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ドラマがもっと楽しくなる! 『シーハルク』原作コミック入門

ディズニープラスの最新ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』。この主役となるシーハルク(ジェニファー・ウォルターズ)は、ハルクことブルース・バナーのいとことして、ファンの間では比較的知名度が高いキャラクターです。今回はそんなシーハルクのコミックでの簡単な歴史と、ドラマと合わせて読んでおくと楽しい作品を紹介していきます!

文:傭兵ペンギン

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大急ぎで作られたオリジン

シーハルクがコミックに初めて登場したのは1980年の『Savage She-Hulk』#1です。当時、マーベル原作のドラマ『超人ハルク』が大人気だったのですが、同作のプロデューサー、ケネス・ジョンソンはサイボーグが主人公のドラマ『600万ドルの男』も成功させていました。ジョンソンはそのスピンオフで女性サイボーグを主人公とした『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』を生み出し、これまたヒット。そこでスタン・リーは「もしかしたら、ハルクの女性版を先に作られてしまうのでは?」と警戒し、先回りして権利を確保しておくため、大急ぎで作りだしたキャラクターがシーハルクでした。『Savage She-Hulk』最初のストーリーはこんな感じ。

指名手配犯として当局に追われていたブルース・バナーは、いとこで弁護士のジェニファー・ウォルターズのもとへ逃げ込む。ところが、ジェニファーがギャングに撃たれて重傷を負ってしまった。ジェニファーを救うため、ブルースは自分の血を輸血。なんとか一命を取り止めたものの、彼女は緑の怪物に変身する能力を得てしまい、シーハルク(女ハルク)と呼ばれるようになった。

いかにも急いで作った感じが伝わってくる、勢いのある展開ですね。これはぜひコミックでチェックしてもらいたいところ。予告などを見る限り、ドラマでは銃撃ではなく不注意による交通事故がきっかけになりそうな感じがしていますが、どうなることやら。

アベンジャーズやファンタスティック・フォーに参加

シーハルクの能力はハルクとほぼ同じ、無敵の身体と怪力の持ち主ですがハルクと比べるとパワーはやや控え目(とはいえ尋常じゃない力)。ブルースとは違いジェニファーはストーリーが進む中で、自分に自信が持てるシーハルクとしての姿を好み、基本的にはシーハルクとして日々を過ごしていくこととなります。

初登場からわずか2年でアベンジャーズの仲間入りを果たし、1984年のイベント「Secret Wars」で活躍。この時に無敵の肉体と怪力を持つヴィランのティターニアと遭遇し、以来ティターニアはシーハルクの宿敵として度々対決していくこととなります。

ちなみにティターニアは元はスーパーパワーを持って有名になることに憧れていた小柄な女性で、ドクター・ドゥームに力を与えられヴィランになったという人物。そういう点でもシーハルクの敵として興味深いキャラクターで、ドラマにも登場予定なのでどう描かれるか注目したいですね。

またこの頃にはファンタスティック・フォーの怪力ヒーロー「シング」がパワーを失っていたため、その後任となるような形でファンタスティック・フォーに加入し、活躍の幅を広げていきます。シングが復帰した後はアベンジャーズに戻るのですが、それでもチームとのつながりは深く、以降も繰り返し関わることになります。もしかしてもしかすると、ドラマでもその伏線が張られたりするかも……?

シーハルク、第四の壁を破る

シーハルクが加入した当時のファンタスティック・フォー誌を担当していたのは、ライターでアーティストのジョン・バーン。彼のもとで新たな単独シリーズとなる『The Sensational She-Hulk』誌が1989年からスタート。このシリーズでシーハルクは自身がコミックのキャラクターであると認識をし始め、第四の壁を破る形で読者に話しかけ、作者のストーリーに不満をもらしたりするコミカルなキャラクターとして描かれました。

この要素はドラマ版でも大きく使われる様子。ちなみにドラマ版の製作チームはAmazon Primeで配信されているドラマ『フリーバッグ』を参考にしたとも語っています。同作は第四の壁を破って視聴者に話しかける、頭がキレて自由奔放だけど問題を抱えた女性が主人公のドラマで、これはシーハルクにも通じるところがあり、納得のチョイス。「サプライズ・ニンジャ理論」(※)を広めて話題になったフィービー・ウォーラー=ブリッジによる驚異の傑作なので、コミック関係ないけど観ておくことをオススメしたいです。

※フィクションにおいて「そのシーンに忍者が突然乱入して戦闘になったほうが面白いようであれば、十分にいいシーンだと言えない」という理論。

『The Sensational She-Hulk』誌で一旦ジョン・バーンが離れた際にはライターのスティーブ・ガーバーが担当し、そこでは彼が生み出したいわゆる持ちキャラであるハワード・ザ・ダックと共演。バーンの時期より更に荒唐無稽な大冒険を繰り広げていくのですが、この展開がきっかけでシーハルクとハワード・ザ・ダックは以降も様々なタイミングで共演することに。ドラマでももしかすると、出てくるかも……?

ちなみに日本語版が『ハワード・ザ・ダック:アヒルの探偵物語』というタイトルで刊行されたシリーズでは、シーハルクはハワードと同じビルに事務所を開いているという設定になっていましたね。この作品はシーハルクはちょっとしか出てこないけど本当に面白く、ジョー・キノーネスのアートも最高なので、非常にオススメです。

弁護士ジェニファー・ウォルターズ

アベンジャーズやファンタスティック・フォーの一員としてヒーロー活動をしてきたシーハルクでしたが、2004年から始まった『She-Hulk』誌では法律家としての才能を買われ、フルタイムで弁護士としての活動を開始。スーパーヒーロー関連の法律問題に取り組んでいくストーリーで、ドラマもほとんど同じプロットであるようで、最も大きな影響を受けている作品だと思います。

これは後にスパイダーマン誌を10年にわたって担当することになるライターのダン・スロットが、人気法律ドラマ『アリー my Love』のスーパーヒーロー版として展開したシリーズで、シーハルクならではのコミカルなノリは残しつつ、キャラクターがこれまで抱えてきた問題にも触れ、うまいこと今までの流れを振り返っていく構造なので、シーハルク入門編としても読みやすい作品です。こちらは『シーハルク:シングル・グリーン・フィメール』という邦題で第1巻が発売中。

さらに、この続編となる第2巻も刊行予定。第2巻では、より奇妙な宇宙の法律問題に関わるようになってコミカルさが増し、ライバルであるティターニアのオリジンの振り返りもあり、よりシーハルク周辺のことを知れる内容となっています。

ちなみにダン・スロットの『She-Hulk』誌は#12で一旦終わるのですが、その後(紛らわしいことに)同タイトルの『She-Hulk』誌が2005年からスタートし、#21まで続きました。

また同じノリの作品として紹介しておきたいのが、2014年の『She-Hulk』誌。弁護士兼コミックスライターのチャールズ・ソウルによるこのシリーズでは、シーハルクが所属していた法律事務所を辞めて独立し、自分で事務所を設立します。ヘルキャット(パッツィ・ウォーカー)などちょっと変わったアシスタントを集めながら事務所に持ち込まれる難題を解決していく物語です。

同じ法律家キャラで『シー・ハルク:ザ・アトーニー』にも登場するデアデビルなども絡めた、より現代的な法律ドラマとなっていて、ハビエル・プリードによる大胆なアートも楽しい作品。個人的にはドラマはここからの要素も拾っているんじゃないかと思うのですが……果たしてどうなるか。邦訳版はまだ出ていませんが、全12号と短くまとまっているので、余裕があったらチェックしてみてほしい作品です!

一方、2022年に始まった最新の『She-Hulk』誌はヤングアダルト小説家としても人気のレインボー・ローウェルがライターのシリーズで、この直前のシリーズ(2016年)のダークな展開とは打って変わってまた明るい方向に回帰しています。ジェニファーが弁護士としてのキャリアを再開していく物語となっていて、ドラマでの注目を見込んで作られたシリーズだけに非常に読みやすいのでオススメです。

この記事の執筆中はドラマ『シー・ハルク』配信前なので、どんなドラマになるかはまったくわかりませんが、シーハルクの活躍をコミックでもチェックして、いろんな角度から彼女の魅力を味わってみてくださいね!

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。
@Sir_Motor