『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が何倍も楽しくなるコミックガイド ※映画のネタバレあり
本国から少し遅れてついに日本でも公開となった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。何を言ってもネタバレになる、とにかくスゴすぎる作品で、スパイダーマンのことがもっと知りたくなったという人も少なくないはず。
そこで今回はそんな方々のために、映画『ノー・ウェイ・ホーム』の元ネタになった作品や関連性の高い作品などをまとめてご紹介いたします。
この記事は映画の内容をガッツリ語りながら解説する「ネタバレあり」な内容になるため、まず劇場で映画本編を見てからこのガイドをお読みください!
文:傭兵ペンギン
問題作『ワン・モア・デイ』
まずは今回の映画のあらすじをおさらいしましょう。
これはなんといってもJ・マイケル・ストラジンスキーの2007年のコミック『スパイダーマン:ワン・モア・デイ』(邦訳版はShoPro Booksより刊行)と、その直前のクロスオーバーイベント「シビル・ウォー」の関連作『アメイジング・スパイダーマン:シビル・ウォー』(邦訳版はヴィレッジブックスより刊行)の影響が強い展開でした。
このあらすじからも『ノー・ウェイ・ホーム』が『シビル・ウォー』〜『スパイダーマン:ワン・モア・デイ』をだいぶ参考にしていることがわかるはず。実はこのストーリーアークは、結婚まで至ったピーター・パーカーとメリー・ジェーンのストーリーをリブートしようとしたもの。当時の編集長で同作のアートを担当するジョー・カザーダが打ち出したアイデアです。
しかしそのやり方は、いきなり悪魔が出てきて物事を解決しつつ重要なところは語らない……という謎の多いハチャメチャなもので、当時は酷評され、かなりの問題作となりました。しかしその一方で、最近の展開にも繋がったりと、スパイダーマンを語る上で避けては通れない物語となっています。
ちなみに、この頃のスパイダーマンは『ノー・ウェイ・ホーム』にも登場したトビー・マグワイア版の映画『スパイダーマン』シリーズと同じく(というか、おそらく映画の影響で)ウェブを体内で作って発射できる能力を手に入れていたのですが、これも『ワン・モア・デイ』の後に消えることとなりました。
『ワン・モーメント・イン・タイム』
そして『ワン・モア・デイ』を生み出したジョー・カザーダがライターとして参加している『スパイダーマン:ワン・モーメント・イン・タイム』(邦訳版はShoPro Booksより刊行)。刊行順としては後述の『ブランニュー・デイ』より後なのですが、ストーリーとしては『ワン・モア・デイ』での出来事を改めて語り直し、「どうしてスパイダーマンの正体をみんなが忘れたのか?」といった『ワン・モア・デイ』では語りきられなかった疑問を説明していくというもの。
映画の「スパイダーマンの正体をみんなが忘れる呪文」はこの物語からの直接の引用ですが、それが招く結果は同じではなくよりメロドラマ調で、映画との違いが際立って見えるはず。
『ブランニュー・デイ』から始まるダン・スロットのスパイダーマン
そして『ワン・モア・デイ』(と時系列的には『ワン・モーメント・イン・タイム』)に続く2008年の『スパイダーマン:ブランニュー・デイ』(邦訳版はShoProBooksより刊行)は数々の苦労と悲しい結末を越えてなんとかシークレットアイデンティティを取り戻したスパイダーマンが、新たな生活を開始するストーリー。
映画で直接的な引用がされているわけではないものの、ピーターが置かれている状況は『ノー・ウェイ・ホーム』の結末にかなり近く、今回の映画がきっかけでスパイダーマンのコミックが気になったという人にはそのスタート地点としてオススメしたいストーリーです。刊行当時も設定を一旦リセットして新規読者を獲得することが狙いだったこともあり、ビギナーにも読みやすいものとなっています。
このストーリーのライターの一人を努めているダン・スロットは、ここから2018年まで(一時別の作家が担当することもあったものの)の約10年もの長さに渡って『The Amazing Spider-Man』誌を担当し、コミックのみならずスパイダーマンのゲーム作品『Marvel's Spider-Man』や『 Spider-Man: Shattered Dimensions』にも関わっていった人物。
そして彼は2014年にスパイダーマン関連誌のクロスオーバーイベント『スパイダーバース』(邦訳版はヴィレッジブックスから刊行)をスタート。同名のアニメ映画もあるのでご存じの方も多いとは思いますが、このイベントでは様々な多元宇宙からスパイダーマンが大集結するという展開で、『ノー・ウェイ・ホーム』でもそこが映画シリーズのスパイダーマンが集結するという形で再現されていましたね。
また、『ブランニュー・デイ』の次のストーリーアークとしてダン・スロットが手掛けた『ビッグ・タイム』(未邦訳)にも要注目。スパイダーマンはJ・ジョナ・ジェイムソンの妻がヴィランに殺されたことをきっかけに、「自分が近くにいる限り、たとえヴィランであっても絶対に死なせはしない」という誓いを立てたものの、その結果として大変な苦労をすることとなります。これはダン・スロット期の中でも評価が特に高いエピソードで、彼が担当していた時期の根幹ともなる”誓い”であり、こちらも今回の映画に影響を与えていた部分かも(ストーリーは単行本『Spider-Man: Matters of Life and Death』に収録/未邦訳)。
『ノー・ウェイ・ホーム』のラストでピーターがグリーン・ゴブリンをひたすら殴打するところは印象的でした。個人的にはこの場面で、レッド・ゴブリン(カーネイジのシンビオートが取り付いたノーマン・オズボーン)との最後の戦いでも殴り合いに持ち込んだ「ぶん殴り重視」なダン・スロットのスパイダーマンの味を感じました。
とにかくダン・スロットはスパイダーマンのコミックにおける重要な作家であり、スパイダーマンのコミックを読みたくなったらとりあえず(幸い邦訳も結構出ているので)彼の作品を読んでみることをオススメします。
ダン・スロットの魅力を語りだすとまた別の記事が必要になるのでこのくらいにしておきますが、ShoPro Booksからは、『スパイダーマン:ブランニュー・デイ』の1と3の他、その直接の続きである2008年の『スパイダーマン:ニューウェイズ・トゥ・ダイ』、2011年の『スパイダーマン:スパイダーアイランド』、2017年の『スパイダーマン:ヴェノム・インク』が刊行済みです。
ステイシーの悲劇
アンドリュー・ガーフィールド版ピーター・パーカーが落下するMJを救うのは『ノー・ウェイ・ホーム』の名シーンの一つでした。このシーンに繋がるのは2014年の映画『アメイジング・スパイダーマン2』ですが、この『アメスパ2』で描かれたグウェン・ステイシーの死は1973年の『Amazing Spider-Man』誌の#121で描かれたエピソードがベースになっていました。
実はグウェンは、コミックではグリーン・ゴブリンによって橋から落とされて殺されており、それ自体はトビー・マグワイア版の映画『スパイダーマン』でメリー・ジェーンが橋から落とされるシーンで引用されています。彼女の死は本当に悲しいストーリーではありますが、スパイダーマン映画3シリーズで使われたほど重要なエピソードなので、歴史を知っておきたい人は要チェック。こちらは関連エピソードを含め『スパイダーマン:ステイシーの悲劇』(ShoPro Books刊行)に収録されています。
メイおばさん復活の可能性は?
一方で衝撃的だったのがメイおばさんの死です。これはコミックでは『The Amazing Spider-Man』誌の#196(1979年)と#400(1995年)で2回展開済み(また『ホワット・イフ?』などの派生作品でも何度か死んでいます)。前者は実はミステリオが死を偽装していた、後者は実はグリーン・ゴブリンが仕込んだ遺伝子改造によってメイのコピーとなった女優ということが明らかとなり、本物のメイは今のところ、死なずに元気に登場しています(これらのエピソードは現在未邦訳。)。映画のメイおばさんもこんなコミックでの展開を参考に復活したりして……?
またメイおばさんと言えば、『ノー・ウェイ・ホーム』では「大いなる力には大いなる責任が伴う」というおなじみのセリフを(トム・ホランド版では初めて)使いました。このセリフはスパイダーマンがコミックで初登場した1962年の『Amazing Fantasy』誌の#15で登場したもの。
これは今となってはベンおじさんの言葉ということになっていますが、実は初登場時はナレーションのコマに使われていたものでした。そんなスパイダーマンの歴史の始まりが見られる初登場エピソードはその他の7編とともに傑作選『ベスト・オブ・スパイダーマン』(ShoPro Books刊)に収録されています。
今回は一気にタイトルを紹介しましたが、とりあえず気になる作品からスパイダーマンのコミックに触れてみるとよいでしょう。ちなみに紹介したShoPro Books刊のタイトルはすべて電子版も発売中です!