【MTG】スタンダードローテーションの変化について

スタンダードのローテーションが2年から3年に延長されるらしいので論点や影響を考えてみる。

元記事

≪元記事論点まとめ≫

1)スタンダードはMTGの中心だったが近年は衰退してしまった
2)紙では衰退したがアリーナではスタンダードが一番人気
3)MTG自体は成長している
4)スタンダードの人気を取り戻したい
5)その1つ目の施策としてローテーションを1年延長する

これにより、

A)スタンダードのカードが長く使える
B)時間をかけてメカニズムを構築できる
C)カードパワー引っ張られずにメカニズム中心の構築ができる

1 ローテーションの必要性

そもそもローテーションとはなぜ存在してどんな価値があるのか。

1)影響力の維持

1つのフォーマットに使用できるセット数がローテーションにより限定されていると、1つのセットがそのフォーマットに与える影響力も同様に固定されていることになる。
これまでのスタンダードを例にすると、1年間で基本セット1+その他3の4セット、これが2年間で8セットであり、1セット当たりの影響は1/8となる。
これに対してローテーションのないレガシーのようなエターナルフォーマットではこれが単純計算で15倍(MTGが30周年なので15としたが実際は特殊セットを含むのでそれ以上)になる。そして、この影響力は使用可能なセット数が多くなればなるほど小さくなっていく。MTGの歴史が長くなればなるほど影響力は小さくなっていくということになる。
そして、影響力が小さいと、新セットが発売されてもプレイするうえで欲しいカードが少なくなるため、売り上げも落ちてしまう。ローテーションがないフォーマットでは、新セットの発売ごとに相対的な影響力は低下し、売り上げが逓減してしまうことになる。
つまり、セットの影響力は売り上げから間接的にそのコンテンツの成長にも影響を与えることになる。ローテーションは、MTGを継続的に成長させるために必要不可欠なものであるといえる。

2)インフレ抑制

MTGだけでなく、漫画やゲームなどの特定のコンテンツを俯瞰的に時間軸で見た場合、インフレの発生しないコンテンツはほとんどない。人は、同じ状態が続くと飽きてしまうが、デフレ方向に進むことで楽しみを得ることもできないが、かといって、過度なインフレもバランスを損なって面白味を欠いてしまう。
1つのコンテンツを維持するために、インフレというものは必要不可欠な要素であるが、そのコンテンツを長期的に発展させるためにはインフレを適切にコントロールしなければならない。
MTGも例外ではなく、30年の間にカードパワーはインフレしてきた。(黎明期等の調整ミスは除く)このインフレをこれまで上手にコントロールできた理由は、スタンダードというローテーションのあるフォーマットを中心に据えていたことにある。
ローテーションがあることで、1年に1回環境がリフレッシュされる。昔の話ではあるが、親和の時代など調整に失敗した時期があっても、翌年の神河は売れなくても親和が暴れたミラディンがスタンダードから落ちた後のラヴニカ以降は持ち直すことができた。親和がもしローテーション落ちしなかったら、当時を超える枚数の禁止カードが出ただろうし、その後のインフレもコンテンツそのものを破綻させるレベルに至った可能性がある。
新セットが魅力的かどうかである判断基準をローテーションの範囲内に抑えることで、ゲームの成長とインフレを適度なバランスに保つ。これがローテーションの効果である。

なお、将棋やチェスなどの様に、コンテンツそのものに表面的な変化がなくても努力や研究の先にある新しい発見や自身の能力の向上に変化を見出す人もいる。マズローの欲求5段階接における自己実現欲求に類されるであろう人だ。おそらく自分もそこにいるのだが、それはある種の異常者(誉め言葉)であり一般的な感覚ではないので、ここでは考えないでおく。

3)環境改善能力

インフレだけでなく、特定のカードについても同じことが言える。誤って調整に失敗した「ぶっこわれ」カードが印刷されてしまった時、そのカードは禁止になることが多い。禁止というのは、突然、購入したカードが望むフォーマットで使用できなくなるという非常にネガティブな方法であり、禁止の指定によりMTGを離れてしまった人も少なくない。
ローテーションがあるフォーマットでは、禁止というネガティブな方法ではなく、時間の経過によるローテーション落ちという予測可能かつ健全な方法で環境を改善することができる。
ローテーションは禁止という過度の不安感や不満を生み出すことなく危険なカードをそのフォーマットから排除することができ、メタゲームの健全化を図ることができるシステムである。

↓なお、去年も似たようなことを書いている。

2 ローテーションの問題点

もちろんローテーションがあるということは良いことだけではない。

1)ローテ落ち

最も重大で明確な問題点がこれだ。2年という期間で、数千円、総額で見れば数万円単位を支出して購入したデッキが崩壊する可能性があるというのは大きなデメリットである。
2年と少し緩めに表現したが、1年に1回のローテ落ちで環境が激変することもあるし、デッキ内の半数のカードが使えなくなって実質的にデッキが崩壊することもあるので、実際はこれよりずっと短いと認識すべきだろう。
最低でも月2、3回くらいは遊べないと割に合わない。(※主観です)
時間がない社会人がメタゲームを注視しながらプレイするにはローテーションのあるフォーマットを遊ぶのはもったいなく感じてしまう。

2)環境が変化しやすい

ローテーションによりセットの影響力が一定以上に担保されるというのは前述したが、それは、1セットごとにメタゲームの変化も大きくなるということである。変化というのも基本的には望ましいことではあるが、変化が多すぎても良いことばかりではない。
常にMTGのことを考えていられる人なら良いが、趣味としてたまに遊ぶ程度の人は変化が多いとついていけずに辟易してしまう。インフレ同様に、変化も多すぎても少なすぎても良くない。

3 現実的な影響の予測

では、ローテーションが1年延長された場合にどのようなメリットがあるか考えてみる。

1)ミッドレンジ環境は変わらない

WotCの予測の中に、「色やメカニズムに注目したデッキが多く」なるというものがあるが、これに関して、今回のローテーションの延長では問題は改善しないと思われる。
既にこちら↓にも書いたが、

ミッドレンジという名前のデッキが環境のほとんどを支配するようになって主な要因はブロック制の廃止にある。語弊がないように言うならば、フォーマット全体に対してセット間のシナジーを失って1セットだけのメカニズムとなった現在、メカニズムだけでデッキを構築するにはカードの枚数が不十分となったことが原因である。
ブロック制というのが最もわかりやすいのでそう記載したが、ブロック制でなくとも複数セットに渡って同系統のシナジーを持ったメカニズムを収録して、ようやくメカニズム中心のデッキが完成する。
ローテーションが3年になったところで、1つのメカニズムの持つ影響力が相対的に大きくならなければこの問題は改善しない。よって、今回の変更はいっさいがっさいまったくもってこの問題には関係ない。それどころか、メカニズムを重視したデッキをメタゲームの一角に押し上げたいのであれば、3年より2年の方が影響力を持たせやすいのでマイナスである可能性が高い。

2)カードが長く使えるのは一長一短

カードが長く使えるのは確かに良い。せっかく購入したカードだから少しでも長く活躍させたいという気持ちは多くの人が持っているだろう。
とはいえ、ローテーションのスパンが長ければ長いほど良いというわけではない。そもそもカードが長く使えるフォーマットを良しとするのであればローテーションのないフォーマットを選択するだろう。
新セットの影響力や売り上げと、使える期間の長さのバランスが最も良い期間にローテーションを設定すべきなのであり、長くても短くてもダメ。
現時点でスタンダードの適正なローテーション期間が2年か3年かはまだわからないが、よりよい可能性を求めて試行すること自体は良いことだと思う。過去の経験から、少なくとも1年6ヶ月や4年(エクテン)が適正ではないことは確かだろう。

3)禁止とインフレ

ローテーションが3年になることで、スタンダードに対する1セットの相対的な影響力が下がるのは間違いない。そのため、新セットの売り上げが低下するか、これまで以上のインフレが加速させるかの2択を迫られることになる。
ここ数年の売上至上主義なWotCの方針を考えると、おそらく後者に舵を切るのではないかと思われる。ただ、その場合の最悪なパターンは、インフレをコントロールできずに環境が悪化して禁止カードを連発する状況だ。
2019年から2020年にかけて大量の禁止カードが発生したことも現在のスタンダード衰退の要因の1つだと考えられており、今後も同じように禁止を連発するようなことになれば今度こそスタンダードは回復不可能な傷を負ってしまう可能性がある。
※追記5/17:禁止の予告、出たなぁ?

4 スタンダードを盛り上げるためにすべきこと

あくまで今回のローテーションの変更はスタンダードを盛り上げる施策の1つ目らしい。今後どのような施策が実施されるとスタンダードが良い方向に進むだろうか。

1) デジタルからの脱却

そもそもWotCは、アリーナと紙のどちらを中心に展開していきたいのだろうか。アリーナに注力するよりも紙の方が売り上げは維持しやすいのではないかと素人目では感じるのだが。
アリーナは場所を選ばず遊べ、遊び方によってはお金をかける必要すらない。そうなると、スタンダードというローテーションでカードが使えなくなるフォーマットを遊ぶにはアリーナが最適であるのは誰の目にも明らかであり、アリーナを廃止にでもしない限り紙のスタンダードの復権はあり得ないのではないか?
少なくとも紙のスタンダードにアリーナ以上の付加価値を与えなければ、以前のような活気は取り戻せないだろう。

2)単純付加価値

スタンダードのイベントに良い賞品を用意するのは1つの方法だろう。近年のPWCSの様に人気カードをバラ撒けば一時的に集客を見込むことができる。
だが、あくまでその集客は一時的な物であり、そのイベントのためだけにスタンダードを遊ぶにすぎず、普段から遊ぶフォーマットとしてスタンダードを遊ぶという結果に至らないだろう。

3)競技と多様性の狭間

スタンダードが最も遊ばれるフォーマットであったのは、そもそもWotCが競技プレイのフォーマットとして採用していたからである。
既に述べたとおり、長期的に売り上げを維持向上させたいのであれば、スタンダードをゲームの中心に据えるというのは、当然の戦略である。
プロツアーや世界選手権など、競技的なプレイの頂点に憧れてPTQを駆け巡ったグラインダーや、その結果として世界の頂点で活躍してきたプロプレイヤーが現在のMTGを作り上げたと言っても過言ではない。
しかし、EDH(統率者)の流行と感染症の蔓延を主因として、MTG全体に占める競技プレイの割合は大きく減少してしまったが、その一方で、EDH等の遊び方の多様性は、MTG人口そのものの拡大に大きな役割を果たしている。
MTGの裾野が広がったのであれば、次は競技プレイの人を引き戻すことでスタンダードの活気は取り戻せるかもしれない。
ただ、そのためには現状の不安定なプロ制度と、あまりに過酷すぎるプロツアー予選の改正は避けて通れないだろう。SNS等でも意見が交わされているが、何重もの予選をくぐり抜けていくのは時間的にも金銭的にも負担が大きすぎる。かといって、一発抜けのPTQだけでは地域格差が生まれてしまったり、予約戦争が発生してしまったりと問題が想定される。短期的な結果の反映と中長期的な努力を還元できるようなシステムの構築を考えなければならない。

4)ブロック制への回帰

既にブロック制やセット間のシナジーの重要性については述べたとおりだ。
現在のようなただただ強いカードだけを唱え続ければ勝てるという状況がスタンダードで続いていては、ゲームとしての楽しみを見出すことが難しくなってしまう。
原始的には、コンボ⇒コントロール⇒ビートダウン⇒コンボという3すくみ構造がMTGの基礎であった。現代においてこの構造は必ずしも正しいとは言えないかもしれないが、近いような3~4種類のデッキが相性差でお互い牽制し合う状態を作ることが最もわかりやすい目標ではないかと思っている。
セット間のシナジーがない環境では、そもそも強いカードを使えばただ強いというデッキしか作れない。これがブロック制などによりセット間のシナジーが戻ってくれば、メカニズムを中心に組み上げられたデッキが活躍するようになる。メカニズムを中心に組み上げられたデッキは、状況や相性によってジャンクデッキを大きく上回るパワーを発揮することができるが、脆い部分もあるためメタゲーム等によって活躍するデッキが入れ替わってくるだろう。
そういった環境も一つスタンダードを面白くさせ、人気を取り戻す一助になる筈だ。

5)エクテンの可能性

その昔に存在した人気フォーマット、エクステンデッドは、4年というローテーションを持ったフォーマットだった。
今は完全に消滅してしまったが、スタンダードのローテーションを3年に延ばすのではなく、エクステンデッドを復活させて可変的に運用させても良かったのでは?とちょっと思った。
近い役割としてモダンやパイオニアがあるのだろうけど、少しプールが広いのでその中間があっても良いのではないだろうか。

因みにモダンにはローテーションがないと思われがちだが、パイオニアというフォーマットの新設によりスタンダードに次ぐ準競技フォーマットとしてエクステンデッドの後継的な役割を奪われると、将来的に消滅しかねないので、モダン⇒パイオニアへのダイナミックなローテーションが行われていると考えた方が適切だろう。

5 けっきょく

長くなったけど、結局この話は自分が今後もレガシーとヴィンテージを楽しむためにみんなスタンダードやろうぜ!WotC頑張れ!っていう他力本願な結論に至る。
結局オメーやんねーのかよって言われたら返す言葉はない。いや、だってローテ落ちするカード買いたくないしさ。コンボデッキ好きにはプールの狭いフォーマットはちょっとね。
頑張れWizards!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?