【おしえて!キャプテン】#16 ドラマ「スーパーマン&ロイス」放送記念! 受け継がれる正義の意志――スーパーマンの子供たち
キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回は、2022年4月3日からNHKで放送が始まったドラマ「スーパーマン&ロイス」に関連して、「スーパーマンの子供たち」というテーマで執筆いただきました!
新ドラマ『スーパーマン&ロイス』
今月の4月3日からNHKにて放映が始まりました、「スーパーマン&ロイス」、もう皆さんもご覧になられたでしょうか?
スーパーマンことクラーク・ケント(カル=エル)が、永遠の恋人であるロイス・レーンと結婚して双子の父親となり、地球と家庭の平和を守る……というTVドラマです。元々、アメリカでの放映開始以来、アメコミクリエイター達からの評価が著しく高いので自分も非常に気になっていたシリーズでした。
第1話を観た感想ですが、スーパーマンならでは家族の苦労、お互いを気遣う兄弟、10代のメンタルヘルスといったつらさに加えて、超人らしいスーパーアクションも盛り込まれた大変面白い内容でした。
もう一つ重要に感じたのは、コミックだと「素朴なアメリカの善性のシンボル」として聖域化されがちだったスーパーマンの故郷、スモールヴィルの描き方です。衰退し治安も悪化するアメリカの過疎地域、いわゆる「ラストベルト」要素の取り込みや住人が抱く都会への反感など、非常に現代的な描き方になっていると感じました。これは当分、毎週日曜の楽しみができましたね。
『スーパーマン・スマッシュ・ザ・クラン』に登場したアトムマンも顔を出すということで、今後も大変楽しみです。
というわけで、今回はドラマに合わせ、「スーパーマンの子供たち」というテーマでお送りしようと思います!
思ったより多い子供たち
……と思いついて調べだしたら、血縁・養子・クローン・あり得る未来……をすべて含めると「スーパーマンの子供」はかなり膨大な数がいることがわかり、頭を抱えてしまいました。
なぜそんなに数が多いかというと、特に1960年代から1970年代にかけて盛んだったのですが、DCコミックスは「イマジナリー・ストーリーズ」と称して、通常の歴史や世界設定から離れた自由な展開の話を刊行していたからです。
もっとも、「イマジナリー・ストーリーズ」というタイトルがあったわけではなく、例えば普段の『スーパーマン』誌の出だしに時々、「これはイマジナリー・ストーリーだ!」といった注意書きを載せてから、前後の歴史と関係ない話が掲載されていました。
例えば、「この話では、もしスーパーマンとロイスは結婚していたら…という世界の話だ」と言った形ですね。この伝統はその後、『ダークナイト・リターンズ』のような”非正史”のコミック、『キングダム・カム』『ゴッサム・バイ・ガスライト』のような「エルスワールド」へとつながっていきます。また、マーベルの『ホワット・イフ?』もその影響下にあります。
余談ですが、スーパーマンがスーパーマン・レッドとスーパーマン・ブルーの2人に別れる90年代のエピソードも、1963年の『スーパーマン』#162に掲載されたイマジナリー・ストーリーズが元ネタです。
こうしたイマジナリー・ストーリーズの中でも、スーパーマンに父性の象徴が託されていたからなのか、あるいは彼とロイスとのロマンスが本編の軸だったからなのか、もしスーパーマンが子供をもうけたら……?という題材は一定の人気があるテーマだったようです。その結果、多くの「スーパーマンの子供」が誕生したようですね。
同じくイマジナリー・ストーリーですが、バットマンとスーパーマンの両方が登場する『ワールズ・ファイネスト』誌では、スーパーマンJr.(クラーク・ケントJr.)とバットマンJr.(ブルース・ウェインJr.)のストーリーが何話にもわたって展開されていました。ここでは偉大な父親達に反発する若き「世界最高のコンビ」の物語が描かれます。日本語版も出ている『スーパーサンズ』シリーズの刊行に併せて、これらのストーリーも復刻されてアクセスしやすくなりました。
スーパーマンの物語には色々な側面があります。「クラーク・ケント/スーパーマン/正体を知らないロイスの三角関係」は根強いテーマですが、「父親としてのスーパーマン」というテーマにも、時代を越えて訴えかけるものがあるのでしょう。「アメコミの神話性」という表現を、定義がはっきりしないので自分は極力使わないようにしているのですが、長い歴史のあいだに人気のあるテーマが繰り返されて定着するという現象は、実際の神話と似てなくもありません。
正史に関わってきたスーパーマンの子供たち
そうは言っても、珍奇なスーパーキッズばかり紹介しても仕方がないので、ある程度有名だったり、正史に関わってきたりしたスーパーマンの子供たちを紹介していこうと思います。
スーパーボーイ(コナー・ケント/コン・エル)
1993年に”新スーパーボーイ”として登場したコナー・ケントは、スーパーマンの遺伝子と人間の遺伝子を融合させて生まれたクローンです。人間の遺伝子はスーパーマンの宿敵、レックス・ルーサーが提供したものということが後にわかり、ドラマを内包したキャラへと育ちました。
スーパーマンに準ずる能力に加えてテレキネシスなど独自の能力を持ち、ヤング・ジャスティスやティーン・タイタンズなどで活躍しています。2011年に「ニュー52」で設定が刷新された際には、別次元のスーパーマンとロイスの息子、ジョナサン・レーン・ケントのクローンとされており、そのジョナサンにしばらくスーパーボーイの座を取られていたこともあります。2019年以降は、旧来のスーパーマン/ルーサーのクローンという設定でDCユニバースに改めて復帰しました。
もっとも、こうしてここに挙げてはいますが、彼の場合はスーパーマンのクローンなので、子供と言えるかは怪しいところです。作中では兄弟あるいは従兄弟のような関係と描かれているように見受けられますね。日本語版では『スーパーマン:エンペラー・ジョーカー』などに登場しています。
スーパーガール(サー・エル)
2003年に「未来から来た、クラーク・ケントとロイス・レーンの間に生まれた娘」を名乗って登場したスーパーガール。その正体は、未来のブレイニアックがクリプトンのDNAと人間を融合させて誕生させた存在でした。日本語版では『スーパーマン/バットマン:パブリック・エネミー』(ヴィレッジブックス刊)に、上記のコナー・ケントと共にちらっと登場しています。
当時の『スーパーマン』誌の展開の鍵を握る存在だったのですが、同時期にリンダ・ダンバースのスーパーガールが活躍していたこともあってか、登場期間は短めに終わりました。
ジョナサン・ケント(キングダム)
1996年の名作『キングダム・カム』の最後で、スーパーマンとワンダーウーマン、そしてバットマンの3人が未来を託す子どもの存在が示唆されました。1998年から1999年に、続編的位置づけの作品『キングダム』が刊行されるのですが、そこで描かれたのが、成長し時空全てに偏在する守護者となったその子供ジョナサンです。
同作では、DCコミックスの全並行世界と歴史の分岐全てを包括する概念、ハイパータイムが導入されました。そのためか、資料によってはジョナサンは「ハイパーマン」と呼称されることもあります。その後、DCの多元宇宙観として、2005年の『インフィニット・クライシス』、そしてそれに続く『52』で「52マルチバース」が打ち出されたためか、このハイパータイムの設定は一時期影を潜めました。しかし近年になって『ジャスティス・リーグ:破滅の凱歌』で再び打ち出されています。
クリス・ケント(ロー・ゾッド)
2006年から2008年に展開された『スーパーマン:ラスト・サン』で登場したクリプトン人の少年です。クラークとロイスの保護を受けるのですが、その正体はクリプトン星の犯罪者ゾッド将軍の息子であることが判明しました。
その後は、2008年から始まった巨編クロスオーバー「ニュー・クリプトン・サガ」に登場します。こちらでは急成長した姿で登場し、太陽系に新たに生まれたクリプトン人の星ニュー・クリプトンで、謎のヒーロー「ナイトウィング」を名乗って活躍します(ナイトウィングの名前は、もともとクリプトン星の伝説の英雄あるいは神に由来しているという設定に基づきます)。
2016年の「DCリバース」以降は、クラークとロイスに育てられた歴史がなかったことになったせいか、悪ガキヴィランに転向しました。両親と共に家族ヴィランになったり、スーサイド・スクワッドで活躍しています。
ラーラ・ケント
2002年の『ダークナイト・ストライクス・アゲイン』(『バットマン:ダークナイト』収録)で登場した、スーパーマンとワンダーウーマンの間に生まれた娘です。生まれながらの超人であり、またアマゾンの間で育てられたため、スーパーマンの子供の中では異例の、超然とした性格の持ち主になっています。
2016年の『バットマン/ダークナイト:マスター・レイス』で、よりスーパーヒーローらしいあり方へと歩みだし、バットウーマン(キャリー・ケリー)と共に未来を託されることになります。
『マスター・レイス』の後は、2019年に発表された短編『ダークナイト・リターンズ:ゴールデン・チャイルド』に登場しました。
新スーパーマン、ジョナサン・サミュエル・ケント
おそらく、現在もっとも有名な「スーパーマンの子ども」がジョン・ケントでしょう。彼については少し詳しい紹介をしておいた方がよろしいかと思います。
ジョンが最初に登場したのは、2015年の大型イベント『コンバージェンス』の一環、『コンバージェンス:スーパーマン』#2での事です。『コンバージェンス』は過去のDCユニバースの各時代・宇宙が切り取られてブレイニアックによって保存されていた……という状況から始まる大事件でした。その中で、『フラッシュポイント』によって設定が一新される前の時代から来たスーパーマンとロイスのあいだに生まれたのがジョンだったのです。
『コンバージェンス』終了後、一家3人は正史のDCユニバースの中に組み込まれます。2015年の『スーパーマン:ロイス&クラーク』誌で語られた物語により、彼らが「『コンバージェンス』の事件ののち、実はDCユニバースの過去から隠れて暮らしていた」という形で導入されたのです。
2016年から始まった「DCリバース」で彼らは表舞台に出ることになります。日本語版の出ている『スーパーマン:サン・オブ・スーパーマン』『スーパーマン:トライアル・オブ・スーパーサン』『スーパーサンズ』『スーパーサンズ2』がこの時期のストーリーになります。
スーパーボーイとして活躍していたジョンに大きな転機が来るのが、2019年の『マン・オブ・スティール』、そして新創刊された『スーパーマン』誌での出来事です。
このとき、ジョンは祖父ジョー・エルに連れられて、宇宙を学ぶための旅行に連れて行かれました(スーパーマンの父ジョー・エルは死んでいたはずでしたが、惑星クリプトン崩壊の直前に、ある事情によってタイムスリップしていたのです)。しかしこの旅行の最中にジョンは、事故によって悪の世界アース3に数年間捕えられてしまいました。冒険の結果、なんとか地球に帰還するのですが、そのあいだ地球では3週間ほどしか経過していなかった……というわけで、『スーパーサンズ』の頃は11歳くらいだったジョンは、急成長したハイティーンとなって戻ってきます。
成長したジョンは30世紀の未来へと迎えられ、2019年の『リージョン・オブ・スーパーヒーローズ』誌で活躍します。リージョンはそもそも1958年にスーパーボーイ(クラーク・ケントの子供時代)の仲間として登場したので、父からの伝統を踏まえていることになりますね。
そして2021年、『スーパーマン』誌と『アクション・コミックス』で親子の継承の物語が語られてのちに、『スーパーマン:サン・オブ・カル=エル』誌が創刊されます。事情があって地球を長期に離れざるを得なくなったクラーク・ケントに代わり、ジョン・ケントがついにスーパーマンとなり、「終わりなき戦い(Never-Ending battle)」をここで引き継ぎました。
こうして見ると、いままで登場してきた「スーパーマンの子ども達」の多くはなかなか定着してこなかったか、あるいは非正史の存在として語られてきたのに対して、ジョン・ケントについては腰を据えて物語を展開しているのがわかります。
前半で、「スーパーマンに父性が託されているのかも?」という話をしましたが、その一方で結婚や子どもを持つなどの人生のステージを経ると、キャラクターの立場が歳を取って、より大人になっていきます。そうすると語ることのできる物語も変わっていくので抵抗を覚える人もいるでしょう(スパイダーマンに至っては結婚を解消されていますよね……)。
そうしたせめぎあいを押し切ってクラーク・ケントに子どもを持たせ、父親としての姿を描き出したのはDCにとって大きな決断であったと推測できます。こうした歴史の上で新スーパーマンとして打ち出されているジョン・ケント。彼の今後に、引き続き注目していきたいですね。
今回ご紹介した本
◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。