【おしえて!キャプテン】#28 スタジアムのスーパーヒーローたち
キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回はWBC開催によって日本でも大盛り上がりとなった「野球とアメコミ」をテーマにご執筆いただきました。
アベンジャーズ……プレイボール!
ただいま世間は、ワールド・ベースボール・クラシックス(WBC)の優勝で盛り上がってますね! 自分は見る余裕がほとんどなかったのですが、これを機会に今回は、スーパーヒーローコミックスと野球の話でお送りしたいと思います。アメリカと野球といえば切っても切り離せない関係ですから、ヒーローコミックにも様々な形で登場します。
これはかつて、東海岸のアベンジャーズと、西海岸のウエストコースト・アベンジャーズの2つのチームがあった頃の話です。2つのチームは親睦のため、毎年恒例で東西対抗の野球大会を開く習慣を作りました(長続きはしなかったようですが)。
1986年の『アベンジャーズ・アニュアル』#15と『ウエスト・コースト・アベンジャーズ・アニュアル』#1、そして1987年の『ウエスト・コースト・アベンジャーズ・アニュアル』#2と『アベンジャーズ・アニュアル』#16が、それぞれ野球大会を導入とする2つのクロスオーバー・ストーリーになっています。
1986年の『アベンジャーズ・アニュアル』#15、『ウエスト・コースト・アベンジャーズ・アニュアル』#1の試合は、スーパーヒーローたちの珍プレー・好プレーが続くのどかな(?)雰囲気で進んでいました。ホームランになるはずの打球を、当時のキャプテン・マーベル(モニカ・ランボー)が空を飛んで止めたり、ハーキュリーズが地割れを起こして走塁を妨害したり……。ところが、試合の途中で政府の超人チーム、フリーダム・フォースが乱入してきます。そしてアベンジャーズを政府に告発した裏切り者は誰だ?……という展開が始まりました。
1987年の『ウエスト・コースト・アベンジャーズ・アニュアル』#2、『アベンジャーズ・アニュアル』#16はさらにスケールが大きくなり、2つのアベンジャーズは宇宙的存在グランドマスターの陰謀に巻き込まれ、死後の世界まで旅立つことになります。こちらのクロスオーバーは前年からさらにパワーアップしており、アベンジャーズに相応しい壮大なスケールで、アートもかなり読み応えのある話です。
昔は、マーベル編集部とDC編集部のあいだで定期的にソフトボール大会が開かれていた時代があったそうです。東西アベンジャーズの交流試合もその辺から来ている発想だったのかもしれません。かつてのマーベル編集長ジム・シューターは、DC側が勝ちにこだわるあまり、本物の野球選手を自チームに混ぜていたのを見破ったとか……。
ヒーローとヴィランの野球対決回
上記の東西アベンジャーズのソフトボール大会は、あくまでお話の導入という感じでした。しかし、こちらの1976年の『DCスーパースターズ』#10では、DCコミックスのヒーローとヴィランたちがガッツリ野球で対決します。事の発端はヴィラン夫婦のスポーツマスターとハントレス(現在のハントレスとは別で、ヴィランのキャラクター)の夫婦喧嘩でした。
「悪人はいつも負けるんだし、あたしはヒーローの側に加わる!」と言い出したハントレスに対して、スポーツマスターは「悪人だって勝つことはあるさ! ヒーローとヴィランをそれぞれ集めて、野球大会を開いて証明してやる!」と返します。様々な手段でさらわれてきたヒーローたちは、観客を人質に取られて渋々試合に応じることに……。結果的に、途中までいい勝負をしながら9回表でスーパーパワーが解禁されため、試合はメチャクチャになります。最後はプラスチックマンのイカサマによってヴィランチームの負けでゲームセット! めでたしめでたし…。最初から最後まで、何を言ってるのか全くわからない話ですが、とにかく楽しいのは間違いありません。
スパイダーマンとニューヨーク・メッツ
どのスポーツチームのファンであるかは、そのイメージによってキャラクター造形そのものにも影響を及ぼします。
スパイダーマンことピーター・パーカーは、ヒーローの中でも特にニューヨーク気質の強いタイプですが、彼はニューヨーク・メッツのファンとして知られています。これが正史の設定として確立されたのは、『ピーター・パーカー:スパイダーマン』#33のことです。この号では、ピーターが子供のころにベンおじさんにメッツの試合に連れていってもらった思い出が語られました。
ピーター本人の弁によるとメッツについて「たまにマグレで勝利を収める、愛すべき負け犬」であるところに共感するそうです(これは昔のイメージで、近年のメッツは強くなってるのですが……)。そして、ピーターがベンおじさんの命日にメッツの試合に出かけ、思い出を偲んでいる姿が描かれました。現実のニューヨークとのつながりが強いスパイダーマンならではの、共感を呼ぶエピソードと言えます。
その一方で、メイおばさんはボストン出身なのでレッドソックスのファンだったりします。レッドソックスと言えば、ニューヨーク・ヤンキースとのライバル関係が有名ですね。メイおばさんがボストンへ引っ越す際の餞別に、ピーターはレッドソックスの帽子をプレゼントします。
「(ニューヨークの)クイーンズでこんなの被ってたら殺されちゃうわ!」と感動しつつ冗談めかして反応するメイおばさん。日本でも「巨人帽を被って阪神電車に乗るような命知らず」というジョークがありますが、そのアメリカ版というところでしょうか。
ちなみに筆者は実際に、ヤンキース・スタジアムにレッドソックスのTシャツを着て観戦に行ったことがありますが、当然ですが絡まれたりはしませんでした。もっとも、「ニューヨーカーはそんなことしないけど、逆にボストンでヤンキースのシャツ着てたら、絶対知らない人に冷やかされるぞ」と脅かされもしましたが……。
ちなみに、スパイダーマンとメッツの関わりはもっと前まで遡れます。1970年代に放映されていた教育番組『エレクトリック・カンパニー』ではスパイダーマンを主人公とする寸劇が放映されていましたが、この中でメッツを応援に行く話がありました。
スパイディは、打球の判定を勝手に変えてしまう壁怪人、“ザ・ウォール”を止めようとするのですが、審判(なんと若き日のモーガン・フリーマンが演じてます)に追い出される……幼児向け番組とは言え、先ほどの『DCスーパースターズ』同様、なかなか理解が追いつかないエピソードです。
野球は「アメリカの国民的娯楽(America's favorite pastime)」とも呼ばれるスポーツですので、ヒーローコミックとの関わりも自然と深くなります。皆さんも好きなキャラクターがプロスポーツに言及している場面をチェックしてみると、面白い一面が発見できるのではないでしょうか?
今回参考にしたブログでは、ポップカルチャー内における野球の(変な)言及についてさらにまとめていますので是非参考にしてください。
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