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長く感じない3時間半『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

ちょっといろんなことが重なって、今まで楽しかったことが、ふと、面倒になって、noteも開かなければ映画館にも行かない、そんな日々がつづきまして。でも、その代わりと言っちゃあなんですが、自分も老いれば友人も老いているらしく(のか、っていうか当然だ)、ようやく暑さが落ち着いたと思ったら途端に友人からの誘いが頻繁になり、「あれ、もしかしたら全友人と会った?」という10月も終わりに近づいて、ようやく映画館の空気が恋しくなってきたので観に行ってきました。コレ。

久しぶりの映画で3時間26分は長過ぎじゃね? と最初は躊躇したのですが、他に観たい映画もありませんでした。


第一次大戦が終わった頃、オクラホマ州の僻地に追いやられていたネイティブ・アメリカン(映画の中では時代的にインディアンと呼ばれますが)オセージ族の土地に、突如、石油が湧くわけです。
オセージ族がその利権を勝ち取り、世界一裕福な民族と呼ばれるほどになる中、一人、また一人と不審の死を遂げていきます。

これ、一応ミステリーらしいのですが犯人探しの映画ではないので、犯人はすぐに解ります。
ロバート・デニーロです。
街の権力者で、オセージ族からの信頼も厚いのですが「オセージ族と結婚して相手が亡くなると石油の利権は配偶者と子供に渡る」という法律を利用して、オセージ族から利権を奪おうと企てています。

レオナルド・ディカプリオは第一世界大戦帰りの兵士で、叔父であるロバート・デニーロを頼ってこの街にやって来ます。そして、オセージ族の女性と恋に落ちたのをデニーロに利用され、犯罪の片棒を担いでいくことになります。

このレオナルド・ディカプリオが、もう、馬鹿なの。

馬鹿だけど陽気で、浅はかな男気みたいのもあって、その上、顔も悪くないし「あの人結構良くない?コヨーテみたいじゃない?」なんてネイティブ・アメリカンジョークみたいなの繰り出しながら結婚しちゃったら、うっかり毒を盛られることになるんだから、男選びは本当に念には念を入れた方が良い。

奥さんや子供のことは愛しているし、叔父さんの言うことは絶対だし、平穏な幸せが欲しいし、お金も欲しいし、みたいなのが全部ごっちゃになってしまって場当たり的な行動をとってしまう、そんなどうしようもなく馬鹿な男をレオナルド・ディカプリオが上手に演じています。

それ以上に上手なのがロバート・デニーロで、善人ヅラの時と悪人である時の境界線が怖いくらいなめらかで、まるで自分のしていることが悪であると理解していないじゃないか、っていうくらいの根っからの悪人を演じています。デニーロはちょっと濃すぎて臭すぎてずっと苦手だったんですけどね。80歳になり白髪頭で枯れた感じに落ち着いたデニーロを、今回、初めて「素敵‥」と感じました。私、年上の男は基本的に論外なのですが。まあ、そんなことはどうでも良いか。

デニーロからの指示で、街のいろんな男たちが手を下す殺人はどれもやり方が杜撰で、それでも事件が明るみに出ないのは、地元警察も医者もデニーロの息がかかっているから。
映画の後半でオセージ族がアメリカ大統領に訴え、設立されたばかりのFBIが捜査にやってきて、ようやく事件は解明されます。

マーティン・スコセッシ監督の映画って、悪い男が出てきがちで、どこか「悪い男の美学」「悪い男の格好よさ」みたいな空気があって、男は好きだけど男のナルシズムは嫌いな私は、あまり得意ではなかったんですけど、でも、この映画に関して言えば、ディカプリオもデニーロもひたすら格好悪いです。ダサいです。

スコセッシ監督も80歳になって「いや、でも、やっぱり悪人は格好悪いし! 悪人に美学なんてないし! もっと弱者に目を向けなくちゃだし!」という気持ちになったんですかね? そうかどうかは知りませんが、私はこの映画、今までのマーティン・スコセッシ作品より断然好きです。

加えて、自然と共存してきたオセージ族の暮らしぶりや人生観、凛とした佇まいがとても美しい。タイトルの「フラワームーン」とは、花々が咲き誇る5月の満月のことですが、ネイティブ・アメリカンの風習に由来する言葉なのだそうです。

そんなわけで3時間26分。
演者の多い映画は名前が覚えられずに苦労するのですが、さすがにこれだけ時間をかけて丁寧に観せてもらえると、名前と顔が一致して、物語をよく理解することができました。
長い映画も悪くないものです。
秋ですしね。

みなさんも、良かったらぜひ。

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