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思春期の子どもたちを守るために

 名古屋市を中心に、虐待や性暴力被害など様々な社会問題の被害に遭う若者を支援されている産婦人科医:伊藤加奈子氏の講演を聴く機会があった。
アメリカで始まったACE研究(児童虐待などの子ども期の逆境体験がその後の人生での病気・低学歴・失業・貧困・孤立など様々な困難と関連するという研究)についてしっかり学ぶことができた。ACEとはAdverse Childhood Experiencesの略で「子ども期の逆境体験」と訳される。1990年代からアメリカで始まったACE研究は、成人期の健康問題と明らかに関連することがわかっている。最近の研究では、ACEは心身に悪影響を及ぼすだけでなく、失業や貧困、社会的孤立や子育ての困難に至るまで、長期的・多面的に害を及ぼすこともわかってきた。つまり、子ども期により多くの逆境を経験してきた人は、生涯にわたって心身的にも社会経済的にも、生きづらい状況に置かれる可能性が高いということだ。

 子ども時代につらい体験をしている人はそうでない人と比べて、大人になってからのがんの発症率は1.9倍、心疾患は2.2倍、脳卒中は2.4倍、肺疾患は3.9倍、アルコール依存は7.4倍、薬物注射は10.3倍、自殺未遂は12.2倍…おそろしいほどの影響だ。さらにACEは、心身に悪影響を及ぼすにとどまらず、より多くのACEを経験した人は、大学に進学したり、安定した仕事を得たり、十分な所得を得たりといった人生における機会の獲得も難しくなる可能性が指摘されている。ACEという心身への傷つきが、高校中退、失業、貧困などの社会経済的に不利な状況にも結びつくと示唆されている。

 さらに、ACEの影響は人間関係にも影響し、社会的孤立(悩みがあっても相談する人がいない)、自身の子どもへの身体的虐待(体や顔を叩く)・心理的虐待(脅したり馬鹿にする)・ネグレクト(必要な世話をしない)へとつながるのだ。このように、ACEの悪影響はその人自身の健康や社会経済状況、人間関係にとどまらず、虐待・ネグレクトとして直接的に次世代の子どもたちの生活や心身状態を脅かすほか、次世代・次々世代…へと逆境の再生産、逆境の連鎖が繰り返される可能性も考えられ得るということもわかっている。

 ACEの影響を受けて生きづらさを抱えたまま生活している人のことをACEサバイバーというそうだ。この世の中には様々な格差が存在する。たまたま生を受けた家族の境遇の格差が生涯にわたる多面的な格差につながっている。児童虐待、子どもの貧困、DV、ヤングケアラー、毒親、親ガチャ、など、子どもや子育てに関する負のワードに溢れた日本・・・このたび私は初めてACEについて、ACEがその後の人生に与える悪影響について学んだ。ACEを予防できる社会、ACEサバイバーが生きやすい社会をどのように構築していくかが課題となる。子ども家庭庁がACEサバイバーについてどのような見識を持っているのかはわからないが、ACEサバイバーの存在を認識するのはもちろん、「子ども」を冠とした象徴であるからこそ、社会的マイノリティであるACEサバイバーが抱える苦しみに優しい眼差しを向けてほしいと願うばかりである。

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