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MTGの中心はスタンダードであるとレガシープレイヤーが語る

1 誰もスタンダードをプレイしていないのである

先日、こんなことが話題になった。
「団結のドミナリアの発売でスタンダードにローテーションが発生し、禁止カードがなくなった。」
字面どおり受け取れば、「ようやく、一時期連発していた禁止カード群がスタンダードから去って健全な環境が戻って来た」であるが、実際はそうではない。仮に、スタンダードが現在も最も遊ばれているフォーマットであったなら、禁止カードは発生していたと推測される。
「誰もスタンダードをプレイしていないので、環境の解明が遅く、禁止カードの話題にもならない。」というのが正しいと思われる。
もし今、「MTGで一番人気のフォーマットは?」と問われると、大多数の人がモダンか統率者と答えるだろう。以前は、スタンダードかリミテッドと回答する人が多かったが、ここ数年はどちらもプレイしている人をほとんど見かけなくなってしまった。

2 スタンダードを殺したのは誰か

盛者必衰とは言うが、なぜスタンダードが衰退したのか、原因は大きく分けて2つ。感染症による社会状況の変化と、MTG Arenaの普及にある。
まず、感染症について。
流行初期においては、スタンダードどころかMTGそのものが遊べない期間も発生していた。店舗に人が集まって多人数で向き合ってゲームをするというMTGの基本的な遊び方が、感染症の流行状況において非常にミスマッチであったからだ。特に、GP等の競技的な大型イベントへの影響は甚大だった。
新セットは発売されるが、カードを買っても遊ぶ機会がない状態が何ヶ月も続き、大会が再開されてもすぐに次の波が来て中止になっていた。大人数が集まるイベントに至っては全くと言っていいほど開催されなくなった。その状態が何ヶ月、何年続くかわからな状況で、2年という限られた期間で購入したカードが使えなくなるスタンダードというフォーマットを遊ぶ人はほとんどいなくなった。
同時に、Arenaの普及は紙のスタンダードに大きなダメージを与えた。
感染症の流行下において、人と直接会うことなく遊ぶことのできるArenaはMTGというコンテンツの維持・発展に大いに寄与したと言える。
しかし、その便利さと、ほとんど課金することなく遊ぶことができるシステムは、紙のスタンダードから需要を奪うには十分だった。「すぐカード使えなくなるなら紙で買わずにArenaで遊べばよくない?」と考える人は決して少なくない。
リアルでの大型イベントの開催が難しくなったことにより、ArenaでPT(のようなヤツ)を開催することで、競技MTGを存続していったが、競技MTGを一つの拠り所にしていたスタンダードの存在価値を揺るがす結果となった。

3 MTGの中心はスタンダードであると叫ぶ

いや待て、そもそも、なぜスタンダードがMTGの中心であったのか。スタンダードにはどんな価値があるというのか。レガシーじゃダメなんですか?!
最も大きな理由は、「WotCがスタンダードを推していたから。」だが、当然、WotCがスタンダードをメインフォーマットとして推す理由がある。それが“ローテーション”の存在である。
まず、前提として、スタンダードとは・・・直近最大2年に発売されたカードが使用できる構築フォーマットである。毎年10月頃に、その時点で発売から1年以上経過したセットがローテーションにより使用できなくなる。(※今年は9月上旬だったし、過去に機関が1年半になったこともある)今回、団結のドミナリアの発売で禁止カードがすべてローテーション落ちしたように、多少調整に失敗しても2年も待てば禁止せずとも環境が健全化されるということになる。
ローテーションがあると何が良いか。

第1に、1つのセットが環境に与える影響が大きいということ。2年間で発売されるスタンダードで使用可能なセットは、ローテーション直前で約8セット、1セット300種類弱のカードが収録されるので、再録等を無視した概算で約2,400種類。それに対し、ローテーションがないレガシーでは、おそらく2万種類を超え、その差は10倍近い。当然ながら、新セットが発売された時に与える影響もローテーションの有無により大きく変わってくる。
新セットからレガシーに影響を与えるカードは数枚だが、スタンダードにはリミテッド調整用に刷られた一部のカードを除く多くのカードが影響を与える。個人的には、カードプールの差は10倍だとしても、与える影響は20~30倍くらい違いがあるのではないかと感じている。
これは、新セットの売り上げに直結する。新セットの影響が数枚程度の小規模だとしたら、間違いなくそのセットの売り上げは伸びなくなってしまう。スタンダードをメインフォーマットに据えることで、継続的な新セットの需要を創出しているのだ。

第2に、インフレの抑制がある。MTG、いや、TCGに限らず、長い期間継続しているあらゆるコンテンツに言えることではあるが、インフレというのはその面白さを継続させるためにうまくコントロールしなければならない重要な要素だ。
人間は、同じ状態が続くと退屈を感じてしまう。ソシャゲのパワーインフレ、某有名漫画の戦闘力インフレなど、人を惹きつけ続けるにはある程度のインフレが必要不可欠である。しかし、インフレが極端に進みすぎると、そもそものゲーム性や面白さ自体が損なわれてしまう。インフレとはそのコンテンツの命運を握る諸刃の剣である。
MTGも例外ではなく、スタンダードに収録されているカードもジワジワとインフレが進んでいる。しかし、ローテーションがあることで、ある程度インフレをコントロールすることができる。インフレによって新しい風を呼び込むということをしなくとも、ローテーションにより毎年変化が発生するからだ。
また、方法によってはインフレをリセットすることもできる。ある1年のカードパワーを低く抑えると、その1年は売り上げが大きく落ちるが、その翌年はカードパワーの低い1年分に新たにカードを追加していくことができる。
つまり、2022年のカードパワーを8、2023年のカードパワーを3にした場合、2023年のカードの売り上げは大幅に減少することになるが、2024年のカードパワーを4であっても、スタンダードには3と4のカードしか存在しないため、2024年はそれなりの需要を創出することができるということだ。
仮にローテーションのないフォーマットをメインに据えてしまうと、そのインフレ速度はおそらくあっという間にゲームをつまらなくして、MTGを崩壊させてしまうだろう。近年の統率者人気に合わせた統率者セットの連発とインフレが及ぼしたエターナル環境への“悪”影響がその証左である。

ローテーションというシステムは、MTGというコンテンツを長期的な視点から発展させていくために欠かすことのできないシステムであり、そのローテーションの影響を最もバランスよく活用することができて、しっかりとWotCが利益を上げていくことができるのがスタンダードというフォーマットである。

4 スタンダードに重きを置くのは間違っているのだろうか

ところで、今最も成功しているTCGと言ったら何だろうか。おそらくTCGに見識の広い人であればポケモンカードゲーム(ポケカ)であると答える筈。国内はもちろん、海外でも人気で、ebayのTCGの売り上げ報告でも1位に挙がっているらしい。ここ2~3年の成長はめざましく、特にYouTube等のインフルエンサーによる影響が大きいと思われる。
このポケカ、驚くことに、最も遊ばれているフォーマットはスタンダードだという。ここ数年の感染症影響下での成長に加え、スタンダードでの人気の爆発というのには非常に驚く。ポケモンという元々キャラクター人気が強い素材であるとはいえ、MTGとの違いは顕著である。

ポケカの成功の要素として、まずはYouTube等配信とマッチしていたというのは非常に大きい。ポケモンが、日本だけでなく世界中で、世代を超えて愛されるキャラクターであることだけではない。一つの重要な違いとして、新セットの発売間隔がある。
新しいセットが発売されて、そのセットの開封動画や新しいカードの対戦動画を作って、視聴数を維持することができるのはおそらく2~3週間、長く見ても一ヶ月である。そして、ポケカの新セットのリリースは1ヶ月に1回で、MTGは約3ヶ月に1回である。MTG単独の動画では約二ヶ月は虚無の期間が発生してしまう。もちろんオリパの開封など様々な企画で間を持たせるのだろうが、この違いはこの大動画時代には致命的だった。

ポケカとMTGの違いとしてもう一つ、カードの価格の差も決して無視することはできない。
仮に、パックの開封でその各セットに収録されている特定のカード(絵違い等は除く)をプレイに必要な枚数だけ集めようとした場合について、概算してみる。
まずはポケカ。1箱5,000円に絵違い等を除いた最高レアリティであるRRRのカードが2/3入っているので、6箱購入するとRRRの期待値が4枚になる。期待値どおりに出れば、月3万円で概ねすべてのデッキが組めるようになる。
それに対してMTG。1セットの神話レアの枚数が18枚であり、セットブースター1箱から神話レアの出る枚数が仮に6枚であると仮定すると、3箱で期待値が1枚、12箱でようやく期待値が4枚になる。セットブースターの価格が現在約17,000円なので、204,000円だ。
MTGの新セットは3ヶ月に1回だが、1月当たりに直しても68,000円。その他の特殊セットやSLDを買うことも考えると月平均10万円を超えてくる可能性がある。神話レアの出る枚数など誤差はあるが、とても3万円には及ばない。
もちろんシングルカードの単価も高く、ポケカはイラスト等に拘らなければ数千円でほとんどのスタンダードのデッキを構築することができるが、MTGはスタンダードの最高額カードが1枚で1万円近い。スタンダードのトップメタのデッキを組んだら10万円弱と高額になることもある。
これは、全セットにおいてMTGがリミテッドを遊ぶことができるように、構築戦において全くプレイアブルでないカードを大量にセットに収録していることが原因であり、ある程度はやむを得ない現象であるが、新規参入者にとって非常に大きな壁である。
そして、これらの2つの違いから来るプレイヤーの世代の差は、さらに大きな違いを生む。

5 おっさんシンドローム

MTGプレイヤーのほとんどは、20代半ばから30代のおっさんである。彼らも、大人になってからMTGを始めた人ばかりではない。自分も小学校5年生の時にMTGを始めた。だが、今MTGを遊んでいる人は大人しかいない。10代のプレイヤーなんてここ数年見たことすらない。
それに対してポケカを遊ぶ世代は非常に幅広い。子どもから大人まで、場合によっては家族で遊んでいる。ポケモンという素材の強さは当然ながら、前項のような販売形態の違いは、MTGを遊ぶ世代を限定してしまっている。子どもはもちろん、家庭を持つ親が毎月TCGに何万円も支出することは、少なくとも日本の一般的な家庭では困難である。
また、先に、TCGは人と対面するという遊び方が社会状況に合っていなかったと話したが、それが家族内であれば話は別だ。毎日対面している家族でTCGを遊ぶのには何ら抵抗が発生しない。
感染症の蔓延した状況下において、価格や販売間隔といった差は、顕著にその結果に表れたと言える。

6 おーい、磯野!スタンダードしようぜ!

2019年に始まった感染症問題もようやく落ち着きを取り戻しつつある。あの冬は、最悪の始まりだった。といっても、終息したのではなく、理解が進んだだけではあるが。
それと同時に、MTGのスタンダードも活気を取り戻しつつある。そこにPWCS(プレインズウォーカーチャンピオンシップ)の賞品となるプロモカードが公表された。その≪放浪皇/The Wandering Emperor≫のイラストに目を奪われた人は少なくない筈だ。○れる屋の買い取り6万だし。
普段全くスタンダードをプレイしていない人が言うのもおかしいのだが、スタンダードこそMTGを発展させるために最も重要なフォーマットである。
プロモ人気からでも良い。いつかその人気と競技フォーマットとしての役割を取り戻し、MTGを牽引していってほしい。そして、その日はおそらくそう遠くはない。
 

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