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【短編】とある誰かの憂鬱 1

ついつい口に出してしまう。
「んぱんぱ」


テレビをつけると、スーツを着た大勢の人たちが
男女平等について熱い議論を繰り広げていた。

女性は何人いただろうか
8割、いや、9割が男性だった。

もはや視聴者も巻き込んで
これがお笑いの基本である「ボケとツッコミ」だと
世界に発信しているのだろう。くだらない。


溜まっている仕事があるけれど
気分が乗らないから、散歩にでも行こう。

波の音と言うよりは、水の音と言っていい静かな海のそばにある
いつもの散歩道だ。

キラキラと眩しく光る海は
透明な箱にでも入れて、持って帰りたいとも思う。
光の射す窓辺に置いておくんだ。憂鬱な私の心を
少しは癒してくれるだろう。

この散歩道は
あの人とも来たことがあったと思う。今更どうでもいい。

ただダラダラと生きている。生きる意味がわからない。
でも、死にたいとは思わない。そんな私だ。

もちろん昔は、熱中するものだってあった。
仕事が生きがいだと思っていた時もあった。
そんなモチベーションなど
小さな出来事で、簡単に壊されてしまうんだ。


そんなことを考えていると、道の駅についた。

道の駅というものは、田舎ならではの優しさが詰まった場所だ
おじいちゃんやおばあちゃんが、力を合わせて作り上げたお店。
そんなユルさが心地いい。

汚い水槽に泳ぐ魚たち。
見たこともない名前の野菜。

スーパーとは比べ物にならない値段で売られている果物。
こっちのコーナーには

え?

考える前に口が先に動いた「んぱんぱ」



パンだと分かっているけれど、
ついつい口が動いてしまう。かわいい響きだ。
カメラにおさめておこう。


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