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外国人に生け花を(5)



なぜ外国人は生け花につまづくのか?

外国人にいけ花を教える難しさ、ということを引き続き考えてみます。

最初に断っておきますが、外国人でも生け花がとても上手な方はいらっしゃいます。多くの日本人以上に。私などとてもかなわないなあという方も多いのです。それは事実なのです。

それでも、一般的に、外国人に教える際には、日本人に教えるのとは違う難しさがあると感じることが多いのです。伸び悩む方、面白さを体得できない方、師範級レベルとかそんなものにばかり捉われる方、いろいろ問題が生じます。

特に、基本型の勉強を終え、自由花に移行した際に、つまづいてしまう方が多いように思います。それはどこに原因があるのでしょう?

指導方針に問題が?

前回までは日本人とは違う、外国人生徒の学ぶ姿勢に問題があるのではないか、基本型の勉強で基本が十分習得されていないのではないかなど、あれこれ考えてみました。

さらに、もう一つの深い問題は流派の指導にあると思います。海外で人気を集める流派の多くは、自由花を重視しているようです。そうした(主に昭和以降に発展した)流派の外国人への指導方針に改善すべき点があるのではないかと思います。

外国人に対しても日本人と同様に教えていけばいい、という前提は見直す必要があるように思います。もちろん、私は全ての流派の事情に通じているわけではありませんが。

日本人が一般に持っている生け花に関する知識、常識。それは大したことではないだろうと思われるかもしれません。しかし、それは、生け花という言葉すら知らない外国人と比べたら膨大なものです。外国人に教える際には特別な配慮が必要でしょう。

曖昧なまま海外へ輸出された自由花

自由花の重視はいいのですが、どうも海外ではこの自由花に対する勘違いがあるのではないか、という気がするのです。自由花の本質をきちんと教えていない、という現状があるのではないでしょうか。

これは各先生に任せておいていいことではありません。流派できちんと指導していかないと、いけ花の本質的なところは世界に伝わりません。海外進出に積極的になるのはいいのですが、半端な形でなら弊害が出る可能性もあるでしょう。「外国人に生け花を(4)」で触れたように。

例えば、トヨタは、海外進出の際、まず修理工を育成してから車を販売するのだそうです。売るだけ売って、修理はしないということでは信頼に傷がつくのは必至です。生け花でもそのような事前の配慮やアフターケアが必要だと思います。

自由花とは自由な自己表現だよ、花は生けたら人になるのだよ、というような説明はありますが、それ以上に踏み込んだ説明はほとんどありません。これでは誤解が生じるのは仕方ないでしょう。「それじゃあ、何でもいいわけだ」などという誤解が。

自由花をめぐる疑問

海外で生け花を教えていてよく気付くことは、生徒の熱心さ。ことに実作とともに、理論や哲学を学びたいという声が多いのです。

自由花とは何か?どこまで自由なのか?
自由花成立の時代背景は?
生け花とフラワーアレンジメントはどこが違うのか?
花で自由に自己表現をしなさいと言われても、その自己って何?

ところが海外で生け花を教えている先生でそうした質問に答えられる方はほとんどありません。言語的な制約もあります。また、自分で調べられるほどの知的訓練をしてきた華道教師も限られます。少しばかりミステリアスな曖昧な言葉や禅問答のような言葉で生徒の質問から逃げている方が多いのが実情ではないでしょうか。流派のテキストを読んでもそうした問題への回答はほとんどありません。流派からのサポートが必要な側面でしょう。

生け花の知的文化的な側面

上述のように、理論や哲学を学びたいという声が多い、という実感はあります。しかし、それを知的に探求しようというレベルにまでは関心が育っていないのではないか、とも感じられます。あるいは、ご自分の所属する流派以外からもたらされる生け花関連の情報には興味がないのでしょうか。

私が所属する国際いけ花学会では定期的(年3回)に無料でオンライン・コンフェレンスを開催しています。多くは日本語と英語を使います。様々ないけ花文化、いけ花関連の知識が得られるはずですが、聴講者が100名を超えることは滅多にないのです。昨年は大手流派のお家元に発表していただきましたが、聴講者が飛躍的に増えるということはありませんでした。私たちの広報の努力が不足なのかもしれません。

「外国人に生け花を教える困難」として書いてきたテーマからは少し外れた事柄になりましたが、「国内、海外での文化としての生け花への関心」については、少々心許ない、といったところが現状でしょうか。今後も検討していきたいところです。

次回では「自由花をどう紹介すればいいのか」ということに関し、私からの提言をひとつふたつ、書いてみようかと思います。




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