見出し画像

#15 危うさのなかで思うこと

2022年3月24日。ロシアがウクライナに侵攻して、ちょうど1ヵ月が過ぎた。世界は戦争の終結を求め、国際秩序をとり戻す方向で必死に調整しようとしている。

この国にいると、一方的にロシアが悪者で、プーチン大統領は独裁者であり戦争犯罪人であるといった論調のメディアが多い。ネットの情報や、SNSの投稿を見ていると、さまざまな人たちが、それぞれの主観で、いろいろなことを言っている。飛び交う情報のなかで、ロシアとウクライナの歴史や内情をよくわかっていない僕が評論家めいたことを言ってみてもしょうがないが、一歩間違えれば新たな世界戦争につながる危うさのなかで、自分がいま個人として感じていることを記しておきたい。

僕たち人類には、「弱肉強食の動物」から「高度な社会生活を営む動物」へと変わってきた長い歴史がある。猿人から原人へと進化した人類の先祖は、狩りをしたり、遊牧や農耕をしたりしながら命をつないできた。世界の各地で文明が誕生し、古代国家が生まれると、チカラの強い者が国を治め、その存続や繁栄のために領土を広げていった。国と国の間で、しばしば領土をめぐって争いが生まれ、争いに勝ったほうが相手を支配したり富を得たりした。西洋と東洋で、さまざまな国家が誕生しては滅亡したり統合したりを繰り返してきたわけだが、昔もいまも共通する、ある「大きなチカラ」によって統治の仕組みが築かれてきたことに変わりはない。

その「大きなチカラ」とは、何か?

とても残念な答えではあるけれど、僕はそれを「経済力と軍事力」だと考えている。古代国家から中世、近世を経て近代国家へ移行してきた日本でも、明治政府は「富国強兵」をスローガンに掲げ産業の振興とともに軍備を増強し、ロシアと戦ったり、アジアの国々へ侵攻していったりした。第二次世界大戦で日本各地が焼け野原と化し敗戦国になってから、日本人の価値観は大きく変わり、アメリカの傘下に入ってリセットされたが、先の大戦からまだ80年も経っていないのだ。いま世界には250もの国と地域があって、さまざまな人びとが、それぞれの価値観をもって暮らしている。そして、その多くが軍隊を持っている。

経済力の話しについてはまた別の機会に置いておくとして、問題は、20世紀の半ば以降、僕たち人類が安心して暮らしていくために必要な自己防衛の範囲を大きく超えて軍事力を拡大してしまったところにあるのではないか。

いま世界には13,000発を上まわる核弾頭が存在すると言われている。そのうちの12,000発以上はアメリカとロシアが保有しているのだが、もはや人類は、地球上の大多数の命を、短期間のうちに滅ぼしてしまうだけの核兵器を造ってしまった。少しずつ減っているとはいえ「抑止力」と呼ぶにはあまりにも馬鹿げた数だ。第二次世界大戦後の、アメリカと旧ソ連の冷戦時代に、相手に攻撃されたら報復するとの思惑から開発競争が進んだ結果だと思われるが、優れているはずの大国のリーダーたちが、どうしてこんな選択しかできなかったのか……。

いま、目の前にある危機の元凶がプーチンだと非難することはたやすい。けれど、その脅威の背景にある核兵器は、彼が国のトップになる何代も前から造られてきたのだ。「人類を破滅させる核をなくすには、人類がいなくなるしかない」、といったパラドクスは考えたくもないが、この瞬間にも、それが現実となる可能性を秘めたまま時代は進んでいく。

テレビやネットでは連日、破壊されたウクライナの市街や、家を失って避難する人びと、泣き叫ぶ子供たち、武器も持たずにロシア軍の前に立ちはだかる一般市民のようすなどが伝えられている。映像を見るたびに心が痛む。僕がもし攻撃を受ける側の立場で、近しい人とともに生命の危機にさらされていたら、このような傍観者的コラムなど書いている余裕はないだろう。当事者となったら逃げるのか、戦うのか、ここで僕が論じたところで何の意味ももたない。

だが、ウクライナで起こっていることは、対岸の火ではない。大量の殺りく兵器がある限り、世界のどこかで戦争が起こり、それが引き金になって最後の世界大戦が起こる危険な状況は続いていく。

今回のウクライナ侵攻の一件がどんなカタチで決着するのか、いまの時点では誰にもわからない。これ以上死者が増えることなく一刻も早く停戦してほしいが、ロシアの武力に屈するカタチで収束したとすれば、火種はくすぶったままだ。ロシアの民主化がもっと進んでいたなら、海外メディアやSNSなどの声が遮断されることなくロシア国内の人びとにも届くのに……。そう思うともどかしく、無力感にさいなまれるが、民主主義の火を絶やさないためにも、小さな声を上げ続けることが重要だ。

地球上の大多数の人たちは、戦争など望んでいないだろう。であれば、一人ひとりの声は小さいかもしれないけれど、その声で世界を包み「核戦争の先には人類の滅亡しかない」、「これ以上、大量殺りく兵器を開発しようとする国や企業は世界の恥として相手にされず、何の得にもならない」、といったことを各国の共通認識にしていくしか方法がないように思う。次の世代へと希望のバトンをつないでいくことが、僕たちいまを生きるものの使命だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?