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【おしえて!キャプテン】#2 スコット・スナイダー作品を読み比べてみよう

この連載コラムも2回目、今回は2月18日発売予定の『ジャスティス・リーグ:破滅の凱歌』の話題から始めて、「同じクリエイターのコミックを比べる読み方」について、ご提案しようと思います。

スナイダー作品を読み解くテーマとは?

『ジャスティス・リーグ:破滅の凱歌(以下『破滅の凱歌』)は『バットマン・メタル』から始まった、スコット・スナイダーによる「ジャスティス・リーグ」シリーズのクライマックスに当たるパートです。DCコミックス伝統のチームであるジャスティス・リーグとリージョン・オブ・ドゥームの2つが、宇宙の命運を分ける原理「正義(ジャスティス)」と「破滅(ドゥーム)」それぞれのために戦うという、かつてないスケールの物語になりました。ヒーローとヴィランが戦い、お互いの主張をぶつけ合うところを描くだけではなく、哲学的理念まで目に見える形にしようとするスナイダーの発想力には恐れ入るばかりです。

ところで、『破滅の凱歌』を読んで「あれ、どこかで似たような話を読んだような……?」となった方もいるかもしれません。

昨年9月に刊行された、同じくスコット・スナイダー作の『バットマン:ラスト・ナイト・オン・アース』は、変わり果てた世界に目覚めたバットマンがジョーカーを連れて最後の冒険の冒険に出る…というストーリーでしたが、(なるべくネタバレを避けるため、具体的な描写を避けますが)作中に登場していた「投票」や「ホール・オブ・ジャスティスに押し寄せる群衆」という要素が『破滅の凱歌』にも現れてきます。どちらもスコット・スナイダーが原作を担当する作品ですが、なぜ両方の作品に同じ様な要素が入ってきたのでしょうか? その答えを出すのは読者の皆さんにお任せするべき内容ですが、アメコミを読んでいると「同じ作家による同じテーマの繰り返し」というテーマがちょくちょく現れてきます。

そうした「同じ作家による同じテーマの繰り返し」を読みとることを念頭に置き、もう一つ作品を紹介しましょう。先程紹介した『バットマン:ラスト・ナイト・オン・アース』は世界崩壊後の冒険を描く、いわゆるポスト・アポカリプス(“終末もの”とも呼ばれる、戦争や自然現象、超常現象などによって文明や人類が死に絶えた後を描くフィクションのジャンル)になりますが、実はスコット・スナイダーは過去にも一度ポスト・アポカリプス的な世界をバットマンで描いてます。それが『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街(THE NEW 52!) 』と『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街(THE NEW 52!)』です。

この2冊にわたるストーリーでは、ゴッサムを崩壊させて占拠し自分の王国を築いたリドラーと、若き日のバットマンが対決します。この「崩壊」が注目のキーワード! 大崩壊のあと外界から隔絶され荒れ果てたゴッサム・シティは、実質的に「世界崩壊後」の舞台になってるので、「ゼロイヤー」の後半部分はバットマンが活躍するポスト・アポカリプスになるわけです。

スナイダーオリジナル作品にも注目

ここでさらにDCコミックスから離れて、スコット・スナイダーのオリジナル未訳作品まで視野を広げると、さらに面白いことが見えてきます。『The Wake』という作品は前半部分が深海ホラーですが、なんと後半から水没して滅んだ世界の海を駆け巡る大冒険に切り替わります。映画『ウォーターワールド』を彷彿とさせますが、これもポスト・アポカリプスのコミックですね。現在進行中の『The Undiscovered Country』はさらに現代性が強くなっていて、世界中に恐ろしい疫病が流行ったため、国境に巨大な壁を作って孤立したアメリカ合衆国という世界を描いています。アメリカ鎖国から30年が経ち、その壁の中に入った外の世界の者たちが見たのは国家が崩壊し、変わり果てたアメリカだった……というストーリーですが、ここでもポスト・アポカリプス! こちらの方は映画化企画も進行しているそうです。

当然、スコット・スナイダーはポスト・アポカリプス以外のジャンルの作品を多数書いてますし、それぞれのストーリーも独立してるのですが、こうした「同じ作家による同じテーマの繰り返し」を念頭に読み返したり、読み比べてみるとコミックが一層面白くなると思いませんか? これを機に、気に入ったコミックスがあれば、そのクリエイターが関わってる他の作品も読んでみるのもいかがでしょうか。

そしてスコット・スナイダーとグレッグ・カプロが組んで「DCユニバースそのものが崩壊した後の世界」を描く超大作『ダークナイツ:デスメタル(仮)』は今年2021年11月刊行予定ですので、ご期待ください!  

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◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。最近の訳書に『ブラック・ウィドウ:イッツィ・ビッツィ・スパイダー』『ヴェノム・インク』『スーパーマン・スマッシュ・ザ・クラン』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。