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映画公開目前! コミックで楽しむ『ブラックパンサー』の世界


2022年10月20日ごろ発売
『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』
レジナルド・ハドリン[作] ケン・ラシュリー[画]中沢俊介[訳]

いよいよ公開が来月に迫ったMCU映画最新作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。ティチャラ亡き後、果たして誰が後継者になるのか非常に気になるところですが、この記事ではブラックパンサー/ティチャラと彼の妹であるシュリのコミックでの簡単な歴史と、オススメのタイトルをまとめて紹介していきます!

文:傭兵ペンギン

ブラックパンサー/ティチャラ

コミックでのティチャラはアフリカの国ワカンダの王であり、特殊なハート型のハーブを摂取することで豹の女神バースト(バステト)と繋がりを持ち、超人的な身体能力や反射神経を得ているスーパーヒーロー。また科学・物理学にも精通し、ワカンダが産出する貴重な金属であるビブラニウム製の装備を使って戦うというキャラクター。映画とコミックでは細々変わっている設定はありますが、イメージとそこまで大きな差はありません。
 
ティ・チャラがコミックで初めて登場したのは1966年の『Fantastic Four』#52。その号では、ファンタスティック・フォーの面々を謎めいたアフリカの国ワカンダに招待し、彼らに奇襲をしかけて圧倒。新たな強敵になるのかと思いきや実はファンタスティック・フォーの実力を図ろうとしていたのだったという、インパクトのある初登場を果たしました。

 そしてファンタスティック・フォーの協力を得て、ティ・チャラは父の仇であるユリシーズ・クロウを倒し、スーパーヒーローとしての活動を開始。ここからいろいろなコミックにゲストとして登場し、アベンジャーズのメンバーともなり、マーベルの主要なヒーローの一人となっていきます。
 
ちなみにデビュー直後の#54はティ・チャラがファンタスティック・フォーと野球をやってるところから始まり、彼らがすっかり仲良くなった様子が描かれ、味わい深いものとなっています。
 
この段階でブラックパンサーはメインストリームのコミックの中で初めて登場した黒人のスーパーヒーローになり、ここからマーベルはファルコンなどの黒人ヒーローを徐々に増やしていきます。またDCコミックスでもブラックレーサーやジョン・スチュワート(グリーンランタン)といった黒人ヒーローたちがデビューを果たしていったのでした。

ブラックパンサーVS.クー・クラックス・クラン

そして1973年の『Jungle Action』#5からライターのドン・マクレガーによる単独シリーズがスタート。名前こそジャングル・アクションとなっていますが、アフリカだけでなくアメリカのコンクリート・ジャングルをも舞台にブラックパンサーが様々な悪と戦う姿が描かれていきます。

 中でも#19から#24まで続く「Panther vs. the Klan」ではタイトル通りブラックパンサーが現実の世界にも存在する白人至上主義団体であるクー・クラックス・クランと戦うというストーリーで、当時はその題材が物議を醸したようですが、人種差別に反対する強烈なメッセージを持った作品であり、アクション満載でブラックパンサーのかっこよさを存分に味わえる屈指のコミックとなっています。非常に残念ながら邦訳版は出ていませんが、とりあえずブラックパンサーのクラシックなタイトルを読みたければ、まずこれをオススメしたい!
 
またこのアークは当時マーベル/DCではまだかなり少なかったアフリカ系アメリカ人のコミックア―ティストであるビリー・グラハムがペンシラーを担当しており、その力強いアートも大きな魅力の一つ。


MCU版の元ネタになったコミック

それからも定期的にブラックパンサーが主人公のタイトルが出版され続けていきます。その中でも映画のファンにオススメしておきたいのが、1998年からマーベルの大人向けレーベルである、マーベル・ナイツの中で始まったクリストファー・プリーストによる『The Black Panther』
 
MCUでもおなじみのエヴェレット・ロスやドーラ・ミラージュたちが初登場したシリーズであり、メインのヴィランであるハンターことホワイトウルフはティチャラの義兄でMCU版のキルモンガーの元ネタになったキャラクター(名前はバッキーのあだ名に引用されていましたね)。また、ビブラニウムが編み込まれたスーツやキモヨ・ビーズの元ネタのキモヨ・カードなどの装備が初登場したのもこのシリーズ。
 
ストーリー的にも映画で直接的に引用されてる展開がある一方で、キルモンガーが武力ではなく経済的な攻撃でワカンダを追い込んでいったり、ティ・チャラが一時引退して若き警官キャスパー・コールがその後を継承する展開があったりと、読者を飽きさせない展開が5年にも及んだシリーズの中にぎっしり詰まっています。王であり科学者でありスーパーヒーローであるティ・チャラを見事に描き切りながら、シリアスさとコミカルさの塩梅も絶妙で、個人的にはブラックパンサーで一押しのシリーズです。

天才的な頭脳を持つティチャラの妹、シュリ

それからその次のシリーズであるレジナルド・ハドリンによる2005年の『Black Panther』#2で、ついにシュリが初登場を果たします。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で主人公となり、ブラックパンサーの後継者になるのではないかと言われているシュリですが、実はコミックではすでにティチャラの代わりにブラックパンサーを努めていたことのあるキャラクターなのです。

 設定自体はブラックパンサーと同じくMCU版とあまり変わらず、ティチャラの妹であり、天才的な頭脳の持ち主で科学者/発明家として優れた才能を持つという人物。
 
その初登場回は、ブラックパンサー/ティチャラの誕生秘話を語り直した「Who Is The Black Panther」というアークの中のエピソードのうちの1つで、ブラックパンサーを継承しようと訓練を重ねていたものの、儀式での戦いでティ・チャラに先を越され継承する機会を失っているというストーリーでした。
 
このシュリの初登場のエピソードはShoPro Booksから刊行中の邦訳コミックの電子版『ブラックパンサー:暁の黒豹』に収録。また、『暁の黒豹』は上で紹介した『Fantastic Four』でのブラックパンサーの初登場回も収録されており、とりあえずまず何を読もうか悩むという人には手にとってもらいたい一冊です!

その後、引き続きレジナルド・ハドリンが担当した2009年から始まった『Black Panther』誌で、ティ・チャラがドクター・ドゥームに襲撃されて昏睡状態となり、シュリは当時のティチャラの妻で女王のオロロ(X-Menのストーム)によってパンサーの後継者に指名され、試練を経てパワーを獲得し、ブラックパンサーとして活動を始めます。
 
こちらの一連のエピソードはShoPro Booksから10月20日発売の『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』に収録。『ブラックパンサー/ワカンダフォーエバー』に登場予定のネイモアも(ちょっとだけ)登場しており、もしかすると映画で引用される部分があったりするかも……?

ブラックパンサーと謎の会合を行うネイモア
『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』
レジナルド・ハドリン[作] ケン・ラシュリー[画]中沢俊介[訳]

その後、シュリはワカンダの指導者としてのブラックパンサーの仕事を続けた一方で、意識を取り戻したティチャラは一時期ヘルズ・キッチンでブラックパンサーとしてヒーロー活動をしています。しばらく二人のブラックパンサーがいる状態が続きました。
 
しかし、その後シュリは2015年のストーリーアーク「Time Runs Out」の中で、ティチャラを救うために命を落としますが、2016年に復活。それをきっかけにブラックパンサーとしてのパワーは失いつつも、超常的なパワーが使えるようになるのでした。
 
2018年には単独シリーズの『Shuri』がスタートし、以降キャラクターやデザインがMCU版にグッと近いものになりました。もしも『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でシュリがブラックパンサーの後継者になったら、コミックのシュリも(また)ブラックパンサーになるのかどうかはコミックのファンとしては気になるところだったりしますね。
 
一方でMCUでは演じた俳優のチャドウィック・ボーズマンの訃報を受け、ティチャラも亡くなったこととなりましたが、コミックのティチャラは活躍を続けています。
 
特に注目なのが2018年のタナハシ・コーツの『Black Panther』。記憶を失いワカンダ銀河帝国(ティチャラによって宇宙に送られた探検家たちが時空を越えて過去にたどり着き建国した国)の奴隷となったティチャラが悪の皇帝を相手に宇宙で戦いを繰り広げ姿と共に、非常に政治的なテーマを描くという超奇抜な展開で、今までとはちょっと違う変わり種を読みたい人に、オススメです!

果たして映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』がどんなストーリーになるかはまだまだわかりませんが、公開までの間にブラックパンサーのコミックを読んでより深く楽しんでみてはいかがでしょうか。

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
@Sir_Motor

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