No.2 アレクサンドル・バン
フランス、ロワールのプイィフュメ。
彼が造るワインはソーヴィニヨンブランのみです。
個人的にソーヴィニヨンブランの特徴としてよく僕が説明するのは南半球の例えばニュージーランドだと、ハーブのような香りにライムやグレープフルーツのような溌剌とした酸が特徴的、ロワールのソーヴィニヨンブランはマスカットを噛み潰したような甘酸っぱいフレッシュな味わいと表現しています。
が、彼の造るワインは蜜のニュアンスが感じられます。その理由としては彼は完熟したソーヴィニヨン ブランで造るというスタイルを貫いているから。(セバスチャン・リフォーも同じスタイルですね。この造り手はまた改めて紹介したいと思います)なので他の造り手よりも収穫が遅い。
ブドウが完全に熟するまで収穫を待つことができる生産者はなかなかいないそうです。
初めて飲んだとき思わず天を仰ぎました。自然と「やばっ」というなんとも語弊力のない言葉を口にしたのを覚えています。
〜以下、インポーター様資料〜
(少し長いですが、一読いただきますと彼のワインに対する思いがより伝わるかと思います)
農業国フランスでは、有機栽培された野菜や飼料を選び抜いて肥育された食肉がその地域「らしさ」を体現していると受け入れられる一方で、なぜ化学合成農薬や化学肥料、培養酵母、亜硫酸の使用に制限のないワインたちが「普通」とされ、それ以外のワインがその土地らしさを担保するためのはずのアペラシオン制度から排除されるのか。
この大いなる矛盾に対して声をあげ続け、さらには自身で「真実」のプイィ フュメを追求し、生み出し続けているアレクサンドル バン。彼のこうした姿勢は、現在のワインシーンに新たなうねりを生み出しました。近年では、フランスの一般紙であるル モンドやル フィガロをはじめとして仏国内のテレビニュースでもアレクサンドル バンの取り組みが紹介され、彼の存在は多くの人が知るところとなり、フランスの自然派ワインシーンを代表する造り手として認知されるようになりました。
しかし、その名声が仇をなしたのか、周囲から見ればラディカルな、本人からしてみれば純粋なその姿勢の行き着いた先は、「プイィ フュメというアペラシオンからの恒久的な除外」でした。アペラシオンを恒久的に失う事となった当時、アレクサンドル バンが残したメッセージは下記のようなものでした。
「たいへん残念な想いで一杯ですが、INAOによって、今後手がける私たちのワインからプイィ フュメと名乗る資格を奪われることになりました。ぜひ皆さんに心にとどめておいて頂きたいのですが、私たちは畑では有機栽培を実践し、エコセールやデメテールなどの認証も取得しています。ドメーヌから遠く離れた一部の区画を除いて、馬による耕耘を実践しており、野草やハーブなどの力を借りつつ育ったブドウを、完全に熟したタイミングで手作業で収穫しています。手がけるワインの70%は、自然酵母による発酵からはじまる全ての醸造プロセスを通じて添加物を加えること無く、残り30%に関しても瓶詰め時の10mg/lの酸化防止剤となる亜硫酸以外は何も加えていません。この他にも、ドメーヌでの仕事の多くは自然環境やそのサイクルを尊重し、多くを人の手によって行っています。完璧でない部分はまだまだありますが、こうして生まれる自然なワインは、飲み手にとっても、大地にとっても、そこで働く人々にとっても、そして私たち人類が共有するこの地球にとっても喜びをもたらすものだという信念のもと、私たちはワイン造りを行っています。」
一方で、そんなアレクサンドル バンをはじめとする多くの自然派ワイン生産者の地道な努力の結果、以前は硬直的だったグローバルなワインシーンでは、大きな変化が生じました。
その例のひとつが、フランス人女性初のマスター オブ ワインでありながら”Natural Wine”という書籍を刊行し、ロンドンでアレクサンドル バンも参加するRAWという大規模な展示会を主催したイザベル レジョロンの登場です。
マスター オブ ワインという最も権威のあるワイン資格の取得者が、ナチュラルワインに傾倒し、そのムーブメントを牽引するようになるというのはまさに画期的な出来事でした。イザベルはとあるインタビューで下記のように語りました。
「マスター オブ ワインを取得しようとしていた頃の自分は、典型的なワイン人でした。しかし、テイスティングを続けるうちにそのころ飲んでいたワインがどんどんと同じような味わいに集約されて行くのに気付いたのです。そもそも自分がワイン業界に身を投じた理由は、大地の営みに立ち返ることでした。私の家族がそうであったように。にもかかわらず、ある時自分が、とても工業的で農業から離れた世界に身をおいている事に気付いたのです。そして、個人的にではありますが、ワインから人柄を感じることができるものを飲むようになりました。そしてMWを取得した後には、今後のキャリアを自分自身が家で飲んでいたナチュラルワインに身を捧げようと決意するに至りました。」
こうした新しい動きは着実に世界に広がっており、リベラルな文化を備えた都市や国で自然派ワインの存在感は増し続けています。リベラル(リベラリズム=自由主義)とは本来、政治や経済分野における思想類型のひとつですが、「人間は理性を持ち従来の権威から自由であり自己決定権を持つ」という趣旨は、まさにワインの世界でも通用し今後も重要になってくる考え方だと思います。「従来の権威からの自由」が新しいワイン文化を作りあげていく。そのムーブメントの中心人物のひとりが、アレクサンドル バンなのです。
とは言え、彼は思想家でも活動演説家でもありません。その土地のブドウ、その土地の酵母のみで純粋なワインを生み出す事こそが、アレクサンドル バンの表現であり、私たちへのメッセージです。農業が大好きな彼は、畑にいる事を本当に楽しんでいるように見えます。
「ワインは大地と人をつなぐ、一番素晴らしいもの」
こう語るアレクサンドルの顔は、自信と希望に満ちあふれています。
※ アペラシオンとはフランスにおける法律に基づいた原産地の呼称のこと
思いを馳せながらワインを飲むのも良いですね。
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