され、面白くない部分(規制対応)が僕の入行当時から効率化されず残っているのです。
しかも、規制自体が厳しくなったり、効率化されて対応できる社数が増えた分、そのまま業務量が増えていました。
僕は、はっとしました。
そうして、金融の現場にいる知り合い20人程にヒアリングをしてみると、決済・融資・業務管理といった其々の視点から、直接質問していない課題(というか面倒さ)を沢山教えてくれます。
そして、驚くほどプロセスが進化していない点も、とても似ているのです。Webがコミュニケーションの中心になっていても、です。
ああ、国内の金融機関に共通する課題なのだと確信しました。
規制遵守は、特に金融機関にとっての規制遵守は、その存在意義やビジネスモデルに照らして、とても重要なことです。
一方、現場でお客様にいいサービスを届けたい金融の現場からすれば、「必要」な「悪」であって、やりたいことではありません。
誰かが、必要悪を受け止めねばならない。
この現状を見たときに、金融と規制ってことであれば、政府系の金融機関に飛び込んで活動してきた僕がやるべきなんじゃないだろうか。
キラキラしていないし、とても面倒な領域だけど、2011年からずっと持ってきた日本に対する貢献への想いと、金融業を好きな僕だから向き合える挑戦なのではないか。
そう考えるようになりました。
Simple Form
ここまでが長かったので、改めてですが、僕は規制対応の中でも、特に自分自身の経験から法人向けのKYCをシンプルな形にアップデートしようとしています。
金融機関がこの法人向けのKYCに対応する手段を単純化すると、現状下記の2つ(又は組み合わせ)のアプローチが存在します。
①内製のシステムを構築する
②マニュアル作業をする人員を増やす
このどちらにも課題があります。
①内製のシステムを構築する
こちらは、規制上聞かなければならないことをそのままWebページに記載するか、マクロの組み込まれたExcel表を送る等の方法で、なるべくシステム対応を目指すアプローチです。
効率化はある程度進みますが、多岐に渡る項目、法律知らないと分からない難解な質問に答えてもらうことなど、お客様側に負担がかかることになります(離脱率の上昇にもつながります)。
分からない場合は電話がかかってくることがあって、意味をなさないこともあります。勿論、規制が変わるたびにシステム改修するのですが、各社とも独自のシステムを持っているので、毎回とてもシステム投資のコストがかかります。
②マニュアル作業をする人員を増やす
こちらは、それ程対応する企業数が多くない金融機関が採用する現実的な方法なのですが、お客様にはなるべく負担はかけないように、若手の営業マンや派遣社員の方が、ヒアリングをしながら必要書類を作成するアプローチです。
お客様の離脱はほぼないですが、「金融」業務をやりたかった若手社員のモチベーション低下や、教育コストの上昇、事務品質の不安定化が起きることになります。人材の流動性が上がっている中、課題は深刻化しています。
弊社は、金融機関の法人のお客様が沢山記入しなければならないフォーム(記入事項)、金融機関が作業をしなければならないフォーム(記入事項)、の何れもテクノロジーと専門人材の汗でシンプルにし、上記の課題解決をしていくことを目的としており、シンプルフォーム株式会社と名乗ることにしました。
本当に立ち上げたばかりなのですが、色々な方のご支援があって、やるべきことが着々と形になってきています。
9年越しの答えとなりましたが、9年間を経たからこそ、自信をもって、質問に答えられるようになりました。
僕は、金融機関の規制対応業務をシンプルにし、金融業の必要悪を受け止めることに挑もうと思います。
これが、「僕は何に挑むべきか?」に対する9年越しの僕なりの答え、です
最後に
ここまでお付き合いを頂きまして誠に有難うございました(こんなに長いNote投稿は最初で最後にします)。
金融は関わる人数が大きい産業であるので、業務時間を数%改善(シンプルに)するだけで、社会的なインパクトがとても大きくなります。
この領域に向き合うには、金融業務への理解、エンジニアリングへの理解、規制への理解、UI/UXへの理解と、様々な知見を持つ方の力のご協力が不可欠です。
準備をはじめてから1か月程度ですが、有難いことに、金融バックグラウンドの方、BtoBプロダクトの開発をされているエンジニアの方、弁護士の先生等からサポートを頂けるようになりました。
少しでも課題意識や目指す方向性に共感をしてくださった方、とりあえずもうちょっと具体的な話が聞きたいという方、是非一度お会いしたいと思っています。事業の詳細などもその際にお話しできればと思います!
TwitterまたはMessengerにてご連絡ください。
Twitter : @tashiro_shota (https://twitter.com/tashiro_shota)
Messenger : 田代 翔太(https://www.facebook.com/shota.tashiro.90/)
ここまで読んで頂きながらも(それだけで大感謝なのですが)、金融にはピンとこないなーという方。
僕たちは、金融の規制対応業務をアップデートする先に、全産業に応用できるような、法人間の信用をもっと簡単につくる仕組み(基盤)の構築を目指しています。
その先まで行っても、キラキラはできないと思うんですが、一つ一つ、この国の未来にインパクトを与えるプロダクトを作りたい方とは、楽しくお話しできるんじゃないかと思っています。
金融以外でBtoBのビジネスに関わってきたエンジニアの方や、PdMの方とも是非お話ができればと思っています。ちょっとでも興味があれば、ご連絡を頂けると幸いです。
それではまた、お会いしましょう!
シンプルフォーム株式会社
田代 翔太
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