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【映像化公開記念】新ヒーロー“ブルービートル”の誕生秘話と魅力に迫る!

2023年8月、DCユニバースから初のラテン系アメリカ人のスーパーヒーロー『ブルービートル(原題:Blue Beetle)』の映画が米国で先行上映予定されます。
DCエクステンデッド・ユニバースが完結し、そして新たな新章へと突入するDCユニバース。DCスタジオCEOジェームズ・ガンは「新DCUの最初のキャラクターは間違いなくブルービートル」と断言! その大注目の新ヒーローの魅力を、今回は8月24日刊行『ブルービートル:青い衝撃』翻訳者の中沢俊介さんにご紹介いただきます!


2023年8年月発売『ブルービートル:青い衝撃』書影 (キース・ギフェン、ジョン・ロジャース[作]カリー・ハムナー[画] 中沢 俊介[訳])

文:中沢俊介(アメコミ翻訳者)


主人公ハイメ・レイエスのルーツ

コミック『ブルービートル:青い衝撃』の主人公ハイメ・レイエスは“ヒスパニック”という民族に属しています。ヒスパニックとは、アメリカではラテンアメリカ出身のスペイン語を話す人々を意味して、そのルーツをたどると主にメキシコ、次いでプエルトリコやキューバが多くを占めます。
ハイメ・レイエスがDCコミックスの世界に登場したのは2000年代中盤。一方、アメリカにおけるヒスパニックは、2000年に黒人の人口を上回り、最大のマイノリティー集団になりました。

文化面から当時を思い起こすと、音楽業界では2000年より、グラミー賞から分かれて、“ラテン・グラミー賞”が独自に開催されるようになりました。また、プエルトリコ生まれの音楽“レゲトン”の大流行は2004年ごろからで、映画業界でも、メキシコからの移民を扱ったアダム・サンドラー主演の『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』が2004年に公開されました。

ハイメの登場は、ヒスパニックの存在感が高まってきた当時のアメリカでの状況を反映しているように思えます。


ブルービートルを取り巻く人々

現在見られる映画予告編では、ハイメ・レイエスとにぎやかな家族の関係がとても印象的です。それではコミックでは、どんな人々がハイメを取り巻いているのでしょうか?

家族

ハイメがブルービートルであることを家族に打ち明ける場面

メキシコからの移民で、テキサス州エルパソで自動車修理工場を経営する父親エルネスト(のちにアルベルトに変更)、看護師の母親ビアンカ、妹ミラグロの4人家族。ハイメと家族の絆は、コミックでも重要な要素になっています。ちなみに、映画では架空の都市パルメラシティが主な舞台になるようです。

友人

幼なじみである優等生の少女ブレンダと不良少年パコが、定番キャラクターとして登場します。

ポッセ

エルパソを根城にする愚連隊。それぞれ特殊な能力を持ち、そのせいで社会の枠組みから外れた若者たちで、地域を守るためにハイメと手を組むことがあります。設定が変わって、人間離れした外見をしている時期も。

ラ・ダーマ

エルパソの裏社会をひそかに牛耳る顔役。正体は謎に包まれていますが、実はハイメの友人とつながりがあり、そのために単なる悪役として割り切れない、複雑な立場のキャラクターになります。

リーチ

昆虫に似た異星種族。ハイメにブルービートルとしての力を与える虫型の石のような“スカラベ”の開発者。コミックにおいては、太古から存在する種族で、宇宙の平和を守るグリーンランタンとただならぬ因縁があります。


3人のブルービートル?

コミックにおいて、ハイメ・レイエスは“3代目ブルービートル”とされています。つまり、彼の前に2人のブルービートルがいたことになります。そこで、それぞれがどんなキャラクターなのか、ご紹介したいと思います。

初代ブルービートル
本名ダン・ギャレット。コミック上での初お目見えとなったのは、フォックス・コミックスの『ミステリーメン・コミックス』#1(1939年8月号)。初期には鎖かたびらのような青いスーツで変装した警官でしたが、出版社を変えて、1964年にチャールトン・コミックスから新作が刊行された際、遺跡でスカラベを手に入れた考古学者が、“カージ・ダー”という呪文を唱えて変身する設定になりました。
変身の呪文だった“カージ・ダー”は、のちにスカラベ自身の名前になります。

2代目ブルービートル
本名テッド・コード。彼が初めて姿を見せたコミックはチャールトン・コミックスの『キャプテン・アトム』#83(1966年11月号)。初代ダン・ギャレットの元教え子で、その遺志を継いだ設定でした。魔法のスカラベは使わず、虫型の航空機バグや非殺傷性のBB銃など、種々の発明品を駆使して悪と戦います。1980年代にDCコミックスの所属になった際、ジャスティス・リーグの一員にもなりました。しかし、『カウントダウン・トゥ・インフィニット・クライシス』#1(2005年5月号)でヴィランに射殺されてしまいます(のちに復活)。
ちなみに、映画の予告編に登場した、スカラベを手に入れようとする女性(演じるのは名優スーザン・サランドン)の名前は、ビクトリア・コード。テッド・コードとの関係が気になるところです。さらに、ブルービートルと戦う、彼女の手下カラパックスも、テッドがDCコミックスで活躍するようになったころの宿敵の一人でした。

3代目ブルービートルの歩み
今回発売されるコミック『ブルービートル:青い衝撃』の主人公ハイメ・レイエスは、2005年の『インフィニット・クライシス』(ヴィレッジブックス刊)で、3代目ブルービートルとして初登場を飾りました。
同作では、3代目になって早々、なしくずしに他のヒーローと一緒に宇宙で戦う羽目になり、なんとか勝利に貢献したものの、なぜかスカラベはグリーンランタンから逃れようとして、ハイメとともに姿を消して行方不明に……そこから本書の物語が始まります。
また、新米ヒーローであるハイメは、本書の物語と並行して、若手ヒーローのチーム、ティーン・タイタンズに加入します。さらに、2010年のシリーズ『ジャスティス・リーグ:ジェネレーション・ロスト』でジャスティス・リーグ系チームの一員になり、キャラクターとして根付いていきました。

2011年に“ニュー52”として、DCコミックスの作品世界が大々的に仕切り直しされると、3代目ブルービートルの主演雑誌が再び創刊され、彼はエルパソからニューヨーク、さらにリーチやスカラベの母星まで転々としました。2016年に新たな出版体制“DCリバース”が始まった際にも、彼の主演雑誌が立ち上げられ、復活した2代目ブルービートルとのコンビが確立されました。

最近の動きとしては、2022年11月から全6号で刊行された『ブルービートル:グラデュエーション・デイ』で、卒業後の進路に迷うハイメの前に、黄色や緑色の“ビートル”が現れ、キャラクターの設定がさらに深められました。同作の展開を引き継ぐかたちで、今年の9月には新しい主演雑誌の創刊が予定されています。


ハイメ・レイエスの生みの親は?

アメリカのコミック業界は分業体制が確立していて、ブルービートルの物語は、初代から3代目まで、さまざまな作家によって書き継がれています。ハイメ・レイエス版ブルービートルについては、本書にも関わった以下の3人による共同考案になります。

ジョン・ロジャース [作]
主に映像業界で活躍する脚本家。テレビアニメ『ジャッキー・チェン・アドベンチャー』、テレビドラマ『レバレッジ~詐欺師たちの流儀』、さらに『トランスフォーマー』『キャットウーマン』『ザ・コア』といった映画に関わっています。本書の立ち上げから、物語が一つの区切りを迎えるまでの約2年間、脚本の中心的な存在として、ハイメ・レイエスの人物像を固めました。

キース・ギフェン [作]
作画、原作、ページ構成など、さまざまな分野で長年コミック制作に携わるベテラン。1980年代の『リージョン・オブ・スーパーヒーローズ』『ジャスティス・リーグ・インターナショナル』や、ロボ、アンブッシュ・バグといった個性的なキャラクターの考案でも知られています。本書の脚本に関わったのはおよそ1年弱ですが、その後DCリバースの時期にハイメ版の新シリーズ立ち上げに関わりました。

カリー・ハムナー [画]
2010年に映画化された『RED/レッド』の原作コミックで作画を手がけています。寡作ながらも独特の造形感覚が光る作風で、他の担当コミックとしては『ブラックライトニング:イヤーワン』『グリーンランタン:モザイク』などがあります。

日本ではまだなじみが薄いながらも、家族や仲間を大事にする人柄も、変身時のガジェット感も魅力的な3代目ブルービートル。
映画の日本公開を待ちつつ、彼の活躍が満喫できる本書をぜひお読みいただきたいと思います。
8月24日発売の新刊『ブルービートル:青い衝撃』をどうぞお楽しみに!


中沢俊介[訳]…翻訳家、ライター。主な訳書に『ドゥームズデイ・クロック』『バットマン』シリーズ(ともに小社刊)などがある。


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